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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その6~氷原の魔獣達~

「アルフィ、気を付けることです。一面白の静かな世界に見えますが、生き物はたくさんいますよ」

「ええ。それにやはり精霊の気配が感じられない。すぐにここを離れた方がいいわね。ここでは氷原の魔女も連絡の取り様がないでしょうし、寒冷地の魔獣や魔物は普通の魔獣より大型で肉や毛が厚く、刃が通らない相手も多い。魔術が使えない状態では、苦戦は必死でしょう」

「わかったわ。ダロン!」


 アルフィリースは巨人の戦士を呼んだ。ここでの土地勘はダロンに一理あるだろうと踏んだのだ。


「この中には巨人の土地もあるのでしょう? 遠いかしら」

「ああ、かなり遠い。俺が走って十日かかる」

「なら我々だと倍かかるか。食料の備蓄がそこまでないわね。途中で何かを採取しながら進まないと。食料にできそうな獲物はいる?」

「いる。この時期、この場所だとスノウイーターが一番よいだろう」

「スノウイーター?」

「外界だとモグラと呼ぶな。ただしデカい、あのくらいな」


 ダロンの指さした先に、ひょっこりとモグラが顔を出していた。白一色の毛並みに、愛嬌のあるつぶらな瞳。爪は鋭そうだが、外界のモグラとそっくりだった。


「なんだ、普通のモグラじゃない」

「いえ、アルフィ。あれは・・・」

「相当デカい。俺達が十人がかりで一匹狩るぐらいだからな。こちらに気付いたな、来るぞ」


 スノウイーターが泳ぐようにしてアルフィリースたちの方へ突進してきた。最初は近くにいるのかと思っていたアルフィリースだが、スノウイーターが接近するにつれてその巨大さがわかってきた。


「へえ?」

「げ、なんだありゃ。デカいにも程があるだろう!」

「寒冷地の魔物は皆大きい。大きくないと寒さが凌げないからな。スノウイーターはそうだな、外界では家一軒と同じくらいの大きさか。一体狩れば、ひと月は食料となる」

「そういうことは先に言え!」

「大草原と同じ流れですか、やれやれ」


 ラインの言葉で一斉に傭兵たちが散開を始める。巨大なスノウイーターの突進を誰も止めることはできず、全員が転げ回りながら左右に飛び散った。ラインとルナティカだけはすれ違いざまに一撃を加えたが、あまりの肉厚に刃が通らない。


「くそったれ、脂肪が厚すぎる!」

「これじゃ、刃が油ですぐ駄目になる」

「スノウイーターの狩りは、基本首の後ろをこん棒のようなもので殴って気絶させるのだが・・・」

「そのこん棒はどこだよ!」

「ないな」


 ダロンが冷静に言い放ったので、ロゼッタが思わずその太ももを蹴りあげた。


「馬鹿かおめーは! なんで準備してねぇんだ!」

「そんなものを持って隘路を通過できるとは考えていなかった。巨人が二人がかりで運ぶようなものだからな」

「ごたくは後! エメラルド、インパルス!」

「あいっ!」

「やれやれ、こんな魔獣にボクを使うなよ・・・」


 魔剣に戻ったインパルスをエメラルドが振るう。雷撃一閃、巨大なスノウイーターも全身を焦げ付かせて、その場に倒れ込んだ。


「やったか?」

「そういうやってない、みたいなお決まりのセリフを吐くのはやめるのです、ロゼッタ。一応心臓は止まっていますがね」

「ふむ、大したものだが安心はよくない」


 ダロンの言葉に、全員が嫌な予感を覚える。


「なんだよダロン。まだ何かあるのかよ」

「スノウイーターは群れで行動する。一体見たら十体はいる。それにスノウイーターは他の動物にとっても良い得物だ。死肉を求めて、今からここにこの近辺の魔獣が集まってくるだろう。早々に退散することを勧めよう」

「だからそういうことは早く言えっていってるだろ!」

「俺もお前に何度も言うが、聞かれていなかったからな」

「全員撤収!」


 ダロンの言葉をきっかけに、アルフィリースは即座に撤収を命じた。青ざめた顔をした団員が走り出すと同時に、周囲からは何体もスノウイーターが出現する。スノウイーターがアルフィリースたちを追い立てようとする中、突如として聞こえた遠吠えにスノウイーターがびくりとし、再び雪原に潜って消えた。


「今度はなんだ!?」

「ああ、ユキオオカミだな。ふむ、これはよくないな」

「念のため聞いとくが、何がどう良くないんだ」


 ロゼッタが怒りで眉をひくひくさせながらダロンに聞いたが、ダロンは相変わらず無表情に答えた。


「ユキオオカミも群れで行動する。そして一体がスノウイーター十体に匹敵するほど強力だ」

「よくないどころか最悪じゃねぇか!」

「ふむ、あれか」


 エアリアルが遠くに見つけたユキオオカミらしき生き物は、足が六本あった。体毛は長く、地につきそうなほどの長さを誇り、白一色の姿は威厳に満ちるとともに、世界に同化していた。


「(どこか父上に似ているな)」


 そんな感想をエアリアルが抱くと同時に、はるか遠くにいたはずのユキオオカミは一瞬でエアリアルの目の前まで間合いを詰めていた。目の前に来て初めて分かったのだが、ユキオオカミは美しいながらもグロースアルムを上回る巨体を誇っていた。にも関わらず、今までアルフィリースたちが見たどの地上の生物をも上回る俊敏性であった。エアリアルが一瞬ファランクスのことを思い出して油断していたにしても、反応できたかどうか。


「あっ・・・」

「エアリー!」


 かろうじて反応したのはラインとルナティカ。だがユキオオカミの爪の方が速い。エアリアルが引き裂かれると思われた瞬間、ユキオオカミの鼻っ柱をこん棒で殴りつけた者がいた。ユキオオカミが雪にめり込み、驚いて間合いを取る。その隙にこん棒を持った男は、首にかけた笛を思いっきり鳴らしていた。ビィイイイイ、と不快な音が鳴り響き、思わず全員が耳を塞いだが、ユキオオカミは鳴き声を上げながらその場を去っていった。同時に、雪原の下にいた他のオオカミ十数頭が姿を現し、去っていく。


「いつの間に囲まれてたの・・・」

「あれがユキオオカミだ。集団で狩りをし、我々巨人以上の戦闘力と知性を有している。この大地の生態系の上位にいる連中だ」

「いやー、危なかったがな」


 ダロンが解説をしたが、その言葉をこん棒を持った男が遮った。男は明るく陽気に、はっはっはと笑って見せた。



続く

次回投稿は1/14(水)17:00です。

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