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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1004/2685

封印されしもの、その5~隔絶された大地~

***


 アルフィリースの行動は早かった。時間をかければピレボス連峰一帯は雪に閉ざされ、行軍は一層大変なものになるだろうことは予想されたからだ。だから一日でも行動は早い方がよかったのだが、既に高地は雪に閉ざされているはずだとのカザスの助言により、むしろ準備を整えて慎重に進んだ方がよいだろうと判断した。ピレボスの麓にある比較的安全の高い町でラキアが根回しした準備が整うまで数日を過ごすと、ルナティカが設営した基地へとターシャたちに荷物を運搬させながら、アルフィリースたちは登山を開始した。

 飛竜で一定の高度まで上がると、そこからは徒歩の方が安全となる。ルナティカが設営した基地はどれも安全で、彼らは踏破困難なピレボスにありながら比較的安全な休息をとることができた。冬眠前なので魔獣には凶暴になるものもいたが、選抜された精鋭たちは難なく魔獣を退けた。いつぞやグリフォンに襲われて苦戦したのが嘘のようだった。

 そして隔絶された大地に向かう隘路の前でターシャたちが用意した物資を補給し、最後の休息をとるアルフィリース一行。


「ここまでは順調ね」

「あの時ピレボスには来れなかったが、そんなに困難だったのか?」

「何度も死にかけたのですよ、ニア。ただ我々も二度目のピレボスですし、今回はエメラルドや先行するルナティカ、物資を運搬できるターシャなどがいますから前回よりは安全です」

「準備した私の功績もお忘れなく!」

「はいはい、感謝しているわよジェシア」


 ジェシアの主張に場の空気が和む。陽が落ちると外は凍えるように寒く、天幕の中にいてさえ吐く息が白むほどだが、皆の表情は明るかった。天候がここまで一度も崩れてないことも行軍を楽にした要因であろう。

 ただ、エメラルドとインパルスの表情だけが暗かった。気付いたのはフローレンシアである。


「どうした、ハルピュイアの娘。いつもと違って浮かない顔だな」

「うー、なンだかヘン」


 エメラルドが片言の言葉で返す。最近では難しい言葉以外は、日常会話程度ならこなすようになったエメラルドである。だが難しい会話は不可能であるため、インパルスが通訳することが多い。


「変、とは?」

「ああ、静かすぎるってことだね。ここはいつも風が吹き荒れる場所だから。隔絶された土地の周辺は人が寄るのを拒むように天候が変化するのさ。氷原の魔女の結界があるせいだけど、それが今はない。おそらく、結界そのものが解けているせいだろう」

「魔女の団欒で、クローゼスの師にあたる氷原の魔女が死んだと聞いたわ。そのせいかしら」

「いや、場所に張る結界なんてものは術者が死んでも早々消えはしない。中にはむしろ強まる類の術もあるだろう。ましてここは氷原の魔女が数世代に渡って守ってきた場所だ。何の理由もなしに結界が消えるなんてありえないさ」


 と、ミュスカデが否定する。そして人の姿に戻ったラキアが続けた。彼女は一度人間の姿に戻って、この行軍に合流した。これはアルフィリースが依頼したことではなかったので、アルフィリース自身が驚いているところだ。ラキア自身にも気になることがあるとは告げていたが、それが何かはアルフィリースもまだ聞いてはいない。


「それに精霊が妙に静かだわ。おそらく、結界の真上に例の空間が出現したのね」

「虚無の空間――土地が死んだと」


 ラーナが虚無の空間と呼んだのは、魔術が使えなくなる土地のこと。以前アルフィリースもそのような土地を旅したことがあるが、どうやら同じものがこの場所に出現したらしい。偶然にしては出来過ぎな気もしたが、何とも説明できないことなので誰も何も言わず夜は更けていった。どのみち、真実は進むことでしかわからないのだから。

 翌日、隘路に挑んだアルフィリースたちは、半日もかけず全員無事に隘路を突破した。ルナティカとレイヤーの作った道が、想像以上に功を奏したのである。エアリアルや天馬騎士たちも、馬ごと通過することに成功したのだ。

 そして目の前に開けた光景。その光景を目にした一同は、やはり各々感嘆を漏らしていた。


「うわー! 一面銀世界だべさ!」

「ほう。大草原は緑一色だったが、白一色というのも中々良い」

「うーん、視界に山がない分ロックハイヤーの高原より壮観かもねぇ」

「隔絶された土地か。ボクも入るのは初めてだね」

「へっへぇ。貴重な経験だな、おい」

「見渡す限り何にもねぇな。木の一本もありゃしねぇ」

「さ、寒いっ!」


 ニアとヤオ、それに獣人の何人かががたがたと震えていた。獣人の中でもネコ族である彼女たちは寒さに弱い。寒冷地用の装備でも、陽が落ちた以上は長らく一か所に留まるのは難しいだろう。ヤオも無言ではあるが、鼻水が垂れそうになっているところを見ると、相当寒さにまいってぼうっとしていると考えられる。美しい光景と裏腹に、長居は無用の危険な場所だった。

 リサがアルフィリースの袖をくいくいと引く。


「アルフィ、あちらの方向にルナが確保した基地が一つあるそうです。まずはそこへ」

「わかったわ。全員進むわよ! ミュスカデ、ラーナ。クローゼスから接触があるかもしれないわ。周囲の警戒を怠らないでちょうだい」

「了解」


 歩きは始めたアルフィリースたちだが、そっとリサとラキアがアルフィリースに寄ってくる。



続く

次回投稿も連日です。1/12(月)17:00です。

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