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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その15~眠っていた大魔王②~

「アッハッハッハ! この客人は面白いのぅ。お主、名はなんと申す」

「アルフィリースよ」

「ではアルフィリースよ。逆に聞くが、私が人を食べるように見えるかな?」

「見えない。だって、姿形は私たち人間と同じだもの。今のところは」

「今のところとな?」

「だって、変身とかするかもしれないじゃない」


 アルフィリースのその言葉がよほど面白かったのか、テトラポリシュカは今度こそ我慢の限界とばかりに身をよじって笑い始めた。そばにいたウィクトリエは笑いを必死にこらえていたが、テトラポリシュカはひとしきり笑い終えると、気分を落ち着けるために深呼吸を何度かして話を再開した。


「ふう、ふう。ようやく落ち着いたわ。まさか私を攻撃するのに、笑いという方法があるとはのう。大魔王であった当時にこのような方法で攻撃されておったなら、非常に危うかったかもな」

「ご冗談もほどほどに、テトラポリシュカ様」

「ふむ、私は元々冗談が好きなのだが。まあ私のことをよく知らぬわけだから、この辺できちんと自己紹介をしておくか。私はテトラポリシュカ、この北の大地に住まう人間どもの族長として祭り上げられておるが、実際のところは持ちつ持たれつの共存関係といったところだな。むしろ私の方が世話になっているともいえる。

 かつては大魔王なるものとして呼ばれたこともあるが、それは成り行きの様なものだ。私は自身にそんなつもりはなかった――ともいわんが、今となっては戦いなんぞまっぴらごめんだ。

 ちなみに私の生物としての種族は、『多目天』と呼ばれていた。今では絶滅してしまったろうが、いわゆる亜人よ。生物としては、限りなく人間に近い。よって私が人間を食らうことはまずありえぬ。どの生物でも同族食いは禁忌に等しい。あのオークたちですら、飢え死にをしても同族食いはしないからな。納得したか?」

「ええ、失礼なことを聞いたわ。でも多目天とは?」

「こういうことさ」


 テトラポリシュカが片目をつぶりながら、額の目と右掌の目をアルフィリースの方に差し出した。突然のことにアルフィリースもぎょっとしたが、すぐに冷静さを取り戻して告げた。


「・・・目がいっぱいあるってこと?」

「平たく言えばそうだ。ただ我々の場合、その多くが魔眼だ。元々魔眼という言葉が広まったのは我々の種族のせいだし、私は一族の中でも最もその力と使い方に長けていた。一族や有象無象をまとめあげて戦ううち、大魔王と呼ばれたこともある。別段人間を襲ったつもりはないんだがね。むしろ、我々相手の戦いをおっぱじめたのは人間が先だったかな」

「その話、長くなるようなら後にしてもらえませんか。ここにとどまるか否か、依頼を受けるか断るのか。まずはそれを話し会いたいと思いますが」

「せっかちなセンサーの嬢ちゃんだ。いいだろう」


 リサの辛辣な横やりに、テトラポリシュカは骨付き肉を食べていた手を止め、油のついた手をペロリと舐めた。既に目の前の大皿は、五つほどが空になっていた。そして再度アルフィリースたちを見た時の目の鋭さは、大魔王と呼ばれるにふさわしい鋭い目つきに戻っていた。


「依頼というのは他でもない。既に見たかもしれんが、ウィクトリエが現在村長をしている人間たちの村が、最近になって襲われるようになった。襲っているのは幻獣率いる獣たちだが、群れの生息圏が徐々に南下していると考えられる。原因は一つ。奴らの生息圏を脅かすような連中が出現した」

「その正体が、黒の魔術士が造る魔王だと?」

「そなたらの方が詳しいかもしれんな。だから私はクローゼスとウィクトリエの話を総合し、助けを求めることにしたのだ」


 魔王という単語を発した時のアルフィリースたちの反応を、テトラポリシュカの三つの目が鋭く捉えていた。困惑と、緊張、そして納得の表情がアルフィリースたちの顔に浮かんでいた。


「その様子では、ある程度予想の範囲内だったかな?」

「・・・まあ、なんとなくは。大魔王が眠っている土地で、氷原の魔女が手に負えなくなるほどの難題。そして私たちが呼ばれるあたり、おそらくは黒の魔術士がらみなんじゃないかなというのは、当然可能性の一つとして考えていたわ」

「だがしかし問題は、どうしてこんなところに魔王が出現したか、ってことだな」

「逆じゃねぇのか? こんなところだから、遠慮なく放し飼いにしたんだろうよ」

「なんのために?」

「そりゃあおめぇ・・・」

「実験、といったところだろうね」


 言い澱むロゼッタに、今まで黙っていたミュスカデが口を開いた。注目が一斉に集まる中、クローゼスも肯定する。


「私も同感だ。そこの知性の欠片もない炎の魔女に同意するのは癪だが、魔王を単純に合成生物キメラや使い魔のようなものとでも考えれば、その性能を試すのは誰でもするところだろう。ここには人間もいないし、真竜もほとんど出入りしない。文字通り隔絶された大地なのだから、誰かがひそかに何かをやるにはうってつけだ」

「たしかにそうだが、さて、誰のせいでこうなったんだろうねぇ?」

「・・・何が言いたい?」


 ミュスカデが皮肉めいた言い方をしたので、クローゼスの表情に嫌悪感が滲み出る。


「まだ氷原の魔女がこの大地を封じた理由を聞いていないってことさ。そこにいるテトラポリシュカが今は危険な人物でないことはわかったが、それでも当時討伐対象であったことに変わりはない。テトラポリシュカを討伐するために、どれだけの人的、資源的財産が費やされたと思う? 最終的には真竜の知恵や力の一部まで借りた我々何代か前の魔女たちは、最後の最後で氷原の魔女の裏切りにより、あと一歩のところでそのテトラポリシュカを逃したんだ。

 テトラポリシュカは氷原の魔女が封印し、責任をもって管理すると言ったが、とても納得できたものじゃなかった。だって、実態は誰も知らなかったんだからな。氷原の魔女の後継者であるあんたが知らないとは言わせない。その罰として、氷原の魔女は魔女の中でも忌み嫌われる存在となったんはずだ」

「・・・そうだな。だが言い訳はしない」

「だからその言い訳をしろって――」

「そこまでにしよう」


 ぱんぱん、とテトラポリシュカが手を叩いた。そして席を立つと、ウィクトリエに命じて別の部屋に案内するように告げた。


「氷原の魔女にも誓約がある、おいそれと語れぬこともあるだろうさ。それぞれ言いたいことも知りたいこともあるだろうが、まずは別の場所に移るとしようか。そなたたちを雇うにしても、その実力を知っておかんといかぬ。そうでなければ共に戦っても足手まといなだけだからな」

「共に、戦う?」

「何を呆けた顔をしている。我々の土地の問題なのだ。長たる私やウィクトリエが戦うのは当然だろう。そのためにわざわざ封印を強引に破ってまで起きてきたのだからな。ただ、まだ体がほぐれていないからな、腹ごなしがてらにそなたらの実力を見てみようというわけだ」

「それはつまり――」

「そう、私と戦ってもらうぞ?」


 突如の申し出にアルフィリースを含めて全員が青い顔をする中、提案をした本人であるテトラポリシュカは少女のように顔を輝かせていた。



続く

次回投稿は、2/1(日)15:00です。

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