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19話 お初にお目にかかります、魔王です

「結局あれは何だったんだ、インキュバスで間違いないのか?」

「えぇ間違いないわね、ただどこにいるのか…近くにいるのは間違いないんだけど…。」

「だが夢の内容を覚えてはいるが全然性的な内容では無かったぞ?インキュバスらしき男もかなり年を食っていたし。」

 

 隣のベッドで寝ているルナを見るとにへらと笑いながら鼻ちょうちん出していた。


「ふふっ私こそ神の化身いや神そのものよ、崇め奉りなさい。」


 どんな夢を見ているんだこいつは。まぁ気持ちよさそうに寝ているから起こさないでやるか。


「私もこんなアホ面で寝ていたのか?」

「ちょっと違うけどね、目を開けたまま白目で寝てたわよ、いつも通りと言えばいつも通りじゃない?」


 そうあれは11歳の頃、学校行事でお泊りをした際の出来事だった。

 私含めて全員が寝静まった後、見回りに来た先生が私の顔を見て驚愕しパニックになってしまったのだ。

 私の身分が王国の姫というのもあるのだろう。

 すぐさま医療スタッフを呼び出し大声で肩を叩きながら意識を確認する様子に周りの友人達は何事かと起き、私の顔を見て引いていた。

 セラだけが爆笑していたらしい。

 結局何事もなく私の寝顔がひどかったというだけでその場は落ち着いたが、次の日から友人たちとの間に溝が出来てしまったのだった。

 軽いトラウマを思い出しているとセラが口を開く。


「あぁそういえば家の外に掘り返した跡のような物があったわよ。」


 すっかり二日酔いから回復したセラが家の外へと誘導する。そこは少しばかり地面の色が変わっており窪みがあった。

 触れてみると板で塞がれている形跡があり、セラがそれをひっくり返すと地下への階段が繋がっていた。


「あ、意外と明るいわね。」

「この先にいるわね、ビンビンに感じるわぁ。」

「よしっ、さっきの老人がいたら説教してやらないとな。」


 そう言いながら階段を降りていくと大広間に出る、そこには10体ほどの頭から小さな角が生えた老人達が固まって身を震わせていた。


「え~、何でこいつら怯えているんだ?セラが何かまたやったのか?」

「失礼ね、私はまだ何もしてないわよ。」


 これから何かをすると言った可能性を残して続ける。


「恐らくベルにビビってんじゃない?ほらサキュバスとインキュバスって戦争したんでしょ?」


 チラッとベルの顔を見ると無表情のまま目が赤く光っていた。そのまま手に顎を乗せ老人に近付く。


「あらぁ~、何で生きているのかしら?しかもあなたもしかして…。」

「ひっ、ひぇぇえええ、お許しくださいベルディア=ナクターナ様。我々は決して悪事を働くようなことはしておりません、神に、いや悪魔に誓って。」


 10体の老人が整列をして土下座をしている、何だか非常に申し訳ない気持ちで一杯だがベルの立ち姿は変わらなかった。


「なぁセラ、どう思う?我々は一応調査という体でここに来たんだが……、

 インキュバスがいたので処理しました、今はただの何もない廃村です。でいいと思うか?」

「う~ん、微妙なラインねぇ。調査だけなら穏便に済ませた方がいい気もするし…。」

「自衛という目的ならいいんじゃないかしらぁ?襲われたなら反撃をしてもいい気がするけど。」

「過剰防衛の気もするが…なぁどう思う?」


 老人達を見て話を振る、額には汗が滲み出て、目には焦りと懇願の色が滲んでいた。

 泣きながら許しを請う様に弁明を図る姿は虐待してるみたいで凄く心苦しい。


「我々は昔の様に誰彼構わず人を襲うことはしておりません、ほんの少し…ほんの少しですが寝ている者達から精力は吸い取りますが雀の涙ほどでございます。

 命はおろか翌日に影響が出る程でもございません。」


 誠心誠意といった様に頭を下げているインキュバス。

 だがベルの表情は変わらず威圧するようにインキュバスから目を離さない。


「まぁまぁとりあえず無闇矢鱈に殺めようとするのは止めなさいな。」


 珍しくセラがベルを鎮めようとする。


「おぉ、ありがとうございます。」

 

 と老人たちが手を拝む。

 この中で真っ先に手が出るのはこいつだと思っていたが意外と優しい一面もあるじゃないか。


「では何故生きてるのか教えてくれるかしら、ヴァルナード?」


 ヴァルナード=アスマデウス。

 インキュバスの祖とされる血筋であり悪魔大戦争時のインキュバス側の大将。

 それが目の前の老人であり名前らしい。


「その話は上でゆっくり話そうか、茶でも飲みながらな。」


 かつかつと階段から2人の男女が降りてきた。

 男は黒を基調としたロングコート風の礼装と外套を身に纏い、整った黒の長髪には所々白が混じっている。

 左右青と赤の異なる目の色をしている瞳の奥には深い知性と哀愁を感じさせる整った顔立ち。

 女は男の後ろを歩きはだけてはいないが胸を強調するようなスーツ姿に長く腰まである黒髪は後頭部に髪留めで纏められている。

白い肌に尖った耳、眼鏡を掛けた切れ長の目をした女性秘書といった様子。

 何者かは分からないがおびただしい圧を感じ私とセラは警戒態勢に入る。


「あら、ヨー様?どうしたのこんな所で?ネファリナちゃんも久しぶりね。」


 近付くベルが手を上げ無表情のまま何も言わずハイタッチをする女性秘書の姿に少しばかり緊張が緩む。

 

 「ベル、この者達は一体?」


 男がこちらを一瞥しニヤリと尖った八重歯を見せる。

 そして近付いてきたかと思うと自身のポケットから何かを取り出しこちらに向けていた。

 瞬時に警戒をする私達に口を開く。


「ご挨拶が遅くなりました。わたくし現魔王をさせて頂いております。

 10代目魔王ヨシダと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」

「また気色の悪い言葉が出ておりますよ、魔王様。」

「いやこれはビジネスマナーであってそんな事言ったら世間から反感を買うぞネファリナよ。」

「失礼致しました。お前が口調を変えて言うと気色悪いんだよ魔王様。」

「ひ、ヒドイ。」


 ポカーンと2人のやり取りを見る、名刺を見ると【10代目魔王ヨシダ】と書いてあった。

 え?どういうこと?そして威厳の無い名前だなぁ。

 全然状況が飲み込めないのはセラも同様なのか目を丸くしている。

 だが相手側に敵意や殺気を感じないと分かると警戒を解いた。順応スピードがこの女は人一倍早いのだ。


「では皆様こちらへどうぞ、ご用意は既に済ませております。」


 そう言って秘書の目の前に大人が入れる程の丸い空間が生まれ、その先にルナが寝ているベッドが見えた。

 空間転移の魔法であることが分かる。

 魔王、ベル、ルナと順番にその空間を入っていく。動揺している私を察しているのか先にヴァルナードを入れた後、


「どうぞ宜しければ……。」

 

 そう言って手を差し伸べてくれる秘書の手を取り一緒に空間を入る。

 あれ?思ったより優しい。あの態度は魔王にだけなのだろうか?

 部屋の中はベッドしかなく殺風景だった場所に高価なテーブルと王族が使用するような椅子が置いてありティーカップや菓子類が用意されていた。


「私の前にひれ伏すのだ魔王よ。」

「さぁ魔王様どうぞ。」

「いやこれ寝言だから……。」


 ルナはまだ眠っていた。

 アホだなぁこいつは。

 額にアホと書いておこうと思ったら既にセラが描いていた、更には髭や瞼に目も追加して。

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