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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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最高教主の依頼、その4~桃色の髪の少女~


***


 場所は変わってミーシアの傭兵ギルドである。大きい街の傭兵ギルドらしく、かなりの人でごった返している。その中にある酒場でアルフィリース、アノルン、アルベルトの3人は相談をしていた。

 こういったギルドは酒場や食事処と併設されていることが多い。情報を得たかったら酒場に行くのは旅人の常識であり、傭兵も各国の情報をいち早く得るために、こういった所にたむろすることが多い。ここで晩飯がてら、めぼしい人間を探そうというわけだ。


「でも、なんでもう1人なの?」

「古来より、魔王討伐のパーティーは4人と決まっている」

「別に3人の時もあったと思うけどねぇ」

「確か最初は1人だったな・・・」

「? 何の話??」


 2人の話に、全く付いていけないアルフィリース。


「いや、確か他の場合では5人だった時もある」

「それは流動的よ。なんなら12人で1人をボコるようなのもあったわ」

「それをいうなら50人くらいなのもなかったか?」

「30人とかじゃなかった? アタシもその辺は詳しく知らないけど」

「お願いだから私にわかる話をして! それとも世間知らずな私が悪いの!?」


 そういう問題でもないだろう。アルフィリースの悲鳴に、話がころりと変わる。


「でも実際問題として、この3人は全員前衛よりだ。サポート役が1人いると便利だよ。魔術士の傭兵は稀だと思うけど、これだけ大きな街だといるかもしれない」

「え、シスターって後衛なんじゃ」

「まあそうなんだけど、現時点でアルフィよりは前衛できるかな?」

「そ、そんな・・・」


 その言葉に、アルフィリースが可哀想なくらい項垂うなだれてしまった。傭兵家業も1年近くやってきて、それなりに板についていると思っていたのだが。


「でも、勧誘はどうするの?」

「アタシに任せて」


 つつ、とアノルンが酒場にいる全員から見える場所に出る。その瞬間、彼女に当たっている照明以外が全部消えた。


「(なんで!?)」


 アルフィリースの疑問も仕方ないが、ともあれその場の全員が何事かと喧騒も止み、シスターに注目する。


「みなさん・・・私は今、とても困っています」


 シスターが潤んだ目で皆に訴えかける。今、目薬を袖に隠したような気がするが。


「私はアルネリア教会所属のシスターですが、このたび旅の共の一人が倒れてしまいました・・・しかし、教会の命令で旅を続けなければいけません。そこで私を守っていただける屈強なお方を探しているのですが、中々見つからなくて・・・もしよろしければ、この中のどなたか、私を守っていただけないでしょうか?」


 そこで涙を流して見せる。このシスター、人生で何の修行をしてきたのやら。アルフィリースからすれば「うわぁ・・・なんて猿芝居」という印象だが、ギルドにいる男達に効果は絶大だった。


「シスター! おれが守ってやるよ!!」

「何言ってやがる、てめぇじゃ無理だ!! 俺にまかせとけよ、シスター!」

「いえ、そういうことでしたらワタクシが!」

「てめぇみてえな貧相なやつじゃ守れねえよ! 恥かく前にやめときな!」

「あなたみたいな無骨者では、この繊細なシスターを傷つけるだけですよ。自重なさい!」

「なんだと、てめぇ!」


 あっという間にアノルンの仲間を巡って喧嘩が始まった。酒場の中は大乱闘である。


「(世の中の男、こんなんばっかりなのかな・・・師匠、私18にして彼氏を諦められそうです・・・)」


 喧騒の中、アルフィリースは密かに人生の絶望にその身を落としていた。だがいつまでもそうしてはいられない。乱闘の間をぬうようにアノルンの元にかけつける。


「(でも実際どうするの?)」

「(いっそこの連中が残り一人になるまで争わせて、生き残った奴つれてくか?)」

「(そんなことできるわけないでしょう?)」

「(簡単よ。『今から君達には殺し合いをしてもらいます!』でバッチリ!)」

「(詐欺の上に殺人教唆? シスターの発想じゃないわよ!)」


 もうギルドの中は無茶苦茶になっている。あまりのギルドの破壊ぶりに、受付のお姉さんが泡を吹いて気絶しそうになっていた。


「(このシスター、自分で宗教作ったほうがいいんじゃない? 世界を席巻しそうだわ)」


 などとアルフィリースが妄想している時、現実では本当に殺し合いになりそうな雰囲気が漂ってきていた。そんな時、くいくいとアルフィリースの袖を引く者がいる。


「誰? 今忙しいの」

「あんな単細胞どもでは、どちらにしても貴方達の足手まといです。連れていくなら私にしなさい?」


 振りかえるとそこに立っていたのは14、15くらいの少女であったが、アルフィリースは見るなり目を見張ってしまった。陶磁器のような白い肌に、人形のような整った顔。美しいともちろん言えるのだが、整いすぎるその容姿が逆に人間味を感じさせない。少女は実際無表情だった。加えて何より腰まである髪の色が特徴的だ。噂によれば東方には春に咲く、チェリーブロッサムという木が薄い桃色の花びらをつけるというが、彼女の髪の色をそういう風に言うのではないのか。さらに白い杖を持っているところをみると、盲目だろう。だが一番アルフィリースが感じたのは・・・


「(なんだろう・・・この子の周囲だけ空間が切り取られたみたい)」


 周囲の喧騒を無視するかのように、彼女の周りだけ静かなのだ。まるで一枚絵にかかれた肖像画から抜け出して、こちらを向いているような印象を受ける。


「あ! 危ない!!」


 彼女に向かってどこからともなく酒瓶がとんできた。アルフィリースは空中で取ろうとするが、とても間に合いそうにない。


「(ぶ、ぶつかる・・・!)」


 アルフィリースが走って駆け寄ろうとすると、ぱしっと少女が酒瓶を宙でキャッチした。そのままグビグビと飲んで・・・


「え、飲んでる??」

「ディア果汁でしたか・・・ククス果汁を期待してたのですが、咄嗟のことでわからないとは。まだまだですね、私」


 アルフィリースがよく見ると、確かに果汁の瓶だ。なぜわかったのかとアルフィリースがいぶかしんだのが表情に出ていたのか、少女がずばり反論してくる。


「貴女、まさか私が酒を飲んだと? ヤレヤレですね。16にもならないのに、酒なんて飲むはずないじゃないですか。あなた、実はバカですね?」


 そしてアルフィリースの方に向かって、無表情のまま「はんっ!」と、いかにも呆れたような仕草をしてみせる。

 アルフィリースは不意打ちに豆鉄砲を受けたような気分になった。


「(アノルンと違って口汚くはないけど、この子はとっても口が悪いんですけど・・・)」

「なるほど。貴女、探知者センサーね?」


 ぐいとアノルンが乗り出してきた。


「はい。わかりますか?」

「そりゃ盲目の子がそんな見事なキャッチしたらね。ギルドでランクもらってる?」

「一応」


 チャリ、と少女は胸元から首にかけた階級章を取り出す。階級章には、弓に矢が3本であった。


「なるほど、ランクC+か。アルフィ、アンタより上だよ」

「う、嘘。ショック・・・」


 またしてもアルフィリースが項垂れる。なんだかミーシアに来てから、彼女は項垂れっぱなしかもしれない。


「センサーで、かつその年でランクC+か・・・」

「依頼の内容は知りませんが、センサーのレベルとしては十分ではないでしょうか?」

「確かにね」

「このギルドにも腕の立つ者は確かにいますが、折悪く皆出払っています。ここにいるダッサイ男たちより、私の方がはるかにイケているのは間違いないでしょう」

「それはそうね。じゃあ貴女に決めたわ!」

「貴女とは話が合いそうです、シスター。仲良くやりましょう。ああ、そこの無駄にデッカイ女剣士、アナタは違います。アナタの場合、私に敬語を使いなさい!」


 びしっと少女に指さされるアルフィリース。


「な、なんで?」

「口答えは許しません」

「決定事項なんだ・・・」

「で、あなたの名前は?」


 アノルンが何もなかったかのように話しかける。


「これは私としたことが失礼いたしました。私、リサ=ファンドランドと申します。『リサちゃん』、とお呼び下さい」

「リサちゃんね、わかったわ。私はシスター・アノルンよ」

「よろしくお願いいたします」


 リサと名乗る少女は、アノルンに丁寧な礼をしてみせた。アルフィリースもリサに手を差し出す。


「私もよろしくね、リサちゃん。私はアルフィリースよ」

「なんですか、この手は。馴れ馴れしいにもほどがあります。アナタの場合は『リサ様』、と呼びなさい。それ以外は認めません、このデカ女」

「・・・・・・フ」

「なんで私だけー? そしてそこだけ反応するこの男もイラッとくる!」


 アルフィリースのストレスは頂点に達しかけていたが、ともあれ4人目の仲間が決まったのである。



続く


閲覧・評価・ブクマありがとうございます。筆者が泣いて喜びます。


次回は10/14(木)12:00投稿予定。

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