夢Ⅱ
…ここは、何処だろう。
足元に、何か大きくて黒いものがある。
あれは、何?
── ここは…月。
月?
── そう…そして、あの黒いものが、大地。
── 呪われた『獣』に蹂躙された、不浄の地。
あれが……?
あんな所に、人は暮らしているの……?
── そう…毒に蝕まれながら。
── あれでもいくらか清められた方よ。
── けれど…まだ、あんなに穢れている。
── あれが消えるまでに一体どれ程の時間がかかるのか…誰にもわからない。
どうして、あんな風になってしまったの?
── それもわからない。
── あまりにも昔の事で、もう何処にもその記録が残っていないから。
── わかっている事は、ずっとずっと昔…月の民と地上の民が生まれた頃には、まだあんな風ではなかったという事と、あれが『獣』の仕業だという事だけ。
…『獣』?
それは、生き物なの?
── さあ?
── そう呼ばれているだけで、実際は生き物ですらないのかもしれないけれど。
── 記録に残らなくても、それは随分と昔からそこにいたらしいわ。
── そしてある時、穢れを吐き出して地上はあんな風に穢れてしまった。
あれでは…死んでしまう── 何もかも…人も生き物も。
あれでは…狂ってしまう── 本来の在り方すらも。
わたしの大切な大切な── 存在も……!
── …だからわたし達がいる。
── 大事な存在を癒し慈しむ為に。
── その為にわたし達はここにいる。
…その為に?
── そう…その為に、月へとわたし達は『帰る』事を決めたの。
── 遠く離れたこの場所で、『祈り』を形とする為に。
…どうして?
地上ではどうしてそれが出来なかったの?
── 仕方がないの……。
── 地上の穢れはあまりにも強すぎて、わたし達の祈りすらも歪めてしまう。
── 穢れに染まってしまう前に、月へ帰らなければ…わたし達は……。
わたし達は……?
── わたし達は、あの穢れを受け止めてしまう。
── 理由はわからないけれど、人より耐性がある代わりなのか…祈りの力を喪ってしまうの。
── 本来は癒し、清める為の祈りは別の形に変質して、本来なら守られるべき人に向かう。
── そしてそれは呪いとなって…結果として、また地上の穢れは増す。
そんな……!
何故、そんな事に?
── それはわたし達が、月の民としてよりも地上の民としての血の方を多く持つからかもしれない。
── 人に近いから…。
── だから…。
だから?
── だからわたし達は…唯一無二の《片翼》を守る為にも、ここへ来なければならない。
── 出来るだけ、一刻も早く。
── 《片翼》が『獣』に染まってしまう前に……。
一刻も早く……?
でも、もう『月』は── 帰るべき場所は。
わたしが帰らねばならない場所は、もう、何処にも──……。