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28話 決死の一撃

――あ、あぁ……。 

 ここでエリュドが全てを察し震え上がる。

 この女が何をしようとしているのか……。

 魔力が尽きるまでこの拷問を繰り返すのではないかと…。

 恐らく話そうとすると喉を潰される、死んだとしても生き返らせるのだろう。

 絶望。先程戦った兵士達が羨ましくさえ思った。

 死ねるだなんて…しかも即死、痛みを感じる暇なく…。エリュドの精神が…心が死んでいく…。

 痛覚が麻痺するなんてことは無い。

 神経もまた元に戻るのだから。この痛みに対して脳は拒絶することを許さなかった。10本の指を潰すと回復。そして潰すの繰り返し…。

 身体は絶えることの出来ない痛みや精神的な許容量を遥かに超えてしまった場合心臓が止まりがショック死をすることもあると聞く、その希望に一瞬でも縋る程に思考もやつれる。

 そしてこの女は生き返らせることが出来るという絶望に…終わることの無い痛みの支配に…ゆっくりと溺れていく……。

 もう何周目か分からない程の拷問が続き、エリュドは声を上げる事が無くなった。

 それほどまでに…、エリュドは諦めの境地に至ろうとする。

 国を滅ぼそうなど考えなければよかった……、魔王様の言う通り大人しくしておけばよかった……、

 痛みの無い世界が何より幸せだった……。只々後悔が脳を過てゆく。


「もう……もう止めてくれぇ!それ以上はッ!」


 1体のコボルトが前に出る。名はジッカ。

 戦闘力はこの精鋭隊の中でも最下位を競い何故入れてるのかさえ分からない落ちこぼれ。

 だが日頃のひたむきな鍛錬と強くなりたいと願う志のある若者。

 それだけの理由でエリュドは精鋭隊に加えたのだった。

 チラッとシスターが一瞬だけ目をそちらに向け手をぶらんと降ろす。


「止めろ……来るんじゃない……。」


 掠れた微弱な声。何故そのような言葉が出たのかはエリュドにも分からない。

 だがその聞こえない程の囁くような声は誰の耳のも届かない。


「うわぁああああッ!」


 長槍を両手に持ち走り出す。誰も彼を止めようとしない。

 皆が金縛りに遭っているかのように身体が、口が動かなかったのだ。

 ドシュッ! 3m程離れた距離。当然その長槍がシスターに届く事無くジッカの腹部に風穴が生まれる。

 シスターは目もくれずに目には見えないリングから追い出すようにコボルトを投げ飛ばした。

 また1人の死者が出てしまう。

 震えておぼつかない足、怯え泣きながら決死に向かう表情、死ぬと分かっていながらも立ち向かう意志の強さ。

 それはエリュドが今まで引き起こした戦争の中で何度も見てきた敵兵の姿だった。

 当時は何を無駄な事をしているんだと笑いながら一蹴していたが今なら分かる。

 その勇気が……逞しさが……心強さが……。

 彼の死が無駄と言わせないように…ここで死んでいった仲間達の存在が無意味だったと思わないように。 

 沸々とエリュドの心の中で何かが煮え上がってくる。

 勝利を諦め完全に死んでいたエリュドの心が…消火しきっていた闘争心が再び点火する。


「グゥォオオオオオオオッ!!」


 ―咆哮と共に胸が白く光る。

 最初に見せたブレスを吐き出す為の予備動作。だがそれは初撃で失敗に終わっている。

 そのことは光線を放ったエリュド自身が一番分かっていた。


(…⁉ 腕が僅かだが動く!)


 回復の量を見誤ったか、あるいは体の内部の事が分からなかったのか、片腕のみ痛みは走るが動かすことが出来る。

 だが牙も爪までは生え揃っていない。

 それでもエリュドはこの好機を逃す訳にはいかなかった。

 下を見ると地面に落ちていた物が目に入る。

 ―折られた自身の牙。

 それを手に取りシスターへ…ではなく自身の胸に突き刺す。

 何度も…何度も。

 何をしているんだと怪訝な表情を見せるシスターはエリュドに近付こうとはせずその場を動かなかった。

 胸が光っている以上万が一に備える。

 持っていた牙を投げ捨て大きく開いた胴体に片腕を突っ込む。そしてそこから何かを取り出した。


「……共に……散れ!」


 成功するかも分からない、不発に終わるかも知れない、だがエリュドは一か八かに賭け火炎袋を体内から引きずり出し魔力を込める。

 ―結果。

 ―ドゴォオオンッ!と爆発が起きた。

 エリュドを中心としその周りの木々は吹き飛ぶ。離れた箇所から見守っていた精鋭隊ですらその爆風に巻き込まれ身体が投げ飛ばされた。

 【竜核爆破(ドラグブラスト)

 竜の核、あるいはその依り代となる物を生贄に爆発を引き起こす。

 爆発を引き起こした白竜の姿は燃え尽きたように真っ黒い灰と化していた。

 当然命の灯が残っている訳も無く絶命…。


(私は一矢報いることが出来たのだろうか…、仲間達は…あれから帰ることが出来たのだろうか…)

 

 ここがどこか?この意識は何なのか?フワッと浮いているような感覚、見渡しても真っ暗な空間で自分以外は何も見えない。

 だが。――ポゥ…。ゆっくりと身体が暖かい光に包まれる。

 それは慈愛のような心地良い光。

 それは初めてでは無いどこかで経験したことのある感覚。

 辺り一面の暗さが鮮明に眼に映り出した。そして…。


「よう、生きてっか?あ”?」


 瞼を開け一番最初に見えたのは一番目にしたくなかった顔。

 ボロボロになりながらも目を細めながらこちらを覗き見るシスターの顔が映り込む。

 ――三度の再開。

 硬直した身体がその顔から目を背けることを許さなかった。

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