25話 虐殺
「竜兵前へ!」
威圧感のある声が響く。
するとシスターの前に5人の鎧を着た男達が立ちはだかる。
そして身体が光りみるみると4~5mの竜へと変身する。
「あら、綺麗な目。もしかして高く売れたりする?」
立ち止まり首を傾げるシスターに答える事無く遠慮無しに火炎袋から咆哮と共に炎を吹き出した。
吹いた5、6秒の間でシスターの立っていた地面は熱に溶け、辺りが熱気と煙で曇る。
ドラゴンがブレスを吹き終えると同時に端にいたドラゴンが声を上げることなく――ドシャッ!と大きな音を立てて沈み込む。
そして息絶えたのか人の姿へと戻り――頭部が破壊されていた。その隣にはシスターが座っている。
「あぁ、目は元の大きさに戻るのね、でも水晶に見えなくも…あぁ駄目だわ、ぶよぶよして気持ち悪い。」
そう言って手にあった目玉を地に捨てる。こちらを見ることも無く――。
「ギァアオオオオォンッ!」
その隣にいたドラゴンが激昂し吠えると共に太い腕で圧し潰す。
だが潰した手応えは返ってこない。
「うっさいわねぇ!」
ただ一言。そして――ドゴォンッと轟音。
聞こえた瞬間に何百倍の重力を得たかのように顎が地面に叩きつけられ倒れ伏す。
上顎が圧し潰され上顎の牙は下顎に、下顎の牙は上顎を貫いた。
その叩きつけられた力により伸びきっていた首はてこの原理によりたやすくへし折られている。
1体のドラゴンが横を向き再度ブレスを吐く為大きく息を吸い込む。
そしてブレスを吐き出す為に一瞬上を向いた際に
「これなぁに?」
露になった顎の下辺りにある逆鱗に鋭く重い1撃が叩き込まれる。
逆鱗を破壊されドラゴンの目の光が消える。
上を向いたままブレスを微かに吐き出し首を回しながら倒れる。
人の姿に戻った男の顎から首の8割が抉るように破壊されていた。
「ガァアアアアアッ!」
一心不乱にその場を薙ぎ払うようにドラゴンがシスター目がけて体当たりをする。
なりふり構わない、どうすればいいのか分からないといったがむしゃらで情けの無い攻撃だった。
周りで見ている兵達にも当たる筈が無いことが見て取れる攻撃。
先程の咆哮が泣き叫んだだけに聞こえるように目には涙を浮かべる…勇敢?無謀?ただ戦士としての最期を遂げようとしたのか――。
「フフッ。」
シスターが笑う。
一体何に対してなのか――その場にいた誰もが分からなかった。
がむしゃらな攻撃を行ったドラゴンの頭の側面に1撃を与える。
意識を失ったのか、それとも死んだのか、ぐらっと1人離れた箇所で倒れ込んだ。
まさか体格差のあるドラゴンがこんな一瞬で手も足も出ずやられてしまうなんて戦う前に誰が思っただろうか。
後一体。ドラゴンと目を合わせ近付く。
コツコツと死ぬ時を待つように古時計の針音のような乾いた靴の足音が近付いてきた。
身動き取れずにいたドラゴンは人の姿に戻り両膝と手を付け泣きじゃくりながら地に顔を付ける。
「どうか!どうかお救い下さい!命だけは!あなたの為になら何でもします!何でも差し上げます!どうかお慈悲を!」
うぉおお!と泣きながら命乞いを行う。
プライドも地位も全てを投げ出し命だけは奪わないで欲しいと…僅かな希望に手を伸ばす。
「………。顔を上げなさいな。」
目の前に立っているであろうシスターが小さい声で呟く。
許して貰えたのだろうか…淡い期待に顔を上げた瞬間ッ――。
顎を蹴り上げられ男の首から上のみが遥か後方へ流血しながら吹き飛んだ。
「掬い上げました。なんちて。」
その光景を見ていた精鋭隊が絶望した。
赤く血に染まり白かった修道服を着た女に、慈悲なく笑うその姿に、息を上げずにゆっくりとこちらへ歩く姿に。
まだたった20分も経っていないにも関わらず1000体以上の兵士が、何も分からないままに、突破口を見出すことが出来ずに、ただ殺された。
まだ3~4000の兵がいるというのにそのほとんどが足を竦ませ動けずにいた。
勝利の為であれば命を賭すことは厭わない。
だが目の前で繰り広げられているのは――、一方的な虐殺。
死んでいった仲間達が一体何を残してくれたのか、このまま立ち向かっても意味も無く殺される。
死への恐怖。
犠牲の為の死、背後や隙を取られ殺される、人質になってしまった為に自害する、戦争での死は如何なる物であっても部隊が前に進める為なら誇らしい物だと考えていた。
――だが今この場においての死は何も為さない。
――意味を為さない。
ここで自分が死ぬことによって他の者が助かることは無い。
――無駄死。
その恐怖から逃げる様に兵士達は後退する。
だが、結界が張られている為その空間から逃げ出すことが出来ない。
そしてその結界を張った者は……。
「うわぁあああッ!誰か助けてくれぇ!」
泣き叫ぶ声が辺りから聞こえてくる。
結界を手がひしゃげる程殴り、武器が壊れるまで攻撃を行い、外に助けを求める様に叩き音を立てるも傷1つ付くことは無かった。
「イヤだ、死にたくないッ」
そう言った声が結界内を木霊する。
3~4000といった兵は皆戦士であることを諦め投げ捨てていた。




