翼の末裔(2)
── 昔、昔のお話です。
まだ空に数多くの星と、『月』と呼ばれる聖地が存在した頃のこと。
地上はたいへん、たいへん、穢れた場所でした。
空にも大地にも人々を苦しめる毒が混じり、その為に実りも少なく、その僅かな実りさえも、毒を含んだ呪われた場所だったのです。
たくさんの人々が、苦しみながら必死に日々を暮らし、生き、そして死んで行きました。
一方、地上を遠く離れた『月』は、反対に清浄にして美しい場所でした。
そこに住まう人々は皆、背に大きな翼を持ち、自由に空を翔け、そしてその心は慈しみに満ちていました。
月の民は常々、地上の人々の苦しみを我が事のように考えていました。
何故なら、地上と月が生まれた時、月の民も地上の民も同じ場所から生み出されたとされていたからです。
かつて、彼等は何度も地上の民を月へと連れて行こうとしましたが、地上の民の弱い体では、天の高みにある月へ行く事など到底耐えられない事でした。
試みは何度も失敗し、そして、彼等はある時、こう考えたのです。
『あの大地の穢れを浄化さえすれば、きっと地上の人達も健康で幸福に暮らせるだろう』
それは途方もない、大掛かりな計画でした。
何故なら地上は広く、月の何倍もの大きさを秘め、しかもその穢れは一朝一夕でどうにかなるものでもなかったのです。
それでも、それは地上の民を月へと連れて行くよりは、ずっと現実的な方法でした。そうして、月の民は地上を清める為、地上へと降り立ったのです。
苦しみに喘ぐ地上の人々を救う為。
己の片割れとも言える、人々を守る為に。
…しかし、地上は彼等が思っていたよりも、ずっとずっと── 穢れた場所だったのです……。