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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その14~眠っていた大魔王①~

***


 クローゼスとウィクトリエに案内されるまま、アルフィリース達は族長――テトラポリシュカがいるという神殿まで案内された。街からさほど遠くない、だが村の北口から出ねば魔術に阻まれて場所すら知ることができない場所に、その神殿はあった。

 神殿はいつの時代の産物であろうか。既に施された装飾は崩れ落ち、文字も壁画も読めないほど荒廃していた。うらぶれた様をアルフィリースは感じたが、中を進んでいくと徐々に整えられた内装が見えてきた。どうやら最近人の手が加わって補修したらしい。


「私が多少掃除をしているのです。まあ村長代理の仕事など、それくらいですから」


 アルフィリースが察したことを、先回りするかのようにウィクトリエが説明した。そして目の前に現れた大きな扉に向けてウィクトリエが何かを唱えると、扉は触れることなく開いたのだった。


「テトラポリシュカ様、皆様をお連れに――なんと!?」


 ここまで冷静であったウィクトリエが初めて取り乱した。部屋に中には大きな氷――の中に閉じ込められた男女が一組。仲睦まじげに抱き合った姿で氷に閉じ込められたようだが、その氷が溶けかけ、地面に大きな水たまりを作っていた。

 そして何を慌てたのか、ウィクトリエは足が濡れるのも構わず氷に駆け寄っていく。


「氷が解けるのが早すぎる。まさか強引に封印を解いておられる?」

「これはいかんな」


 クローゼスが氷を溶かすのを手伝おうとしたが、その前に殷々たる声が響いてクローゼスを遮った。


「(その必要はない。もう自力で出られるぞ、若き魔女よ)」


 声が実際にしたわけではないが、念話の一種なのか。全員に聞こえた澄み渡るその声と共に、氷が一気に砕けて中の男女が崩れ落ちた。

 慌てて駆け寄ったウィクトリエが男女を支えるが、女性の方は既に意識があるのか、自力で手を付き、一息入れるとその場にすっくと立ち上がったのだ。見事な青い長髪がたなびき、水に濡れたその髪を頭を振って整えると女性は、ウィクトリエに向き合った。


「ふうー。久しぶりに出たな。何年ぶりになる?」

「47年ぶりです。予定よりも3年は早いですよ、テトラポリシュカ様」

「怒っておるのか?」

「怒っていません! それより服を着てください、衆目があります!」

「ふっ、見せて恥じるような体ではないのだがな」

「体裁というものがあるんです!」


 ぷりぷりと頬を膨らませたウィクトリエと、苦笑するテトラポリシュカ。彼女はぱちんと指を鳴らすと、周囲の水分を編んでヴェールに仕立て、それを羽織った。典雅な振る舞い、あるいは高度な魔術に、見ていた者が思わず嘆息をついた。


「お客人、まずはこのような形の招待になったことに非礼を詫びよう。その上で不躾ではあるのだが、半刻ほど時間をいただけぬかな? 私はともかく、旦那殿はこのままでは冷えて死んでしまうでな。通常ならもっと時間をかけて氷を溶かすのだが、急いだゆえに負担がかかったようなのだ」

「え、ええ。構わないわ」

「ふむ、では私も一度失礼して身なりを整えさせていただく。ウィクトリエよ、旦那殿を解放せよ。衣装と食材はあるかな?」

「はい、奥の部屋に取り揃えてございます」

「私も腹が減ったでな。話は食事を摂りながらにしよう」


 テトラポリシュカが再度指を鳴らすと、地面に浮き出た魔法陣から魔物が出現した。彼らは鎧を着こんだ騎士にも見えたが生気は全く感じられず、一定の命令式に従って動く絡繰りのようなものであると、魔術の心得のある者には理解できた。

 だが絡繰りどもは半数が動き出すとその身を崩した。テトラポリシュカがため息を盛大についた。


「前回召喚した時に点検を怠ったからの。ガタがきてもおかしくないとは思っていたが、半数が駄目か」

「面倒からと、手を抜くからです」

「そう言うな。せっかく平和な時にこのような人造の兵士を作る必要など、普通は感じまいが?」


 テトラポリシュカがぶつぶつと不満を言いながら姿を奥の部屋に消すと、鎧の絡繰りどもはそれぞれが食事の準備や部屋の清掃を始めた。どうやら小間使いのような用途に使うらしい。

 そうしてアルフィリースたちは何もすることなく待つこと半刻。ちょっとした貴族の晩餐会なみに整えられた席につくことになった。古式だが豪奢なドレスに身を包んだテトラポリシュカが、穏やかな表情でアルフィリースたちを出迎えた。


「お待たせしたな客人たちよ。さ、座られるがよかろう。今風ではないかもしれぬが、許せよ」

「とんでもない! こんな豪華な食事にありつけるなんて、贅沢だわ。それでは遠慮なく」


 アルフィリースが促されるままに座ったので、他の者もそれに倣う。既にテトラポリシュカが大魔王だと知っている者も多いが、アルフィリースが平静を保っているので、誰もがそれに倣う。もちろん警戒心までは解かないが、その点ではアルフィリースは仲間に信頼されているともいえた。

 だが食卓についたテトラポリシュカはとるものもとりあえず、猛烈な勢いで食事を始めたのだ。アルフィリースもそれに倣い、出された食事には品性を失わない程度の勢いでありついた。ぽかんとしたのは仲間たちとウィクトリエである。


「久しぶりの食事なので、遠慮なく行くぞ。そちも良い食べっぷりじゃな」

「だっておいしいもの、これ」

「このような寒冷地じゃが、育て方次第で根菜類は育つ。それに魔獣たちは肉厚で味は深い。北の海まで出れば、海の幸は取り放題じゃ。我々以外誰も手をつけぬからな」

「人間は食事の対象じゃないの、大魔王でしょう?」


 アルフィリースのその質問に場の全員がぎょっとしたが、しばし間をおいてテトラポリシュカが大笑いを始めた。内心ではらはらしていたリサなどは、そっちのけだ。



続く

次回投稿は、1/30(金)16:00です。

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