表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1008/2685

封印されしもの、その9~二つの頼み~

「あまり良い予感はしないのだけど、話だけなら聞こうか」

「実は我々は今非常に困っている。この大地に最近現れた新参者のせいだ。奴らは強く、我々の牙や爪も跳ね返す。何より非常に頑丈で数が多く、倒しても倒してもきりがない。ついには住んでいた場所を追われる始末だ」

「そういえば、この洞窟もあまり君たちの匂いが強くないね。あまり長く住んでいるようには見えない。元の棲家を取り戻すのを手伝えってところかな」

「話が早くて助かる。では――」

「断る」


 レイヤーはあっさりと無表情で言い放った。そしてオロロンが反論する前に、ぴしゃりと言い放ったのだ。


「僕は今仕事の最中だ。君達の境遇には同情するが、優先すべき事柄には含まれない。自分たちで何とかするんだね」

「そうかな? お前達の仕事とやらにも無関係ではないかもしれぬ。氷原の魔女がらみなのだろう?」

「・・・どうしてそうだとわかる?」

「小僧、我らを愚図だとでも思っているのか? この数十年人間が一度も足を踏み入れたことのない土地に、人間が大挙して入ってきたのだぞ? 何かあると思うのが当然だろうが。それに先日この大地に入ってきた氷原の魔女の慌てよう。馬鹿でもわかるわ」

「それもそうか」


 レイヤーは少し考えた。まだルナティカから連絡は来ない。むろんオロロンたちとの戦いのせいでこちらのいる場所がわからなくなったとしたら、どのみち自分から連絡を付ける手段が必要になる。それに肌で感じた大氷原の気候は、知識にない自分ではどうとなるものではないことはよくわかった。ならばどのみちオロロンに力を借りる必要がある。手ぶらで合流するのも芸がないし、何か手柄が欲しいところだった。


「・・・いいだろう、話を聞こう」

「ふむ、では雪嵐が過ぎたら外に行くとしようか。それまでは体力を蓄えておくがよい」


 そういうとオロロン自身が睡眠に入った。レイヤーは予想外の事態とオロロンの安らかな寝息に一つため息をつくと、自分もまたすぐ睡眠に入ったのである。


***


 ウィクトリエと相対したアルフィリースたちは勧められるままに食事を共にし、そしてひと段落ついたところでウィクトリエが本題に入った。全員で聞くのにはさすがにウィクトリエの家も狭かったため、まずはアルフィリース、ライン、リサ、ルナティカ、ロゼッタ、ダロン、ミュスカデ、ラキアなどで話を聞くことになった。

 全員がウィクトリエの居間に集まると、それぞれ思い思いの場所に陣取る。ウィクトリエは改めて深々と礼をした。クローゼスとウィクトリエは隣同士に座っている。


「重ね重ね此の度は無理な願いを聞き届け頂き、ありがたく存じます」

「そうかしこまらないで。それに私たちは貴女ではなく、クローゼスの言葉に従ってここに来ただけよ。貴女の願いを聞き入れるかどうかはまた別問題だわ」

「確かにおっしゃる通りです。ですが、これは貴女方にも無縁の問題ではないかと存じます」

「どういうこと?」

「失礼ですが、クローゼスから貴女方――特にアルフィリース殿の事情は聴きました」


 そこまで言ってちらりとウィクトリエは他の者に視線を投げかける。アルフィリースもその意味を一瞬で察した。


「お気遣いなく。ここには事情を知る者しかいないわ」

「それでは私も遠慮なく。この土地に魔王があふれ始めました。それはひとえに、黒の魔術士の影響があると考えられます」


 ウィクトリエはずばりと言葉を切った。その思い切りのよさに、思わず全員が息をのんだのだ。ここにいるだれもがなんとなく想像していたことではあるが、面と向かって言われるとやはり、という気がする。


「それで私たちを呼んだと」

「はい。まずは発端から説明しましょう。ことの発端は既に30年近く前にさかのぼります。我々はノースシールと呼んでいるこの土地は北に幻獣、中央に私たち人間、南に巨人たちが住み、比較的すみわけがなされた平和な土地でした。我々は必要な最低限の狩りや採集だけを行い生きており、目に見えぬ縄張りや境界線では時たま諍いが起きましたが、おおよそ平和を保っていました。また気候の変動が激しいため、知識がなければ移動もままならないというのが現実だったのという側面もあります。ですからそこにいる巨人にとって、私たちというのは初めて耳にする――あるいは存在を聞いたことすらないのかもしれません」

「その通りだ。噂程度に人の姿を見たと言う者がいたが、我々は冗談だと思っていた。人間がこのような過酷な環境で生きていけるはずがないと。だがそれは驕りと無知なだけだったな。我々巨人はこの大地の北側になど分け入ったことはないのだから」


 ウィクトリエはダロンの言葉を肯定せず、微笑みだけ返した。


「南は比較的木の実などの採取物がありますからね。わずかですが農作物も収穫できますし。移動の必要も少なかったかもしれません。

 そう、我々はおおよそ平和だったのです。ですが30年ほど前から徐々に幻獣たちが中央から南の土地に出没するようになりました。本来であればユキオオカミは貴女方が抜けてきた場所に出没する種族ではありません。ここまで南下してきたのは5年ほど前のことです。当然我々とも縄張りが重複し、度々争いが起こるようになりました。幸いにして今のところ双方に大きな被害は出ていませんが」

「原因は?」

「それはわかりません。幻獣達の長とはまだ対話ができておりません。彼らは我々の話に応じないのです。お前たちの長でなければ話にならぬというのが、彼らの言い分です」

「長? ウィクトリエではないの?」


 ウィクトリエはちらりとクローゼスの方を見た。クローゼスは小さく頷き、口を開いた。


「結論からいうと、彼らが長だとみなしている存在は別にいる。だが、そうそう自由に動けるものではないのだ。だからこその私であり、お前たちだ」

「私たちに縁もない土地の幻獣たちを説得しろと? 無理な話だわ」

「アルフィの知り合いには真竜がいる――今回の遠征にも同行しているな? それも二人」

「二人? ラキアはそうだけど・・・」

「はて、リサの感知にもかかっていませんが」

「ふっふっふ、みんな気付かなかったねー」


 リサの言葉につながるように、得意げな声が響いた。すると突如として、アルフィリースの正面に、小さな影が現れた。



続く

次回投稿は、1/20(火)16:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ