22話 はえ~ご立派
「それでは皆様この度は魔王様が失礼いたしました。
次の現場がありますので私達はこれにて。
べルヴィア様ここの事は後程詳しく説明させて頂きます。」
「はぁい、よろしくね。」
ボロボロになって意識を失っている魔王の髪の毛を掴み一礼をした後空間転移にてこの場を去って行った。
「それにしても魔族って意外と物分かりの良いのが多いんだなぁ、もっと自分勝手な奴ばかりだと思っていた。」
「あら、それは私の株も上がったって事かしら?」
ギュッと後ろから抱き締めてくるベルを引き離す。
意外にもベルはすぐに離れた、引き際というのか苛立ちの線をギリギリ踏み止まる感じは素直に感心する…誰かと比べて。
「どうしたんですか?こちらを見て…、それよりもアネットさん、私今回何もしてないんですが…というより何も貰ってないんですが……。」
「まぁお前寝てたしなぁ、別にいいだろ帰ったら報酬貰えるし。」
「ずるいです!アネットさんとセラフィーナさんはたくさん貰っているのに…。」
「分かった分かった、じゃああそこ綺麗にするの手伝って上げなさいな、そしたら帰って何か上げるわよ。」
「本当ですか?わーい、セラフィーナさん大好きです。」
「現金な奴だなぁ、それよりも今日はどうしたんだ?
やけに聞き分けが良いというか…いつもだったら怒ったり面倒くさいやら何やら言うくせに…。」
「まぁちょっとね、それにあいつらから――」
話の途中でセラの口が止まる。
だがそれについては何も不思議ではなかった。
ブルブルと足元が揺れる。
地響きが鳴り魔力が集まるのを感じた、否、感じるのでは無く集まっているのが目に見えて分かった。
ルナの杖の先が眩しく光る、私達はそれを見て口を開くことも身体を動かすこともできない。
何故ならこのダークエルフが一体何をしようとしているのかが全く分からなかったから。
表情はルンルンと今にも言葉にしそうな程微笑んでおり、我々も殺気等は全く感じ取れなかったから……と、あえてここで言い訳をさせて頂きたい、いや、させて下さい。
「それではいきます、……はいッ。」
まるで手品をするかのように軽い気の抜けた声が聞こえる、と同時に。
――ドゴォォンッ!!――大気が裂け鼓膜を突き破るような音と共に辺り一面、私達を含め薙ぎ払うように吹き飛ばした。
ルナを除いた私達3人は村の端まで吹き飛んでいたが肩で息をしているのは確認できる、だが誰も声を出さない、出せない。
―一体何が起きたのか?考える時間を望んでいたからか、はたまた衝撃とダメージで動くことが出来なかったのか……。
たとえそれが足を大開脚して仰向けに倒れていようとも……、
たとえそれがうつ伏せで尻だけを上げていた状態でったとしても……、
たとえそれが足が頭の上まで折れ曲がっていたとしても……そのはしたない状態を土煙が晴れるまで誰も戻さなかった。
「良かった…この世界がギャグで構成されていて…シリアスなら死んでいた……。」
虚ろな目でベルが意味不明な事を言う。
砂塵が流れ視界が晴れていく、辺りは静寂に私達がいた場所には廃村が……。
1/2程消し飛び地面はまるで整えられた更地の様に綺麗に無くなっていた…跡形もなく…。
そこにポツンと杖を地面に付いたまましゃがみ込んでいたルナが立ち上がりこちらに駆け寄ってくる。
「いや~どうもすみません。」
ルナは口元に曖昧な笑みを浮かべると、頭を掻きながらほんのわずかに首を傾ける、
深々と頭を下げるでもなく、ただ礼儀の形だけをなぞるような、控えめな会釈。
ちょっと張り切りすぎちゃいましたと言い兼ねない表情に私達は戦慄する。
「ちょっと張り切りすぎちゃいました。」
はわわっ。
言いやがった!ちょっと?完全に無くなってますけど…。
それよりも恐ろしいのはこのダークロリエルフ。
「張り切っちゃった⁉えッ⁉張り切りすぎちゃったらこうなっちゃうの⁉えッ⁉」
動揺が隠しきれない、言葉も支離滅裂になっているかもしれないがそれも致し方あるまい、だってこの子想像のキャパシティをいつも飛び越えて来るんだもん。
ゴソゴソとようやくセラが起き上がった。服や頭に付いた砂を振り払いゆっくりとルナに近づく。
「あ、セラさん見て下さい、その…綺麗にし…いだッ、いだだだだだッセラさん待って…私の可愛い顔が台無しに…いだだだだだッ、く…砕けるッ。」
リンゴを握り潰すようにルナの顔を掴み力を込めながら宙に浮かす、セラの腕を両手で掴み足をじたばたさせるがセラは止める様子が無い。
指の隙間からは苦悶に見開く目がこちらを覗く。
「怒ったセラちゃんと貞〇のように目を見開いたルナちゃんどっちが怖い?」
「良く分からんが怖さのベクトルが違う気がする。」
ルナの抵抗するように動いていた腕と足が重力に従って地面を向く、
そしてセラはポイ捨てをするようにルナを投げ捨て、それは受け身を取ることなくベシャッと崩れ落ちる。
ベルが近寄りルナの容態を確認するが時既に遅し…こちらに顔を向けるも悲しそうな表情で首を振る。
一体何故こうなってしまったのか…この子はただ村を吹き飛ばし仲間を殺しかけただけなのに…。
「こ、これは一体どういうことですかぁ⁉」
一旦仲間に無事に会談が済んだことを説明しに行ったヴァルナードが地下から顔を出しこの有様を見て叫び散らす。
さてどうしたものか…そう思っているとセラがヴァルナードに近付き説明を始めた。
「さっきまた勇者が戻ってきて魔王と戦闘を始めて…私達も止めに入ったんだけど村の半分が消し飛んでしまって…。
傷ついた2人は治療の為かどこかに飛んで行ったわ。
そこで倒れているのは仲裁に割り込んで入った際に止む無く…でもそのおかげで戦闘は中断したわね。」
よくもまぁそんな嘘の言葉をペラペラと…、ただそんな話を疑うことなく信じて泣いているヴァルナードさん…、
「それは…それは本当なのでしょうかッ?」
「え、あぁそうだったかなぁ。」
「えぇそれはもうミュ〇ツーの逆襲でのサ〇シのラストシーンみたいに勇敢な姿だったわ。」
「そんな……、まだこんなに幼いというのに…うぅ…。」
おいおいと地に腕を付き泣くヴァルナードに罪悪感が生まれる。
あんた良い人だよ…、隣では
「単純で助かるわぁ。」
と悪魔のような表情でにやけているセラの声が聞こえた。
訂正、聞こえた気がした。
そんなこんなで罪を全て魔王達に押し付けとっとと帰る準備を済ませる。
「うぅ…アネットさん動けないので今日だけおぶってくれませんか?」
「……まぁ今回だけだぞ。」
お前が全部悪いと思ったがちょっと可愛そうな気もしたので了承しおんぶをしてやる、……特に重みも感じさせない小柄な身体だったが意外にも胸の膨らみを感じる。
「あら、優しいのね、そういう所も好きよぉ。」
「あのぉ~手が塞がっているから近付かないで貰えると助かるんだが…。」
何でそこで顔が赤くなるんだ…良く分からん奴だなぁ。
今回は無駄に疲れた早く帰りたい…そう思っているとヴァルナードが挨拶に来た。
「この度は何度も助けて頂きありがとうございます。
今は何も授ける物がございませんが復興が済んだ際にはお越し下さい、VIP席をご用意しますので…。」
どれくらい大きくする予定なんだろうか…リゾート地でも作るのか。ヴァルナードが言い終えるとセラが食いつくように要求をする。
「そんな物いらないからアンタのキン〇マ貰える?比喩とかじゃなく現物を。」
急転直下。感謝を表していた表情が一気に冷え下がり恐怖に沈み返った。
ゆっくりと近付く悪徳シスターの顔は笑っているが目が冷え切っており、とても冗談を言っている様子ではないというのがヴァルナードにも理解できたのだろう。
悪魔にとって聖職者は本来天敵とも言える相性の悪い相手だ。
たまらずこちらに目を向けるが私達も目を逸らす。
「聞こえなかった?アンタのタマ寄こしなさいな。」
男にとってタマというのが何を表すのか――玉、命、魂……。
男のシンボルとも呼べる物の価値を私は知らないが、汗が滝の様に流れ出ている目の前の男を見るとそれが無くてはならない物であることは見て取れる。
「はっ…はっ…はっ…はっ…、どうか…、どうかそれだけは…。」
「セ、セラもう止めとけ、虐待しているようで見るに堪えん。」
「チッ、次来るときには用意しておきなさいよ。」
そう言い残し踵を返すとともにドサッとヴァルナードが尻から倒れる様に座り込む。
恐らく安堵と共に緊張が解けたのだろう。
「ふふっ、ターミ〇ーター2の1シーンみたいな呼吸の仕方してたわね。」
それが何なのかは深く聞かなかったが調査で来ただけなのが彼らに厄災を降り注いでしまった気がする。
今日彼らにしてしまったことを忘れよう、全ては魔王のせいなのだ。
「そういえばべルヴィアさんは年齢はいくつ何ですか?戦争があったのはもう大分昔なんですよね?」
沈黙。帰り道の途中ふと思い出したかのようにルナがベルに質問をする。
年齢確認というのはその女性にとってタブーになるか際どい線なのだ、その事が分かっている私とセラは口にチャックをして笑顔で地雷原を歩くルナを固唾を呑んで見守る。
「そぉねぇ、1000を超えてから数えるの止めちゃったから分からないわぁ。」
ほっ。さすがサキュバスのクイーンをやっているだけの事はある。
その余裕のある表情からもベルは年齢に関しては別に気にしていない様子だ。
「おぉ凄い長生きなんですね、村長のミリシェラももう800過ぎてるんですが若作りが大変と言ってましたから。」
ピシっ。空気の凍てつく音が聞こえた。
周囲が黒と緑の色調になり固まるような。
呼吸の仕方を忘れてしまう程の張りつめた空気。
「わ、私達サキュバスは老けたりはしないのよ。
それこそ寿命も無い、自然に死ぬ時は精力が無くなった時だけ、お~けぃ?」
「べルヴィアさんの精力が尽きそうになったら先程のインキュバスさんたちの様に老人になるんですか?」
「ど、ど~かなぁ、なったこと無いから分かんないかなぁ。」
「その体型は自分で作っているんですか?生まれた時からその体型なんですか?
そもそもどうやって生まれてどうやって繁殖するんでしょうか?」
質問責め。
だがその表情はまるで子供の様にキラキラと目を輝かせた悪意のない純粋無垢な表情だった。
アワアワと手を動かしながら慌てふためくベル。
助けを求める様こちらに目を配らせるが私達は一切目を合わせず無表情のまま正面の一点を見つめるのみ。
「夢に侵入している時現実ではどうしているんですか?精力が多くなっていると戦いで強くなるんですか?それともそこは研鑚が必要なんでしょうか?」
「ル、ルナちゃん!あれ何あれ!」
「へっ、どれですか?がっ。」
当身。恐らく後頭部へチョップをしたのだろう、ルナがかくっと首が脱力したのを感じた。
今度は立ち止まり二人でじっとベルを見る。
言葉は発さずにそのまま無表情で。
「いやだって…、そんないきなりね、いっぱい質問されちゃうとびっくりするというか、あまりそういった事に触れる人はいないというか…、だから…その…、ごめんなさい。」
最初に会った時は余裕たっぷりといったお姉さんといった感じだったのに今はその影も無かった。
「今回非があるのはベルかも知れんが、ルナは最近気付いた…いや最初からだったが、ちょっとおかしくてな、決して悪い奴ではないんだが……。」
と一応フォロー。
隣では何かを言いた気な表情でセラがこちらをジトォと見ている。
「まぁ気にする必要は無いわよ、私ももうこの子には気を使わないし遠慮もしていないわ。
だってするだけ無駄だもの、それこそ年齢とかもね。」
「セラちゃん……。」
瞳をうるうるとさせるベル。
一方唾液を布越しに伝わせるルナ。
起きろ~と前後左右に揺すり身体を回転させるも全く目を覚まさないルナの頬を微笑みながらつつくベル。
まぁ確かに静かにしていれば可愛いんだがなぁ…。背中で寝息を絶やさないルナの顔を見てそう思った。
ちなみに村を破壊した分の請求書が後に魔王よりルナに届いた。その額白金貨2000枚(約2億円)。
どうやら収入の半分以上は自動で借金返済に持っていかれるらしい。
一応返済期間と利息は設けないという新設設計ではあったが白目を向いているルナにはそんな事を気にしている余裕は無かった。




