18話 夢の中へ、夢の中へ。
まだ日が高い内に廃村に着いた。
廃墟と言っても家屋が古びて崩れている様子は見受けられない。
それこそもっと草木が無造作に生い茂ってボロボロで風化してしまっている村を想像していたが、人が移り込んでも何ら問題の無いように綺麗で……、ただ人の姿がない、それが逆に少し不気味さを出している。
セラが井戸の方向へ直進する、それを追うようにルナが駆け出して行った。
「人影は無いが…、ベル!何か感じるか?」
「う~ん、いやいるわねビビッと感じるわ、父さん妖気です!」
何を言っているのかは分からないが髪の毛を逆立てながら探知をしているらしい。
「アネットさ~ん、この家鍵かかってないです。」
そう言ってガラガラと扉を開け好奇心旺盛にずんずん入っていくルナ。
警戒心の欠片も無くよく出来るなぁと後を付ける。
「ルナ~。もうちょっと警戒心を持って動かないと危ないだろ。」
「それよりも見て下さい、ここにベッドが置いてありますよ?」
ぽんぽんとベッドを叩きはしゃぐルナ。
1室にポツンとベッドのみが2台置いてあった。
シーツは綺麗に整えられておりルナが叩いた拍子に埃も立たない、部屋の内装も家具こそはベッド以外無かったが蜘蛛の巣や汚れは見られなかった。
「いやあからさま過ぎだろ、何だこれ?絶対何かあるだろ!」
「寝ないんですか?こんなにふかふかなのに?」
「寝るに決まっているだろ!ふざけるなよ!全く以て度し難い。」
えぇ、何で怒られたんですか、と言いたげな表情をするルナを尻目に普段着に着替える。
こんなこともあろうと持って来て良かった。
「じゃあ私寝るから!起こすなよ、いいか絶対に起こすんじゃないぞ。」
「あ、はい。じゃあ私他の所探索に行ってきます。」
ピューっとすぐさま駆け出すルナが家を出て行ったのを確認しベッドの中へ入る。
身を沈めた瞬間に身体がふわりと持ち上げられたような錯覚に包まれる。
日の光がまだ差し込んでいるにも関わらず瞼が徐々に重くなり1分も掛からずに夢の中へと沈んでいった。
「ん?ここは?」
目が覚めると辺り一面が真っ暗闇に染まっていた。
自分が立っているのか浮いているのかさえも分からない感覚。
自分の体は鮮明に見えるがそれ以外の物が何も見えなかった。
手足は動く、次に体も、それが自分の物であるのを確認し一旦落ち着くように胡坐をかき腕を組む。
「う~む、どうしたものか。」
そう考えていると極僅かに音が聞こえた、人のような声が…。
何を言っているのかまでは聞こえない、これは依頼書に書いてあった夢の中で語りかけてくるというやつではないだろうか…。
その声が聞こえ始め5分、10分と経ち徐々に声が鮮明に聞こえてくる。
「望みを言え…お前は何を望むのだ…。」
ついに来たか…、さて相手はインキュバスかはたまた別の何かか……。
胸が高鳴るのを抑える様に深呼吸をつき落ち着きを取り戻すようにゆっくりと声を上げる。
「私の想像を遥かに超える事をお願いします。シチュエーションはそちらにお任せします。」
「うむ、承知した。」
途端に真っ暗闇の背景が鮮明に映り変わり、古びた薄暗い城の中に私より一回り大きい屈強な男が目の前に現れた。
ほぅこれは中々良い体つきではないか。
「我は魔王、人の子よ……ここまで辿り着いたことは褒めてやろう。
そして、希望を胸に挑むがいい。その光こそ、我が闇で呑み干すに相応しい。」
「あ、じゃあお願いします、初めてなのでお手柔らかに。」
そういって両手を広げ目を瞑る。
一体どんな辱めを受けるのだろうか……。
呼吸が荒くなる、今か今かと相手の行動を待つ、10秒…20秒…30秒と時が経つ。
………?一向に相手は何もしてこない。片目を開けると目の前の魔王はおどおどしていた。
「貴様、ここは神聖の場ぞ、命を懸けて我と死合うのだ。」
おっとこれは失礼した。
ギリギリの戦いで負けてこそ華があるというもの。
戦いに敗れた私を妃にするも良し、身動きできない身体に欲望を吐き捨てるのも良し、子分に好きにしてよいと命じるも良し…。
こいつかなり出来るな…、そう思い剣を握り切りかった。
「ぐぁあああ!貴様こそ勇…者…よ。」
……は?
あの軽く剣を振っただけなんですけど?何で魔王さんはぶっ倒れてるんですかねぇ?
すると急に背景が切り替わりどこかの城のバルコニーで群衆の前に立っていた。
「皆静まるのじゃ、彼女こそ魔王を退けた勇者の名に相応しい者よ!皆その姿をしかと両の眼に刻みつけるのじゃ!」
そう言って群衆の前に立たせようとする王様らしき人物。私は前に立ち大声を上げる。
「無い!これは無いわ!シナリオ担当出てこい。ぶち殺してやる。」
いそいそと腰を曲げた老人が出てくる。
「あの…お気に召しませんでしたか?」
「もう全く。何だこれ?全く私の望みとは違うものではないか!次はちゃんと期待しているからな。だからやり直せ。」
胸倉を掴み脅しをかける。老人でなければ歯の一本は折ってやったというのに。
老人が指パッチンをすると再度背景が映り変わる。
森の奥深くに私は座り込んでいた。
着ていたであろう衣類はボロボロに引き裂かれ肌も露出している。
周りにはゴブリンらしき魔物に取り囲まれている。
ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべながらじりじりと距離を詰めるように歩み寄って来ていた。
キッター!これよこれ。
グッと握りこぶしを作る、それと同時に目の前のゴブリンが私目がけてキシャ―ッと奇声を発しながら飛び掛かってくる。
「危ないッ!」
――ビュンッ!ドシュッ!と空を切り鈍く肉を貫く音、そしてその音はゴブリンの顔に矢が刺さる事を意味していた。
………はぁ?後ろを振り向くと白馬に乗った金髪の好青年が弓を構えている。
そして次々と私を取り囲んでいたゴブリンに弓を放ち、剣を振るい、なぎ倒していく。
「止めろ……頼む…止めてくれッ……、やめろぉおおおッ!」
喉が潰れている設定なのか声が上手く出せなかったが、それでも精一杯体中の酸素を振り絞るように泣き叫ぶ。…が青年の耳には届かない。
一匹のゴブリンが私に近づき棍棒を振り上げる。
一矢報いろうとしたのだろうか?私はそれを甘んじて受け入れるように目を閉じる。
ドゴッと鈍い音がする、…が私の体に衝撃がやって来ない。
青年が私を覆いかぶさるように身を挺して庇ったのだった。
殺ったか⁉そう思ったのも束の間。すぐにゴブリンに剣を突き刺す。
「良かった、あなたを守ることが出来て…。」
……有難迷惑って知ってる?悪気が無い分質が悪い。
冷めた目で見ているとそのまま私の方向へ倒れ込んで来た、力が入らず私は仰向けに倒れてしまい、その上に身体を預けてくる。
あのぉ…顔近いんですけど。
「申し訳ない…身体が言うことを聞かなくて。ただ…もう少しこのままでいいですか?」
そう言って顔のすぐ横に前腕を乗せる。
青年の息が顔に当たり綺麗な緑色の瞳が私を写していた。
何故か紅潮して薄く開けた目は異性の色気なるものが醸し出されている。
そして私は微笑みながらその問いかけに答える。
「あぁ構わないぞ。」
そう言葉を口にした瞬間、青年の腰に差してあった小太刀を抜き取り青年の腹部に深々と突き刺した。
「ぐふっ…な…何を…。」
「彼奴等の仇を取ったまでよ、あの世で詫びの一言でも入れてくるんだなぁオイ。」
瞬時に辺り一面が真っ暗闇になり先程の老人が現れた。
「ちょっとちょっと、何をしているんですかあなたは!」
「それはこっちのセリフだッ!何だあの男は⁉あいつは私の全てを奪い去って行きやがったんだぞ。どうなっているんだこれは!」
「そんな大袈裟な…、これは結構人気のあるシチュエーションのはずなのですが…痛いッお止め下さい、痛いッ。」
胸倉を掴み老人の言葉等お構いなしに頭突きをする。ふざけんのも大概にしろよこいつめッ。
「アネットちゃ~ん、そろそろ帰ってらっしゃ~い。」
ベルの声が聞こえる、それと同時に目の前の老人がガタガタと震え出した。
「はっ、まさかその声は…」
その声が聞こえた瞬間私は目を覚ましたのだった。
ベッドの周りには全員集まっていた、ルナは隣のベッドでぐーすか眠っていた。




