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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その7~案内人~

「どの人がアルフィリースだがや?」

「私よ」

「そかそか、おいはバラガシュ。クローゼスさんに頼まれて迎えに来たがや。多分魔術が使えなくて困っているだろうから、迎えに行ってほしいって頼まれたんでな」

「危機一髪だったわ、本当に助かった」

「なんのなんの、ほんなら案内するがや」


 バラガシュと名乗った男はアルフィリース達の先頭に立って歩き始めた。毛皮でできた衣服に身を包んだ男は、するすると雪原を歩いていく。アルフィリースたちよりも雪に体が沈んでいない分、歩く速度が相当早かった。


「お前ら歩くの遅くねぇか? 陽が沈んじまうぞ」

「あなたが速いのよ! 何かコツでもあるの?」

「無駄な動きを抑えるだけだがや。体重は均等に、重心を意識して歩く。それだけだぁ」

「そんな簡単に言われても・・・」

「ふむ、こんな感じ?」


 ルナティカがすぐにその真似をする。続いてライン、ヤオと続く。


「おお、お前さんら上手いがや」

「なるほど、体幹の力がかなり必要だな。鍛えてないと無理だ。この歩き方が常にできるなら、あんた相当鍛えてるな?」

「んにゃあ、おいはしがない狩人だがや。村一番の狩人は村長だがや」

「強いのか?」

「すんげえ強いがや。村の者が総出でもなんともならんがや」

「会ってみてぇな」

「すぐに案内するがや。それより急ぐがやよ。今日中に村に行くのは無理だとしても、休めるところまでいかねぇと夜の魔獣たちの餌食にされるがや。雪が星の光を反射して夜でも歩けるから夜でも歩けるけども、逆に敵もこちらを見つけるんだ。さっきのリーダーがおらんユキオオカミなんぞかわいいもんだがや。キバヒョウやヤマゾウが出てきたらおいじゃ追い払えんからな」

「まだ強いのがいるのかよ・・・」


 ロゼッタがげんなりしながら、足を速めていった。さすがにここに来た精鋭たちは徐々に雪原の歩き方に対応したが、暗くなる周囲に対して危機感を募らせながら歩いて行った。そしてダロンは、じっとバラガシュの背中を見つめていた。


「(おかしい・・・この雪原に人間がいたのか? ここより北はユキオオカミが大群で闊歩する地域だし、気候の変化が激しすぎて人間では生活できないはずだ。我々巨人族とて、時期が良くなければ危険だから入らない。そのような土地で暮らす者たちがいるとは、俺は聞いたことがないが・・・先ほどの笛といい、何者だ?)」


 ダロンは疑問に思いながらも口にすることなく、バラガシュの案内されるに任せてついていったのである。


***


「いやー、運がいいがや。一度も雪嵐に見舞われないとは、お前さんたちこの大地に好かれとるなぁ」

「雪嵐?」

「この雪原にはひどいと一面に竜巻と嵐が起こるだがや。そうなると危険だから、穴を掘ってやり過ごすがや。ひどいと、数日そのままだがや」

「埋まるんじゃねぇか?」

「そうだがや。ひどいと背丈三つ分は上に雪が積もるから、間にも上手いこと上に移動しないと生き埋めだがや」

「ひえええ」


 おびえた声を上げたのはユーティである。彼女は水の精霊として雪の大地には相性が良いかと思っていたのだが、ここでは水の精霊は沈静化してしまい、ほとんど役立たずの状況だった。もはや鍋の精霊としてしか扱われていないユーティの隣で、ピートフロートは笑っている。彼こそ、完全な暇つぶしに同行しているのだが、気楽なものだった。

 バラガシュに案内されること3日。途中峡谷や滑る道などを使いながら、かなりの距離を移動したアルフィリースたち。もはやダロンですら土地勘が聞かぬほど遠方に来た彼らは、ついに眼下に村を発見した。

 村は高い壁に囲まれていた。かなり広範に囲まれていたが、中には家が百前後はあるだろうか。外を歩く人の姿もちらほらと見える。


「高い壁があるぞ。あれは、雪か?」

「外敵を防ぐためだがや。人間の背丈の十倍以上はあるし『返し』もついとるから、これならユキオオカミも簡単には乗り越えれんがね。地下からも潜ってこれんように、植物が根を張り巡らせて網を作っとるがね」

「ちょっとした城塞ね。魔術には強いの?」

「魔術を使う魔物なんぞおらんがや。羽の生えとるのはおるがのう、弓で十分撃退できるでな」

「なんで俺たちは呼ばれたんだ? そりゃあこの土地に侵入しやすくはなったろうが、あの魔獣たちを撃退してこの土地を占領できるほどの軍を派遣するとなると、どの国も余裕はないと思うぞ? この大地は平穏無事にしか見えないんだが」


 ラインの質問にバラガシュは答えず、アルフィリースたちは案内されるがままに門の前まで来た。どうやって作ったものか、雪でできた門が開くと、アルフィリース達は村の中に案内された。門自体は壁に対して小さく作ってあり、アルフィリースたちは頭をぶつけそうになりながら門をくぐった。ダロンなどは肩をすぼめて四つん這いになり、ようやく門を通過できたのだ。

 通過する際、アルフィリースは壁の異変に気付いた。一部に不自然な歪みや、補修した後が見られたのだった。


「バラガシュさん、最近ここで戦いが?」

「・・・ちっとね。相談したいことも、実はそれだがや。御客人の力を借りねば、何ともならん事態だと思われるがや。さて、着いたで。あとは村長に詳しく聞いてほしいがや。願わくば、俺たちに力を貸してほしいでな」


 バラガシュはぺこりと一つお辞儀をすると、その場を去った。村を歩くと建物は全て雪の塊をくり抜いて作ったような造りだったが、案内された建物はさらに一際大きく、他の家の倍以上ありそうだった。その雪扉ががちゃりと開くと、中からは見覚えのある顔が出てきた。



続く

次回投稿は1/16(金)17:00です。

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