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24話 誤算

「全くエリュド様がわざわざ出向く必要など無いでしょうに。」

「ふっ、我とて鬱憤は溜まっていく、それこそ魔王様が入れ替わってからは戦争はおろか人類への侵略等出来ていなかったのだ!

 次々と勇者に腑抜け共がやられその尻拭いをさせられてきたからな!

 まぁその甲斐あってか我が配下も増えたがな!」


 エリュドは顎に手を添えニヤリと冷酷に口角を上げる。

 エリュドには魔王への忠誠心という物はほぼ無いに等しいが強さに対する信念は5将星の中では一番強かった。

 それは力の誇示であり、それが己を認めさせる唯一の方法。恐怖で屈服させ歯向かう者には慈悲を与えない。

 それこそ戦において百戦錬磨のエリュド・ドラヴァニアのやり方。

 その考え方は例え魔王に対しても変わらない。

 例え幹部という地位であっても…、魔族の性分は破壊と蹂躙だと見せつける為、1番に魔王が協定を結びに行ったあの国を滅ぼす。

 人類と手を取るだと…それこそ在りえん、自分より弱い者達に何故遜る必要があるのか。

 それを魔王に見せつけ分からせる為の戦い。

 現在進行している5000の兵は()わばエリュドの精鋭部隊。

 高位の魔物、亜人で編成されておりその一人一人が練度、技術、力、そのすべてが尋常ではない。

 選び抜かれ、鍛え上げらた身体には今眠っていた闘争心が満ち溢れていた。

 5000の兵で城門を突破、力を身をもって知らせ、その後に後続の軍が数の暴力で侵略する。

 力と数で反撃の隙を与えず人類を屈服させ国を支配する。

 小細工は一切せず力にものを言わせるのがエリュドのやり方、それこそが美学。

 城門前に来るのを今か今かと待ち望む。

 人々が泣き叫ぶ姿、一方的に行われる殺戮の快楽に酔いしれる姿を想像する。

 命を請う姿は滑稽で、愉快で、その淡い期待を打ち砕くことが何より——この世でいちばん、美しいとさえ思う。


「ぐっ、ぐっひひひ、ぐひっ…。」


 思わず汚らしい笑い声が漏れてしまう。

 それほどまでに…感情を御しきることが出来ない程に高ぶっている、それはエリュドだけではなく他の兵も同じように声が漏れていた。

 決して浮ついている訳ではない、興奮し脳から分泌されるホルモンによる闘争本能が刺激されることは理解していた為冷静を図る声は上げない。寧ろ、


「城が見えたぞ!全軍あの国を根絶やしにするのだ!」


 そう鼓舞する。

 身体に巻き付かれていた鎖が解けたように、その一言で揃っていた足並みは崩れ我先と言わんばかりに兵達は走り出した。

 城壁からは無数の弓矢、投石がこちらに向けて放たれてくる。

 僅かながらもそれらをくらい倒れ伏す兵がいたがそのような者に気を留める者は誰もいない。

 やられるのは弱いから、情けない奴と罵倒する始末。

 この軍の歩みは止まることを知らなかった。大城門に着くまでは。

 

 全軍が大城門前にあっさりと辿り着く。

 てっきり相手の兵たちとの野戦を繰り広げるとばかり思っていた精鋭部隊は拍子抜けというより苛立ちが募っていた。


「チッ。舐められた物だ。敵兵がいないだと、既に負けを認めたのか?」


 誰かが舌打ちをしながらそう叫ぶ、だがそれは皆が思っていることだった。

 何の為の城壁なのか、中へ入ってしまえば逃げ道も無く例え何か策があったとしても被害が出ることは間違い無いというのに…。

 しかも…しかもだ。

 城の前に付いた時点で敵の弓矢や投石は止んでいた。

 全くと言っていい程のいさぎの良さか、あるいは他に何か策があるのかと不信を抱く。そして何よりも、


「おいおい、この国の門番はえらく可愛いじゃないか!人員不足かぁ?」


 城の前には2人の女が立っていた。

 1人はプルプルと震える魔法使いと思える身体の小さいエルフ、髪が銀髪で褐色の皮膚からは珍しいダークエルフだろう。

 そしてもう一人はスタッフを手に持った金髪のシスターだった。精鋭部隊たちはブッハハハと足を止め戦場に笑い声が鳴り響く。

 笑い声が絶えず続いている間に魔法の術式が発動する。

 城壁を覆うように目に見える円形の結界が張られた。

 だが誰もしまった⁉等とは考えていない。

 外から守られているということは即ち内側からも攻撃は行えない。

 いずれ後続の軍もやってくる。

 結局の所このエリュド軍に対してただの時間稼ぎにしかならないと思ったからだろう。

 だが目の前の二人の女が何故外にいるのかが分からなかった。

 シスターが結界が張られたのを確認して地面にしゃがみ込みスタッフを地につけ魔法を唱えていた。

 すると女二人とエリュド軍約5000人(数人ほどの死者を除く)を覆うように先ほど見たような小さめの円形の結界が張られた。

 精鋭部隊は身構える。

 まさかこの結界内の全員を巻き込んで自爆を考えているのか…、あるいは聖域を展開しこちらの動きを制限する気か…。

 だがその考えは不発、何も起きる様子はない。

 目の前のシスターはスタッフを後方へ投げ捨てメリケンサックのような物を手に填めこちらを一瞥する。

 まだ誰も相手の考えていることを理解できなかった。

 まさか…これだけの軍勢、しかも精鋭部隊と戦う気なのか?ぷぷッと嘲笑が再度沸き出す。


「我はエリュド軍一番槍のタルカ・ファイロン。

 エリュド軍随一の速さを貴様に見せつけてやろう。」

 まだクスクスと笑い声が聞こえている中、神妙な面持ちで部隊の前へと1人の兵士が現れる。

 軽装を身に纏った虎の顔をした獣人。 

 ククリナイフをシスターに見せつけ一騎打ちの形を図ろうと名乗りを上げた。


「………? どうした、さっさとしろよ早漏野郎。」


 目を細め呆れ顔をしながら挑発をするシスター。

 片腕を上げ「はぁ。」とため息を漏らす姿からは構える様子も見えない。


「抜かせッ!一瞬だ!」


 言葉を発した瞬間、ドシュッ!と鈍い音が鳴ると、シスターの真後ろにタルカが移動していた。

 まるで時が止まったのかと錯覚するような速さ、タルカ以外の誰もがその場から1歩も動けなかった。


「はぁっはぁっはぁっはぁっ…。」


 シスターのやや後ろにいたダークエルフが呼吸を荒くタルカを見開いた目で見ている。

 恐怖が滲み出ていたその表情。

 シスターの足元には滴る血がタルカの勝利を確信させた。

 ……筈だった。

 ドサッとシスターの後方で倒れ込むタルカ、その姿には本来あるべきはずの物がごっそりと抜け落ちている。

 ――首が無くなっていた。

 倒れると共に湯水の如く首から赤い液体が流れ出る。では頭部は一体どこへ?


「クスッ。確かに速いわねぇ、死ぬのが…。」


 そう発したシスターの手には鷲掴みされた球体のような物が…。

 それを目の前に落とし踏み潰す。

 グシャッ!と音と同時に赤黒い何かが弾け飛んだ。

 それが何かは誰も言わずもがな理解した。

 先程までニヤリと余裕の笑みを浮かべていた部隊の表情が固まる。

 一瞬だが部隊の全員が後方へと身じろぎする。

 神速の異名を持つタルカ・ファイロンが敗北をしたからではない…、この数相手に口角を上げながら近付いてくるシスターに…、まるで負ける筈が無いと思っているようなこの歪んだ表情に…。


「やりなさい。」

「は、はい。アイスウォール!」


 シスターが後ろのダークエルフに指示を促す。

 するとシスターの左右に45℃程の角度の付いた氷の柱が結界の天井と端まで続くようにそびえ立った。

 またもや意図が汲み取れない―。

 数を圧倒する精鋭隊から逃げ道を減らし不利な状況が作られていた―。


「「「「うぉおおおおッ‼‼」」」」


 雄叫びと共に全軍が躍動する。

 武器を手に取り我先にとシスター目がけて突貫。

 だが―薙ぎ払うように……、一蹴するように……、足を前に出した兵たちの身体が弾け飛ぶ。

 一体何が起きているのか…。

 1つの線―見えないラインが引かれているようにその先へ踏み込んだ兵の身体が爆散するように死に絶えていく。

 身体が大きく3mを超える巨体であっても――硬質化した鎧のような体であっても――全身をフルプレートメイルで覆っていても――、巨体は弾け飛び、鎧の体は貫かれ、フルプレートメイルをを着込んだ兵は首をへし折られた。


「魔法か⁉さっきのダークエルフが何かしているのか?」

「……クスっ。だったらいいなぁ、オイ。」


 何見当違いなこと言ってんだと言わんばかりにシスターはぷっと吹き出す。

 だがこの切羽詰まった状況を打開する為、選択肢を潰すように精鋭隊の弓兵がシスターとダークエルフ目がけて弓を構える。


「もういいから氷の後ろにいていいわよ。」

「は、はい。」


 氷の壁の後ろにダークエルフが引っ込んだ。

 だがその分の弓をシスターに目がけて放つ。

 直線、曲線、山なりに逃げ場のない矢がシスターを襲う。

 だが矢が彼女を襲うことは無かった。

 両手に2体の大きめの身体をした死兵を盾に突っ込む。

 曲線も山なりも敵がその場にいる体での話。

 直進する相手には当たらない、それも捉えるのが困難な程の速さで動く者に対しては特に。

 近くに寄られた弓兵は懐刀を抜く暇さえ与えられず死んでいく。


「空兵!空から攻めろッ!奴は飛べんその間にエルフを殺れッ!」


 翼を持っている鳥類の魔獣、ライダーが羽ばたき空を飛ぶ―が、次々と撃ち落されてく。

 一体何故?死兵の刀や盾を投擲しそれが身体を切り刻み貫いていた。


「陣営を取れ!オーガ隊前へ!ワーウルフ隊は側面から急襲!」


 大盾を構え全身を鎧に身を纏ったオーガ達が前へ出てくる、そして側面から回り込もうと素早く動くワーウルフの影。

 オーガ隊に気を取られている間に側面、背後を取る作戦であった―が失敗に終わる。

 オーガ達はいつの間にか背後から頭を捻るように首が折れ一瞬で崩れ落ち、ワーウルフは氷壁により死角を取れず、そもそも近付くことすら出来ないまま惨殺。

 並んだ隊列はまるで死の順番を待つように先頭から言葉を発することなく血の吹き出る鈍い音を奏でながら弾け飛んでいく。

 ヤケクソの様に武器を前方へ投げた者はいつの間にか反射したように頭部へ武器が突き刺さっており、身を守るように防御一心で身体を丸める者は上から叩き潰されるか空高く飛ばされ重力により潰される。

 可能なのかそのような事が…、武器を手に持った兵たちの戦意が徐々に低くなっていく。

 相手の動きが見えない、何が起こっているのも分からない…それに今までの全員が抵抗の余地なく瞬殺。

 勝てるのか――そういった不安が徐々にだが表情に現れ出した。

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