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翼の末裔  作者: 宗像竜子
第一話 翼
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Ending:Whisper of the Moonlight

 見上げた空には、満天の星。

 そして惜しげもなく銀色の光を地上に注ぐ、月。

 それを仰いで、彼は祈りを捧げる。月へと昇った、彼の『翼ある者』の為に。

「きれーい! つき、きれいね!!」

 かつての再現のように、幼い少女が空を見上げて歓声をあげる。

 その背には小さな小さな翼。

「あそこにいるの?」

 ちょっとだけ声を落とし、何か重大な秘密を語るような表情と口調で、年の割にませた少女が彼に尋ねる。

「…ええ、あそこにいるんですよ」

 彼は微笑み、そして頷く。

 思い出すのは、数年前に彼の前から飛び去ってしまった翼の幻影。

 数あるエフェ=メンタールの中、唯一《片翼》を定めなかった者。

 ある人は彼女を出来損ないだと噂し、ある人は特定の者を定める事が出来なかった博愛の者だと評した。

 そのどれもが間違いで、真実でない事を彼と── 彼女の後を追って月へと昇るであろう、新たな彼の主だけが知っている。

 不思議な事にこの幼い翼には、彼に降り注ぐ祈りの声が聞こえるのだという。

 そんな事は未だ嘗てなかった事だ。

 たとえエフェ=メンタールの《片翼》に選ばれた者でも、祈りの力こそは体感出来ても、そこに言葉や意味を見出す事はなかったと伝えられているからだ。

 幼い翼はそれを知って、彼に言ったものだ。


『でぃのこと、すごーくだいすきなんだね!』


 彼女が月へと昇ってから、変わり始めている事がもう一つある。

 彼のようなアジェ=メンタールへの一方的な差別の目が、少しずつ改善されつつあるのだ。

 もちろんその全てがそうではないものの、彼のように犯した罪を悔い、自らそれを背負う者に対して周囲の目は同情的なものへと変化している。

 遠い未来では、罪人に対しての意識自体が見直されるかもしれない。

 彼が犯した罪は消える事はないけれど、それによって受けた傷は確かに癒されていた。

「つきにいったら、あえるかな?」

 どうやら声が聞こえるせいか、彼女の事を姉か何かのように感じているらしく、幼い翼はそんな事を言う。

 やがてこの翼も、そう遠くはない将来、己の《片翼》を探す日が来るのだと思うと何だか不思議な感じがした。

「会ってどうなさるんですか?」

 無邪気な少女を微笑ましく思いながら尋ねると、少女は少し考えてから彼に耳を貸すような仕草をした。

 屈んで少女の視線の高さに合わせると、やがて耳元で少女が囁く。

「あったらね、でぃのところにこえがとどいてたよーっておしえてあげるの」

「…どんな声が?」

「ふふ…しりたい??」

 そう言えばどんな声が聞こえるのか、具体的には聞いた事がなかった事に気付いて問うと、少女はちょっと威張った口調で聞き返してくる。

 おそらく本当は言いたくてしょうがないのだろう。その辺りは表情と口調でよくわかったものの、彼はあえて『お願いします』と口にした。

 幼い彼の現在の主人は、彼の態度に気を良くしてか、満足した様子で頷くと、聞こえて来ると言う言葉を彼に伝えた。

「あのねえ、……」

 やがて耳にした言葉に、彼は軽く目を見開き、そしてまた天上に輝く月に目を向けた。

 彼の驚いた様子に、まるで悪戯が成功した時のように少女が笑う。

 月から降り注ぐ月光は、そこに眠る翼の祈りの具現とも言う。地上に生きる彼等の《片翼》の幸福を祈り、夢を紡ぐ翼達。その夢の── 欠片。


 ── アナタヲ・アイシテル……


 その光を浴びながら、青年と少女はしばらく黙って月を見上げていた。

 光は祈りとなって、祈りは言葉となって。やがて大地へと辿り着く。その祈りは汚れた大地を清め、傷付いた人々を癒すのだ。



 彼等は『翼を持つ者』── エフェ=メンタール。

 月に抱かれ、夢に住む、世界を守護する高貴なる存在──。

これはリア友姉妹のサイトの一周年記念に(一方的に・笑)差し上げたものを少々加筆修正したものです。

この話は献上先のサイト名「月の翼」をモチーフにしたものとなっています。

こちらの作品を献上する前に妹さんの好みを狙った作品を献上していたので、こちらは姉さんの好み、「シリアス」「悲恋(テイスト)」「状況・心理描写を細かく」を目指して書いた背景があります。

この時はその後、同一世界の話をさらに書く事になるとは思っていなかったのですが、わたし個人は普段とは少々違う書き方を楽しんでました。

当時はコメディ寄りで、会話文中心のサクサク進む話が多かったのですが、周辺描写に凝る楽しみを知ったと言いますか。

蓋を開けたら本篇部分は正味数日で完成しましたから、いかにはまって書いたかがわかろうと言うものです(笑)

今はどちらかというと、文体自体はこの作品寄りになってきているので、不思議なものです:

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