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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その8~懐かしい人~

「アルフィ、久しぶりで――」

「クロー!」


 クローゼスがろくろく挨拶もしないうちに、アルフィリースはクローゼスに駆け寄って力の限り抱きしめた。リサは久しぶりにこの光景を見たなと思ったので、クローゼスの腕から力が抜け始めるまで思わず放置してしまった。

 アルフィリースから解放されたクローゼスが、冷たい空気を肺一杯に吸うはめになる。


「はーっ、はーっ! まさか出合い頭に殺されかけるとは思わなかった」

「歪みない流れからの圧殺ですね。さすが駄肉アルフィ」

「どこが駄肉か! ごめんなさね、クロー。ここまでの道程が厳しかったから、懐かしさと達成感から、つい」

「つい、で殺されてはたまったものじゃありません。それはともかく、まずは私の救援に応じてくれて嬉しく思います。積もる話や互いに疑問に思うことも多々あるでしょうが、まずは中へ」


 クローゼスはミュスカデの方をちらりと見たが、あえて何も言わず建物の中へと案内した。無意識にも火と水は反目し合うのであろうかとラーナは一瞬考えがよぎったが、口にはしなかった。

 建物の中には巨大な囲炉裏に熾された小さな火があり、中は外とは打って変わって暖かかった。構造上の問題なのかどうなのかまではアルフィリースにはわからなかったが、寒冷地の装備は必要ないほどの温度が保たれている。そしてその火の向こうには、一人の女性が座っていた。白一色のユキオオカミの毛皮と帽子を纏った若い女性は、アルフィリースたちに深々とお辞儀をした。


「ようこそおいでくださいました、イェーガーの皆様。この度氷原の魔女クローゼスと相談し、あなた方に救援をお願いした者にございます。封印の大地にある名もなき村の村長を務めております、ウィクトリエと申します。以後お見知りおきを」


 顔を上げた女性の顔を見て、アルフィリースははっとした。その深い灰色の目に、思わず吸い込まれるかと思ったからだ。バラガシュが自慢した村一番の狩人は、一見たおやかにしか見えない美しい女性だった。


***


「・・・アルフィリースたち、こないね」

「お前の仲間とやらか。確かに報告はまだ誰からもないが。どこぞの魔獣にやられたのではないか」

「魔術が使えなくてもそれはないよ。そんな弱い人間ばかりではないさ」

「だといいがな」


 アルフィリース達に休憩場所となる拠点を作製したレイヤーは、今度は一人で過ごすべく別の拠点を探していた。その際レイヤーは誰知らず、複数の魔獣と戦うことになったのである。

 血の匂いは他の魔獣をおびき寄せる。特に冬眠を控えたこの時期は食いだめに入っている魔獣が多く、血の匂いにはどの魔獣も非常に敏感だ。そんなことを知らないレイヤーは襲われるままに戦い、そして屍を積み重ねた。その中にはユキオオカミもいた。そしてこの一帯の主である、ユキオオカミの頭目オロロンを呼び寄せてしまったのだ。

 長い年月を経て幻獣とまでなったオロロンは普段は他の生物には決して害を加えず、また人間などの小さな生き物は腹の足しにもならぬため見向きもしない。だが仲間をやられたとなると話は別で、レイヤーは無数のユキオオカミに囲まれた状態で決闘を強いられた。そして三日三晩の戦いの末、ついにオロロンを屈服させたのだ。

 そして今はオロロンに招かれ、ユキオオカミの巣にいる。巣には他に狩ってきた獲物の肉が積み上げられており、人間には耐えがたい血の匂いを発していたがレイヤーには気にならなかった。オロロンがそんなレイヤーを見て、興味深そうに鼻をひくひくと動かしていた。


「それにしても不思議な人間よな。小さな体からは想像もできぬほどの力と速度、持久力。人相手の戦いで私が不覚を取ったのは、この左目をとられた時以来か」

「君から左眼を奪うなんて、すごい使い手だね。僕には無理だよ。この前の戦いでも凌ぐので精一杯だった」

「俺が不覚を取った時はもっと弱かった。今俺の爪と牙を凌げる生き物など、この大地にもそうはおらぬ。せいぜい氷竜の連中か、キバヒョウ・ヤマゾウの頭目くらいだと思っていたが。外界の人間は進歩しているのか、それともお前だけが特別か?」

「わからないよ、そんなこと」


 レイヤーは肩をすくめて見せた。謙遜でもなんでもなく、事実知らないことだったからだ。オロロンは困惑と疑問の目をレイヤーに向けたが、レイヤーは答えようがない。そして武器の点検を終えたレイヤーはすっくと立ち上がった。


「さて、行くか」

「どこに行く?」

「もちろん合流するためさ。もう随分と時間が経ったからね。さすがに仲間がこの大地に来ていると思うけど、僕がいないことでひょっとすると心配をかけるかもしれない」

「ふむ、氷原の魔女に呼ばれたのであれば、おそらくは奴らの集落に行くのだろうが・・・人間よ、一つ我らの頼みも聞いてくれぬか。俺の牙と爪と戦えると見込んでの頼みだ」


 オロロンが灰色の瞳をじっとレイヤーに向けた。レイヤーがその瞳を見ることしばし、真剣な頼みだと思ったレイヤーは嫌な予感がしながらも、オロロンの言葉を聞くことにした。



続く

次回投稿は、1/18(日)16:00です。

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