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4話 初めては誰だって緊張するもの…

「で、アンタここで何してんのよ」


 ハァとため息を尽きながらジトっとした目で呆れていた金髪シスターの元へと私は来ていた。


「いやぁ集会場にパーティを募集しているんだけど誰も拾ってくれなくて…声をかけても即答で拒否されちゃって…」

「1人で行ってくればいいじゃない、ほら夢だったんでしょゴブリンの巣穴に入るのが。」

「何でそんなひどいこと言うの⁉後それは夢では無いですぅ。」

 

 まぁ入りたいのは間違いではないのだが…。

 このショートカットの金髪シスターの名はセラフィーナ=ヴァルティア。

 私はセラと呼んでおり、赤く鋭い切れ長のつり目は常に何かを睨みつけているように見える。

 その表情にはシスターとしての温もりと包容を感じさせることは無く慈愛に満ちているとは口が裂けても言えなかった。

 微笑んだ姿はまるで獲物を仕留めた虎のように赤い瞳が光り自身の自負と愉悦を表している。

 背筋をピンと張った姿は装飾的な丸みを拒んだかのように、無駄のない直線と引き締まった輪郭で成り立っていた。

 いわゆる「女性的な柔らかさ」と呼ばれるものが、そこにはなかったが凛とした空気をまとう姿は、まるで鋼でできた意志の象徴のようだった。


 「てめぇ今私の胸を馬鹿にしたか?あ"んっ?」


 肘を机につき指を絡ませたままその上に顎を置き顔をグイッ近付けてきた。

 上目遣いでこちらを見ているその顔は恐らく私を含め誰が見てもドキッとする表情だった。

 背筋が凍り脈拍が早くなる、何故バレてしまったのか、まるで証拠があがり尋問されている犯罪者の気分である。


「胸の大きさ何て傍から見たらどうでも―「パンッ」あひぃっ。」


 ビンタをされた…ヒリヒリと熱が残っていたがまるで何も無かったかのように暴力シスターは話を続けた。


「まぁアンタの顔はこの国に知れ渡ってるからねぇ、大怪我なんてさせてしまった日には死刑にされかねないもんね。」

「むぅ、寧ろどんと来い!って感じなんだけどね。」

「だから1人で行って来いって言ってんでしょうよ、もう1ヵ月になるから!ここに入り浸ってるの。」

「いや初めてのクエストを1人で行くのは無理だろ…、どんな所か分からないし怖いし……。」

「いやあんた元騎士団長でしょ⁉初めていく飲食店みたいなもんよ、入ってみたらきっとアットホームよ。」

「そんなゴブリンの巣穴嫌何だけど……、なぁお願いだ一緒に来てくれ。」

「嫌よ、こちとら宗教勧誘で金を巻き上げるのに忙しいんだから。」


 何てことをぶっちゃけるんだこいつは……。

 以前にセラが「あ~ミサめんどくせぇ、金だけ置いて10秒くらいで帰ってくれねぇかなぁ。」と言っていたのを思い出した。


「いやほら、遅々(ちち)として進まないからさぁ―「乳⁉」…遅々(ちち)です。」


 いちいち目を見開いて見てこないで欲しい…怖いからマジで。

 そうこうしているうちにまた1日が終えてしまうと思っていたがノックをした後に1人の少女が入ってきた。


「紅茶が入りました~、お姉さま少しお話を聞いて上げてはどうでしょうか?」

 ノエル=ヴァルティア。

 肩まで伸ばした手入れの行き通った淡い金髪とどこか大人びた余裕のある赤い瞳をした12歳の気立ての優しい少女は困っている人を見つけるとすぐに手を差し伸べる。

 まるで陽だまりのような存在であり、まだ幼いその姿の中に、誰もが忘れていた“まっすぐなやさしさ”が宿っていた。

 よく風邪を引き寝込んでしまうことはあるが貧弱という訳では無い、線の細い身体は儚げさをさらに強調し守りたい庇護欲を掻き立てられるものだった。

 欠点と呼ばれるものは見当たらないが強いて言うのであれば少女の下半身には男に有って女には無い物が生えているという事。

 まぁそんな事はどうでもいいか……。


「いつもありがとうね~、ノエルの頼みだったらお姉ちゃん何でも聞いちゃうわよ。」

 

 ぎゅっと抱き寄せ頬ずりをしていた、少しばかり溺愛し過ぎでは無いかと思うところもあるが、まぁ分からなくも無い。


「お前は本当に姉とは違っていい子だなぁ。元気そうな姿を見れて嬉しいぞ。」

「はぅ……。」


 逆側から同じ様に抱きしめると顔を真っ赤にして俯いた、からかい甲斐がある可愛い子だなぁと思いを巡らせる。


「じゃあ今回だけ特別に一緒に付いて行ってあげるわよ、めんどくさいけど…。」

「よし来た、これを飲んだらすぐ行くぞ。」

「まず放してくだしゃぃ~。」


 紅茶を一気に飲み干し早く行こうと言わんばかりにセラを急かす。

 だがセラはゆっくりと紅茶を嗜んでおり一口飲むごとに目に涙を浮かべ、うんうん頷いていた。

 結局その場から立ち上がるのに30分掛かった。


 クエスト集会場。

 2階は宿屋、地下には酒場が連なっており1日中冒険者や町人達が入り浸っている。

 地下は吹き抜けとなっており大声で笑う男たち、店の奥でカードを広げている年寄りたち、カウンターでは疲れた旅人がひとりグラスを傾けているのが目に見えた。

 セラは待機室の片隅にあるカウンターに腰を下ろし気だるそうな表情で頬杖を付く。


「さっさと選んで来なさいな。1日で終えるものにしてよね。」

「あぁ任せろ、とっておきな物を選んでくるからな!」


 そう言って目を輝かせるように掲示板と案内嬢の元へと駆け出した。

 そしてこれは後程その光景を見ていた者から伝えられた出来事である。


 私がカウンターから席を立ってから1分も経たないうちに他のパーティらしき人物が続々とセラをパーティにと勧誘に来た。

 クエストにおいてヒーラーは希少で重宝する、回復や補助魔法を使える者はいるだけでパーティ全体の生存率を上げることが出来る。後衛が機能することで前衛が迷いなく敵に飛び込んで行くことが出来るからだ。

 聖職者の風貌をし容姿も良ければとりあえず声をかけるのは冒険者からしたら当たり前の事と言える。

 だがセラは話しかけられても顔を向けることも無く無視をする。

 しつこく話しかけて来るようであればそのまま目を合わせること無く中指を立てて追い返していった。

 しかしそれに腹を立てて因縁をつけて来る者もいた。


「おいおい姉ちゃん、舐めた真似してくれるじゃぁねぇか、えぇおい!」

「………。」


 厳つい顔をしたリーダーらしき巨漢の男が大声を出しながら近づき、後ろに並ぶよう3人の取り巻きが立っていた。

 辺りにはさっきまでのざわつきが治まり静寂が訪れる。


「聞いてんのか⁉てめうぼぉおおッ!」

「「「……えぇえええええッ⁉」」」


 取り巻きは一体何が起きたのか分からなかった。

 話している途中で巨漢の男が真上に吹き飛び天井に上半身が突き刺さる。

 昼から盛っていたのか若い男女の叫び声が2階から木霊した。

 プライベートの空間に床から急に口から血を吐きながら気を失っている大男の顔だけが飛び出してきたら無理もないとは思うが…。


「汚ぇ顔を近付けられたら不愉快にもなると思わない?なぁおい。」


 睨みつけるように見えた細めた目を取り巻き達に向ける。


「「「すっ、すみませんしたぁ!」」」

 

巨漢の男を助けることなく取り巻き達は集会場から走り去っていく。


「あれ、こんなオブジェ前からあったっけ?」


 私は素っ頓狂な表情をしてカウンターに戻っていた。

 今思うと下半身が天井に突き刺さったオブジェなどあってたまるかと思うが当時は何も思わなかった。

 なんせそれよりも重要な事で頭が一杯だったからな!


「そんな事より見ろ!このクエストを受けるぞ!」


 ハァハァと漏れ出る呼吸を荒げながらその用紙を見せてつけた。


「シベリアの森のあるエルフの村の調査?あんたにしては何だか普通ね。」

 

 内容はエルフの村の村長から報告書の受け取り。

 村の様子や近隣に何か変わった事が無いか、必要な物品や魔物の討伐依頼の申請が魔法で記載された報告書を持ち帰りクエスト集会場に提出するといった内容。

 

 セラは拍子抜けといった表情をしていた。

 だが瞬時に怪訝な表情を見せる、私の興奮した顔が何か引っ掛かったらしい。

 セラが何かを言いだそうとするがそれよりも先に見て欲しい箇所を口に出す。


 「ここをよく見ろ!【3日程前からオークの集団が出入りするのを目撃している為エルフとの関係性を報告されたし】と書いているだろ!」

 

 オーク―大柄な体格に、厚い筋肉と灰緑色の皮膚。

 顔には獣のような鼻梁と牙を備えており知能は低いがここ数年でハイオークに進化した者が多く現れ言葉も流暢に話すことが出来る。

 市民権も獲得し冒険者の仲間や土木作業では非常に戦力になっていると聞く、王都内でも見かけることは多く威圧感こそあれど他の人間と比べると頼り甲斐のある風貌ではある。

 

「まぁちらっとだけ見て見たまんまを報告したらいいんじゃないの?」

「馬鹿か貴様は!エルフの村にオークの集団が来てしまったらすることは1つだろ、蹂躙(じゅうりん)だ。恐らく必死に抵抗したエルフたちだが数の暴力の前では無力だったのだろう、村は酒池肉林(しゅちにくりん)と化し凌辱の数々…このクエストはきっと何とか逃げ延びたエルフの助けの呼び声に違いない!」


 違いないんだと何度も頷く私に苛立ちを覚えたのかセラが面倒臭そうに答える。


「そんな重大な事が起きたら普通騎士団が動くでしょうよ。」

「すぐに動けるのが冒険者の特権だからな、あいつらは動くにしても準備を期してから動くので時間が掛かるんだ。」

「それだったら緊急クエストとかにするわよ、クエストの掲載日を見たら1週間前じゃない、少なくとも10日前からオークが村を出入りしていると思うけど?」

「豚共の性欲を甘く見るな!1年中発情しているような奴らだぞ、今もなお助けを求めているに違いないんだ。」

「それこそ騎士団のように軍隊で出向く必要があ―「うるさぁあああい!」……。」

「助けを求める者に手を差し伸べず騎士を語れるかッ!仮にもしエルフとオークが和気藹々(わきあいあい)としていたら私がそこを血の海に変えてやる!」

 

 もう何を言っても無駄だと悟ったのか、セラは旧知の仲であるにも拘らず私を睨みつけながらギリッと歯軋りをして握り拳を震わせている。

 おいおい……、その拳をどうしようというのかね……。

「もういいわ、じゃあさっさと行くわよ。」

「ああ、準備が出来たら城門前で待っててくれ。」

そう言って2人は一旦別れ集会場を後にした。

 天井の請求書は後にオブジェとなっていた大男に請求されたらしい。男は膨れ上がった顎に大粒の涙が滴り落ち小さく嗚咽を漏らしていた。

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