20話 よし、話し合いは無事終わったな
テーブルを囲うようにルナと秘書を除いた全員が席に着く。
秘書は全員分の紅茶と菓子を用意した後は魔王?の後ろに立っていた。
「では改めてお互い自己紹介から始めるとしよう。
私は現魔王の10代目魔王であるヨシダ。
そしてこの秘書はネファリナと言う。2人共魔族の者と思って貰って構わない。」
チラッと目を配らせヴァルナードが席を立つ。
「私はヴァルナード=アスマデウス。その昔悪魔大戦時の大将をしておりました。
その時サキュバス側の大将であったべルヴィア様に打ち取られたのですが……どういった訳か息を吹き返し――」
「まぁそれは後に話そう、次だ。」
そしてベルが口を開く。
「もう知ってると思うけど私はサキュバスクイーンのべルヴィア=ナクターナ。
魔王軍配下の五将星の内の1人よ。」
ギョッと私とセラの目が見開く。てかセラも知らなかったんだ……。
「あ~勘違いしないで欲しいのだけれどね、この五将星っていうのはかってに決められただけなのよ。
確かにサキュバスを束ねる者ではあるんだけど軍って訳じゃないし、サキュバスの中でもルールを定めて治安維持に一役買ってるって感じかしら?
最近セラちゃんに顔を出せなかったのもルールの改訂やらそのルールの伝達やらをする為ね。
だから魔王を守るとか人を支配するとかは全く考えたりはしてないのよ。
まぁ五将星の全員がそういった考えをしている訳じゃないし、どっちかっていうと私が歪な方だけど……、
命令されても人に危害を加えないことは誓うわよ、ただ仲間が攻撃された時は別だけどね。」
そう言ってこちらにウインクをする。なら問題ないじゃないか。
うんうんと頷きながらセラを見ると少し口元が緩んで見えた。
だが目が合うと(何見てんだこの野郎)と言わんばかりに睨み返してくる。こわぁ…。
私達もルナの分を含め自己紹介を済ませる。
魔王が驚くようにこちらを見て口を開く。
「おぉ、あのお転婆姫のセレスの娘かぁ、それにこっちはセレフィアのってことはターニアの娘?2人共大きくなったなぁ、よしおじさんが良い物をやろう。」
「えっ、私達を知ってる?」
「あぁ国が治まるまではちょこちょこと顔を出していたからなぁ。
セレスも初めて会った時はいきなり極大魔法をぶっ放して来て死ぬかと思ったもんだが…ほれこの魔法石をやろう。
何か困ったときに魔力を込めると私を呼ぶことが出来るぞ。ブレスレットか指輪に出来るがどうする?」
「え、あぁ、じゃあブレスレットで…。」
「私も。」
戸惑う私達にネフェリナさんが既に加工したブレスレットを手渡す。
「おいネフェリナ、お前も何かこいつらにくれてやれ。」
「は?あまり調子に乗らないで下さい、ぶん殴りますよ?」
「あの本当に大丈夫ですので…お構いなく。」
「あぁいえ、そういう事では無いんですが……、では私からはこのような物しかございませんが…。
アネット様にはこれを、セラフィーナ様はこちらを。」
「「こ、これは…。」」
手渡してきたのはSMグッズ4点(レザーアイマスク、手錠、ギャグボール、鞭)、
そしてセラには【苦痛を与える為の解体新書1~心をへし折るセリフ付き~】という本を渡していた。
こ、これは……。
「おいおい、もうちょっとマシな物をやれよ…ってめっちゃ喜んでいる⁉」
何でこんな物持ち歩いているんだというツッコミは搔き消える程の素晴らしい品を貰ってしまった。
しかもこの手錠、鉄製ではない。材質は分からないがこれではちょっとやそっとでは壊れないではないか……たまらん。
セラも興味津々に熟読をし始める。だが私とて王国の騎士。
これしきで魔族相手に心を許す訳には…。
「後これは通話機器です。壊れやすいので携帯するのは難しいですが…その眠れない時や相談事があれば使ってくれても構わないんですからね。」
そう言って少し顔を赤らめ俯きながら水晶玉を私達に渡す。
至れり尽くせりに物を貰ってしまった。
何でこの人はこんなに良くしてくれるんだろう。何やだ、嬉しい。
「私の事は気軽にアネットと呼んでくれ。後敬語は不要だ。」
「私も、セラでいいわよ、以下同文で。」
「だが何故ここまでしてくれるんだ、我々はほぼ初対面だろ?そもそも魔王とは人類を脅かす存在ではないのか?」
「ふむ、まず最初に言うと魔王は世代によって性格や種族が違う。
暴虐を尽くし破壊を求める過激な者や自分の為だけに権力を振るう者、龍神だったり妖狐だったりと異なるのだ。
そして人類を脅かす存在ともなれば討伐隊が組まれる訳だな、勇者様御一行の。
代が変わるタイミングは魔王が死ぬか退位するかのどちらかだ。
魔王が死んだ場合は武力により決まるが退位した場合は先代が方法を決める。投票やら試練やらでな。」
「それで選ばれたのが今目の前にいる男という事だな。」
「そういう事だ。私は穏健派だからな、殺伐としたものは好まん。
舐められるのはまた別だが…。
とはいえ魔物が未だに人類に危害を与えていることは理解している。
魔王は魔物を統べる王だが全てではない、魔族の中でもルールがありそれを破れば階級や力を剥奪するのだが、それこそ人類と同じで知能の無い者、自我を失った者、失う物が無い者を御しきるのは難しい。
今は世界各国で私が魔王である限りは仲良くしましょうねと言って回っている最中だな。」
「つまりあなたが死ねば次はまた暴力的な魔王が生まれる可能性があるという事ね。」
「そういう認識で構わない、そして話が最初に戻るが私とネフェリナは時と場所は違うがお前達2人の母から命を救われた事があってな。
いわゆる命の恩人の娘なのだから良くしてやるのは当たり前という訳だ、
我々魔族でも義理はある、寧ろ魔族だからこそ…というのもあるがな。」
そういった話は親からは聞いたことが無かった。
歴史にも詳しい記録や書籍は無くあったとしても憶測や明確な記載は無かったから…それこそ小説や物語で語られる物ばかりで。
「ねぇ、そろそろこっちに話を戻してもいいかしら?」
少しばかり苛立ちを見せるベルがようやく口を開く。
何だかんだで聞きたい話はもう済んだからなぁ、何の話だったっけ?セラはもう完全に話そっちのけで本に目を落としていた。
その本私も少し興味あるなぁ。
「どうしてヴァルナードが生きているのかしら?ちゃんと説明してくれる?」
「あの無謀とも言えるインキュバスの敗色濃厚な戦なぁ、当時はまだ魔王では無かったんだが先代に親玉の魂を抜き取って来いって言われてな。
お前に殺された瞬間にバレないようにこう地中からスッと頂戴した訳。」
「はぁあ⁉何でそんなことをしたのよ。」
「先代曰く殺すには惜しいと。」
「何よそれ!どちらかが滅びるまで終わらない戦いだったでしょうに。」
「いやぁ1つの歴史ある種族を失うのには抵抗があったんでしょうなぁ、それから魂の受肉やらコンプライアンス研修をしてようやく最近社会復帰したんだよね。」
「時間こそは掛かりましたが社会に溶け込める様努力していきたいと思います。」
「コンプラって……、社会復帰ってまた誰彼構わず襲うって言うなら容赦はしないけど。」
「いえ、我々は精力に関しましては必要最低限までしか頂くことは致しません。」
「こいつらにはここで事業を展開してもらおうと思っていてな、人々に夢を与える仕事だ。
この村で寝た者が見たい夢を見せるといった物だ。
今はまだ土台作りで地下を拠点に置いている、家の改装やセキュリティ面を強化する予定だな。」
「それを信じろと?」
「現にそこのエルフは気持ち良さげに眠っているが?」
ベッドに眠るルナに目を配らせる。
「これで世界は私の物…フフフ。」
と寝言を言っている。
顔を歪ませた表情は落書きと合わせて邪悪そのもの、大丈夫かこいつ…。
「村を再建するには何かと人手不足でな、事業展開するまで何年経つか分からん状態だ。
そこでサキュバスも何人か送って欲しいんだが……男性客はサキュバス、女性客はインキュバスといったようにな。」
「何で私がそんなことしないといけないのよ。」
「もう戦争が終わって何年経つと思っているんだ?
それに気になるんだったら観察者を付ければいい。
他の魔族の者も派遣する予定だが…どうだ?」
「部外者ながら人間の感性から言わせて貰うと、いつまでもいがみ合うより手を取り合って協力した方がいいと思うぞ。」
「ぐっ、けど何か変なこと考えたらただじゃおかないから。」
――和解。
といった様子では無いがインキュバスの安寧は何とか保たれることとなった。
何だかんだで物分かりの良いサキュバスの女王とドヤ顔を見せている魔王を見てふと思う。
「偏見かもしれないが魔王というのは城でずっと引きこもっているものだと思っていたが意外とアウトドアなんだな。」
「最近は物騒でな城の中が安全ということも無いんだよ。」
……? どういうことだろう、結界等で外部からの侵入は困難であるとばかり思っていたがそういう訳では無さそうだ。
まぁ常に命を狙われているようなものだから気が休まらないのかもしれないが…。
「はい、今座標を送ります、魔王様なら今私を含め5人の女性を侍らせております。」
こちらに聞こえるか聞こえないかくらいの声で誰かと話をしているのか、それに過敏と言うほどにぎょっと驚きを見せる魔王。
「ちょっと待て、ネフェリナさん?今誰と会話している?すぐ通信相手に今言ったことを訂正しなさい。」
「皆さん10秒以内にここにお入りください、今すぐ。」
ネフェリナさんがさっきと同じようにワープホールを作り出す、その先にはこの村の広場が移り出されていた。
皆が慌てる様にその中へ飛び込む、臨機応変な行動に二重丸を貰っても良いのでは無いだろうか。
ネフェリナさんを最後にワープホールが閉じる。
とほぼ同時位に空がキラーンと光った気がした。
次の瞬間隕石が落ちたのかさっきまでいた家が爆発四散した。




