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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その12~従わぬもの②~

「・・・なんだって!? その報告、本当だろうな?」


 怒りを含んだ声を発したのはアノーマリー。その場にいる全員がぎょっとするほど、いつもの道化者の口調はなりを潜め、堪えがたい怒気に満ちた声をアノーマリーが発していた。ただごとではないことをその場の誰もが察していた。

 アノーマリーはといえば、他の者がまるで目に入らないかのごとく誰かとの念話に没頭していた。


「・・・そうか、それで・・・くそっ、そんな馬鹿な!」


 アノーマリーは醜い顔がさらに歪むことも隠さず、ローブを翻して席を立つと、脇目も振らずその場を去ろうとする。ヒドゥンが立ち上がりアノーマリーを止めようとしたが、オーランゼブルが先にアノーマリーを呼び止めた。


「アノーマリーよ、どこに行く。まだ貴様の魔王作製の報告を聞いておらぬぞ」

「・・・お師匠様、一大事にございます。この場をご容赦いただけるとありがたいのですが」

「ならぬ。私への報告が先だ」

「ならば、ボクは黒の魔術士をやめる」


 アノーマリーの言葉に、ドゥームですらぎょっとした。その発言ができるということは、オーランゼブルの精神操作の元にないことを告げたに等しい。ドゥームは思わずオーランゼブルの顔を見たが、その表情は変わらず、静かにアノーマリーを見つめていた。まるでオーランゼブルはアノーマリーの洗脳が解けていることを知っているかのようだ。あるいは、解けていても関係がなかったのか。

 オーランゼブルが鋭い声で詰問をした。まるで言葉だけで相手を刺殺しかねない鋭さである。


「アノーマリーよ、後悔はせぬか」

「しませんよ。ボクにとっての最優先事項が発生したのです。黒の魔術士として貴方の庇護下にいることより、よほど重要だ」

「そうか。除籍を許す、去るが良い」

「ありがたき幸せ」


 アノーマリーは思い出したかのように道化者のごとく大仰に礼をすると、その場を足早に去っていた。部屋の外に出たアノーマリーは一瞬で転移を使い、その場から消え去った。

 アノーマリーが去ったのを確認すると、オーランゼブルの鋭い声が他の者達に向けられた。


「ヒドゥンよ。アノーマリーが用意した魔王の数は」

「はい、計画には十分な数が揃ったかと考えます。新型である『バーサーカー』、それに投与することで人間を魔王に変化させる『エクスぺリオン』も生産は良好です。それにドラグレオの代わりとなるべきリディルの調整も終わりました。以後アノーマリーの命令下になく、魔王を統率した行動が可能になります」

「ならばアノーマリーはもはや不要だな。ティタニア」

「はい」


 オーランゼブルに呼ばれた剣帝が立ち上がる。オーランゼブルは何の感慨もなく、立ち尽くす剣帝に向けて告げた。


「アノーマリーを処分しろ。肉塊一つ残すな」

「アノーマリーが抜けた理由は探らずともよろしいので」

「理由は想像がついておる。おそらくは『生命の書』なるものに関することであろう。あれこそ幻想――私とて行き着くことのできぬ終着点よ。まさに魔法の産物だ」

「『生命の書』とはなんですか?」


 ドゥームが聞く前に、ヒドゥンが疑問を口にした。ドゥームも聞きたかったのだ。だがオーランゼブルは知らぬとばかりに首を横に振った。


「私も詳細は知らぬが、聞くところによれば、かつて至高の生命なる発想にとりつかれた錬金術師が、自らの妄想を綴った本とのことだ。そこから転じて、至高の生命を作るための設計図だと奴は説明していた。具体的にどのようなものかは知らぬが、アノーマリーは魔王の作製をその研究のためにと位置付けていたようだな。むしろ、そのためにこそ我々に協力していた」

「至高の生命? それにしては醜悪なものばかり作っていたな」

「趣味の問題でしょう~?」

「ふん。頭のおかしな者には、相応のものしか作れぬのよ」


 ヒドゥンがもはや興味はないとでも言いたげに吐き捨てた。ただその場で、ドゥームだけがアノーマリーの目標としたものを笑う気にはなれなかった。縁がなかったわけではない。別段親しかったわけでもないが、アノーマリーの執念の結実を見てみたい気持ちはあった。

 だが、既にティタニアは追撃のためにその場を去っていた。剣帝に追撃されればいかにしぶといアノーマリーとて、生き延びることはできないだろうとドゥームは確信に近い感想を抱いていた。



続く

次回投稿は、1/26(月)16:00です。

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