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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その11~従わぬもの①~

***


「では次の話題に移ろう。非公式にではあるが、討魔協会が我々に協力することになった。これで計画はまた一歩成就に近づいたことになる」

「おお、いよいよですな」


 オーランゼブルの発言にヒドゥンが感嘆の声を漏らしたが、誰もそれに続かなかった。それもそうだろう、ヒドゥン以外はほとんど計画の全容を知らされていないのだ。歓喜のしようがない。

 今オーランゼブルたち黒の魔術士は一堂に会し、話し合いを行っていた。今度は町のど真ん中の料亭を貸切り、堂々と正面から入ったのだ。もちろん、店員などは全員魔術で一時的に認識を操作し、人除けの魔術を張ってある。そして全員と言ってもドラグレオとサイレンスを除く、オーランゼブル、ヒドゥン、ティタニア、ライフレス、ドゥーム、アノーマリー、ブラディマリア、カラミティの分身までもが集まっていた。

 ヒドゥンの迎合がどこか空々しくさえある中、カラミティが発言をした。


「私も全員と話すのは久しぶりだけど、二人ほどいないのね?」

「サイレンスは死んだ。余計な相手に執念を燃やし、侮った挙句死んだのだ。間抜けな奴め」

「本当に死んだのかねぇ? あれほど執念と憎悪に燃えた奴が死ぬとはボクは考えにくいんだけどな」


 アノーマリーが疑う視線をヒドゥンとオーランゼブルに送ったが、ヒドゥンは抑揚のない声で返答した。


「そうだな、たしかに信じられないことだ。だが奴が死んだ後、確かに砦の人形達は全員塵と帰った。死んだと考えてよいだろう」

「ふふ、それならそれで構わないわ。大切なのは計画に支障がないことだものね。ローマンズランドでの仕込みは私が全て取り仕切っている。サイレンスは人形を使って人や物流の調節を行っていただけ。もう彼がいなくても問題ないわ」


 カラミティが笑う。今日も彼女は見た目だけは美しいが、金の髪に豪奢な髪飾りを指し、あでやかな衣装に身を纏った姿をしている。一目でその手の職業とわかる服装だった。


「娼姫の装いか。ターラムに潜伏しているのか?」

「ええ、ここなら何とでもできますからね。かの都市では暗いものよりも、明るいものに人は引き寄せられる。都合の悪いものは闇に葬られるのよ。闇が多少大きくなろうが、誰も気にしないわ。蓋をしてしまえばいいのですもの。

 それにしても少しずつ手駒を増やしていたのだけど、最近入ってきたドゥームの手駒のリビードゥちゃん、だったかしら。彼女は派手ねぇ。あんなんじゃすぐに目を付けられてしまうわ。ちゃんと監督できているの?」

「やり方はリビードゥに一任しているよ。それに彼女こそはターラムが本領を発揮できる場所だ。そちらが潜入していたことはボクだってあずかり知らぬことさ。文句は言わないでほしいね」

「文句は言わないわ。ただ、私の領域には手を出さないでほしいだけよ。貴女の部下が下手を打ちそうになったら、消してもいいかしら」

「ご随意に。できるものならね」


 ちり、と空気が張り詰める。その場の全員がふと感じたのだ。いつからドゥームはこれほど他の魔術士たちと対等に口を利くようになったのか。以前とは違うその態度と口調に全員が何かを考えようとした時、オーランゼブルが発言した。


「よさぬか。口喧嘩なら私の目の届かぬところでやれ。だが私闘は禁ずる。今までどおりな」

「もちろん。ボクだってカラミティ相手に喧嘩を売るほど馬鹿じゃありませんよ」

「あら、わかってるじゃない」

「無駄な喧嘩は疲れるだけだ。それくらい判断できるだけの知性は兼ね備えているつもりだよ。それよりお師匠様、次の議題は? 討魔協会の協力が取り付けられたなら、既に盤石なのでは」

「うむ。規定数は次の戦で満たされる。後は術式を発動させるだけだ。もはやこの計画を知るミーシャトレスも、計画を邪魔したアルドリュースもおらぬ。我々の勝利は目前だ」

「そうですか」


 ドゥームはあえてそれ以上は聞かなかった。オーランゼブルの精神操作の一番恐ろしい点は、疑問を抱けないこと。思考は出来る、束縛に妨げられず戦うこともできる。だが、なぜオーランゼブルの命令を聞かねばならないのかという一点に疑問を抱くことができない。そして無意識に、オーランゼブルへの敵意を抱くことも禁じられているようだった。

 ドゥームは自分の洗脳を解いた。そしてドラグレオで試そうとしてよからぬ事態になってから、まだ誰かの洗脳を解こうとはしていない。アノーマリーは自力で解いていた。ヒドゥン、カラミティ、サイレンスはわからない。ライフレス、ティタニア、ブラディマリアは洗脳下のはずだ。洗脳下の誰を暴走させても、恐ろしい事態になる。ドゥームは慎重に事を進めるべきだと考えた。

 だがそのドゥームをヒドゥンがじっと観察していたのだ。


「ドゥーム、様子がおかしいな」

「何がさ、兄弟子様。変な難癖をつけるようなら殺すよ?」

「難癖ではない、確信に近いものだ。お前が最近仕事以外でいろいろな場所をうろうろとしていることは知っているが、何をしている?」

「修行と闇化、それにボクの配下に適切な悪霊集めだよ。元々申付けられた仕事なんだけど、最適な場所を探すのにうろうろして何が悪いのさ」

「ふん、本当にそれだけならいいがな」


 ヒドゥンがドゥームをじろりと睨む。ドゥームは悟った。ヒドゥンは油断ならない人物だが、確証を持つには至っていない。ドゥームはヒドゥンの詳しい仕事内容までは知らないが、ドゥームの後をつけまわすほど時間がないことは明白であった。だがこれからはもっと慎重な行動が必要かもしれない。

 ヒドゥンに睨まれながらドゥームがそのような思考を巡らせていると、オーランゼブルがその重たい口を開いたのだ。


「ドゥームよ」

「なんでしょう」

「もう闇化はよい。以後指示があるまでおとなしくしておけ」

「・・・は? おっしゃる意味がよくわかりませんが」

「お主の悪霊を作製する過程が我々の計画に役立ってはいた。だがこれから先は必要がない。それに少々お前はやりすぎだ。計画に必要な人物たちまで殺されてしまっては、たまらんからな。次の計画が終わるまで、何もすることなくおとなしくしておれ」

「そういうことであれば、承知しました」


 ドゥームは焦燥感と怒りを押し殺しながらも即答してみせた。完全に先手を打たれた。以後ドゥームが大陸中を自由に動くことは不可能になる。また黒の魔術士たちを使用して、先のような遺跡を攻略することも難しくなるだろう。

 ドゥームが大人しく受け入れたのを見てヒドゥンはますます何かを勘ぐったようだったが、その疑問を口にする前に別の人物が突如として殺伐とした声を上げた。



続く

次回投稿は、1/24(土)16:00です。

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