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7話 エルフの村にオークの集団が!?

エルフの村は「エルノア」とエルフ達の間では呼ばれていた。

 村の周りには柵等の防壁は築かれていない、その代わり魔物が寄り付かないように魔法結界が張られている。

 村の内部は田畑と大きな幹の木をくり抜き加工したような家があり1軒1軒が離れた箇所にあった。

 丸太や木で出来た家屋もちらほら見えそれは来客用か会議に使用されているらしい。

 鳥のさえずりが風に乗って響き渡り、花と木の香りがくすぐるように空気に浸透しておりのどかな雰囲気が見て取れた。

 踏み荒らされた様子や破壊された後も無く平穏そのものといった空気だった。

 

 嘘だろ、おい。話が違うじゃないか…そう絶望していると「だから言ったでしょうよ」と呆れた声が聞こえたような気がしたがそんなことは知らん。

 近くの家屋に人の気配がした為耳を寄せ中の音を聞いてみる。


「はいっ王様は私~ッ。じゃあ1番が今から王様と一緒に2階で寝泊りをする~♡。」

「駄目ですこんなまだ日が高いのに…。」

「そんなこと言って~、ここは準備万端ですけど~♡」


 王様ゲームらしき事をしていた、他の家屋からも耳を澄ますと音が聞こえてくる。


「もう無理です、許して下さいッ。」

「そんなこと言って~、こっちはまだ元気そうだけど~?」

「ブ、ブヒィーーッ。」


 何だかそこら中から喘ぎ声が聞こえていた。


「おいッ!これどういう事!?どういう状況!?」


 戸惑いを隠せない、今何が起こっているのかが分からなかった。

 自分でも気づかない内にルナの胸倉を掴み前後に揺らすように振っていた。

 ルナは抵抗することなく光の無い目で言い放つ。


「どうやら数百年に1度の発情期だそうです。」


 体が砂のようにさらさらと崩れ落ちる感覚に陥った。

 隣にいたセラのケラケラと私を指さしながら腹を抱えて笑っているのだけが分かった。


 状況を整理する為にルナの家にて円卓を囲むが一触即発の空気が流れ誰も口を開かない。

 キッチンでかちゃかちゃとベオウルフが物音を立てる音が聞こえる。

 暫くルナにどういうことか説明をするようにと真剣な眼差しで訴えかけるがバツの悪そうな表情で俯き口を開かない。

 セラは薄く目を細め卓に肘を付き、口に手を当てながら声を押し殺すように笑みを浮かべがら様子を見ていた。

 ベオウルフがトレーを持ち私達の目の前にティーカップを置く。


「こちらハーブティでございます。おかわりもございますので申し付けください。」

「……何か変な物が入ってるんじゃないだろうな。」

「滅相もない、決して害となる物は入っておりませんので……。」

「何で入っていないんだッ⁉」

「ええっ⁉」


 全くこいつは何を考えているんだ、オークとしての自覚を持って欲しいものだな、こんな物を飲んで落ち着くとでも思っているのか。

 口を付けず腕を組み睨みつけていると「あらっ美味しいじゃない」とセラが感心し、ルナも何も言わずティーカップを口に運んでいた。

 ルナはともかくセラは何故今日会ったばかりのオークが出してきた物を抵抗なく口に運べるんだ。

 警戒心の無さに呆れているとオークがキッチンからカチャカチャとまた物音と共にトレーを持ち運び、


 「失礼致します。」


 と一言の後、1人1人にそっと滑らすように皿を差し出しナイフとフォークの入ったカトラリートレーを手元に置く。


「こちらは―「貴様ぁこれは何だぁ⁉」―はひぃッ!」


 何かを発していたがそれを制止するように皿に盛り付けられた物を指差し怒りを発散するように怒鳴りつける。


「食パンは分かる…だがこの大量にぶっかけている物は何だぁ⁉」

「こ、こちらはルクシル蜂の蜂蜜でございます。この森で採れた栄養価の高く甘みが際立つ物となっております。」

「この白い半分液体になっている固形物は何だぁ⁉」

「ミルダウル牛のバターでございます。」

「この上に乗っている緑の葉っぱは―「香り付けのハーブでございます。」―……むぅ。」


 これではまるでフレンチトーストの説明ではないか。

 周りを見ると目を輝かしながら美味しいと言わんばかりに口に手を当てるセラと表情を変えず食べているルナの表情が目に映る。

 再度このオークを睨みつけるように目を向けると緊張した表情が見てとれたが


「お、おいピーですよぉ。」


 と和ませようとしたのか意味不明な言葉を発する。

 舐めやがって…このオークの風上にも置けない奴を威圧しているとルナがようやく口を開き言葉を発した。


「あのぉ…いらないのでしたら…その…貰いますけど…。」

「ひょッ⁉」


 びっくりしたぁ。

 聞き取れるか分からない程の小さい声で表情や目線を変えず、このダークエルフは図々しくも今自分が食べている物と同じ物を搔っ攫おうとしたのだ。

 これがダークエルフのいやらしさか…恐ろしい物を見た、ベクトルは違うが…。


「今おかわりをご用意しますので……。」

 とキッチンに戻るオークにセラが「私のも!」と言い放ちそれに頷く。

 その手際の良さに対し眉間に皺を寄せながらこの家あいつの家じゃないよなぁ、等と考えているとルナがようやく何があったか話し始めた。


「1か月ほど前でした。前触れも無く村の村長を筆頭に女性エルフの顔が赤く紅潮しているかと思えばトロンと目がおちるような恍惚とした表情になっていたんです。そしてその夜に男エルフが1人襲われました。襲われたエルフの名はレイリスと言い村一番の働き者だったんです。情に厚く誰からも信頼されて………。」


 それから今日まで何があったかを説明を受けた。

 約3時間。長々と。ノンストップで。

 途中に自分の出生時は難産だったやら何千年前の大戦云々の歴史の話をしていた気がしたが知らん。

 隣にいたセラはいつの間にか席を外しておりあのオークにハーブの見分け方やお茶の作り方を教わっていた。

 一度抜け出そうと思ったがセラに


「報告書に必要でしょ責任もって聞きなさい。」


 と言われ話し終えるまで立つことが許されなかった。

 

 ルナの話を要約すると数百年ぶりに発情期に入った女エルフから逃げ出した男エルフ達がオークの集落に行き、女エルフ達を助けてやって欲しいと族長に頼み込んだらしい。

 魔物に襲われたと勘違いした族長が少数精鋭で部隊(約30体)を派遣し、10日程前に村に辿り着いたが魔物はおらず女エルフ達に手厚く歓迎された。

 そして訳の分からないままにオークたちは誘惑をされ今の状況に至るといったことだった。

 部隊長のベオウルフはエルフの誘惑を拒み続け近付く者を威圧し寄せ付けなかったが、それ以外のオークは耐えられなかったらしい、意気消沈していたベオウルフを見てルナがこの家に住ませているとのこと。

 ルナも3日程前まではダークエルフではなく見た目も普通のエルフだったらしい。

  話し終えたルナは目に涙を浮かべている、エルフと言えど見た目にはまだ幼さが残っていた。


「良かったら使ってくれ。」


 そっと声を掛け慰める様にハンカチを取り出しルナに手渡す。


「ありがとうございます。」

 

 と言って受け取り―ブビビブゥッッ!と音を鳴らしながら鼻をかみ私に返した。

 いや使い方…。驚きを隠せないまま口が開きっぱなしの私に対して


「どうしました?」


 と首を傾げるルナ。悪意が無い事だけは分かった、それ以外の事は分からなくなったが何とか平静を保つ。


「……では何故ダークエルフになってしまったんだ?あのオークにとんでもない鬼畜プレイをされたんじゃないのか?」

「まぁ…それは今日ここで寝泊りすれば理由は分かるかもです……。」


 外を見るともう日は沈みかけており空は夕暮れに染まりじきに夜の帳が下りようとしていた。


「おーいもうすぐ料理できるからテーブルの物片づけて頂戴、さっきも思ったけどこのベオの作る料理めちゃくちゃ美味しいわ。」

「お口に合ったようで良かったです。」


 あの人に心を開かないセラが愛称で呼んでいる⁉

 動揺が隠せなかった。

 このオークは一体セラに何をしたのか想像がつかない……、とりあえず落ち着きを取り戻す為に冷え切ってしまったハーブティを飲む。

 舌の上でふわりと広がるのは、ほのかな甘みと微かな渋み。

 まるで草原に吹く風を感じる。

 その一杯には、華やかさも、静けさも、癒しもすべて詰まっている、そう思わせるような……、今まで飲んできた物の中で一番……いや、そんなはずが無いと心の中で何度も唱えながら冷えたフレンチトーストを口に運ぶ。

 時間が経ちしっとりとしたパン生地に蜂蜜とバターが染み込んでいる。

 噛む度に甘さとバターのコクが口一杯に広がりバニラとバターの香りが鼻を突き抜けていった。

 恐らく出来立てはサクサクのパン生地と蜜の相性が引き立たせていただろう、

 だが時間が経つことによって2つ、3つの素材が混じり合い1つの食べ物に変換されており、時間が経っても美味しさが保たれていた。

 気付けば私は涙を流していた、この約3時間苦痛だった、話の半分以上が理解できず、体を形成している物質の全てが空気と混じっているのかと錯覚するように意味の無い話が続いていた。

 村全体を焼き払ってしまおうかと思う程に淀んでいた心の奥を包み込んでくれるかのような優しさが広がる、痛みや悲しみではなく安堵による涙。

 昔に力の加減を間違えて殴り飛ばしてしまった現隊長のゼルガが3日間生死を彷徨った末に目を覚ましたあの時の感覚に似ている気がする。

 危うく殺人の罪に問われてしまうのではないかと涙したあの時と…。

  目に涙が溜まってきた。

 今まで知らず知らずの内に他の種族を偏見で見下してしまっていたのかもしれないと己の不明を恥じていると


「あの……これ良かったら使って下さい。」


 ルナがそう言いながら自分の使用済みのテーブルナプキンを手渡してきた。

 こいつ正気か……。

 いや、文化の違いというのは種族や生まれた場所、信仰によって異なる物だ。

 自分達が当たり前のように行っていることも他の者からしたらありえないことであったり、場合によっては侮辱しているように捉えられてしまう事がある。

 他種族との共存をする上ではお互いのことを良く知り肯定することから始まるというのがグレイシア王国で過ごし学んだ私なりの答えだった。

 驚きに体が固まってしまったが平常心を保ちキリッとした表情でナプキンを受け取る。


「……すまない、ありがたく使わせて頂く。」


 そう言って涙を拭き取ったがすぐにまた零れ落ちていった。

 その涙の理由は何か分からなかった。

 エルフにそのような文化は無いと知ったのは後日である。

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