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10話 夜は不安や恐怖を増長させるらしい

 夜が更け日付が変わろうとしていた頃、エルフの長ミリシェラ=ティールの家の中は部屋の灯りが既に消えており微かな月明かりのみが窓から入り込む。

 その光に反射するように2つのアンバランスな胴体のシルエットが動いていた。


「はぁはぁ…ねぇ次はどうする?どうして欲しいの?」

「もう体が持ちません…許して下さい。」

「またまたそんなこと言ってこっちはまだ元気そうだけど…。」


 そう言いながらオークの頬にキスをするミリシェラ、さぁ次はどうしようかしらと妖艶の笑みを浮かばせ、ギシギシとベッドの音を立てながらオークの腹部に馬乗りするように動く。


「じゃぁ次は…。」


 コンコンコン……。

 ミリシェラが言いかけていた途中に玄関からノックをする音が聞こえた。


「ミリシェラさん…誰か来客が来たのでは?」

「こんな夜も遅いのに誰も来ないわぁ、きっと風で小石が当たったんじゃない?」


 コンコンコン……。再度ノックの音がした。


「や、やはり誰か来ていますよ、出た方がいいのでは?」 

「こんな時間に来訪する常識知らずなんて放っておけばいいわよ、それよりつ・づ・きしましょう?」


 コンコンコン……。3度目のノックが聞こえさすがにミリシェラにイライラが募る。


「ったく分かったわよ、はいはい今出ますからちょっと待ってくださーい。」


 ベッドから出て服を手にした瞬間ドカーンと玄関が爆発したように吹き飛んだ。

 中にいた2人は呆気にとられ悲鳴を上げる事すらできなかった。


「ちわーっす、殺し屋でーす、なーんちって。」


 スタッフを片手で肩に担ぎゆっくりと二人に近付く金髪シスターが姿を現す。

 口角は吊り上がっており表情は笑っているように見えたが、目だけは見開いた上にじっと獲物を捉えた肉食獣のように殺意に満ち溢れていた。

 その標的が家の中にいる私達であると2人は察した瞬間、汗が体中からぶわっと吹き出し固まっていた体がようやく動き出す。


「きゃぁああああッ!」「うわぁああああッ!」


 驚きと恐怖による2人の叫びが村に響き渡るが誰もそのことを気にすることは無かった。

 

―少し時間は遡りルナ宅。


「分かったわよ、死体の山は築き上げない、これでいいでしょ。」


 冷静さを取り戻したセラがため息をつきながら答える。

 彼女は自分の睡眠を邪魔されることを何よりも嫌うのだ(ノエルが布団に入り込んできた場合は除く)。


「とりあえず話し合いで解決しろ!いいな。」

「解決しなかったら実力行使でいいわね。」

「殺すのは絶対ダメだからな。」

 

 殺さなかったら何をしてもいいのかい?

 そのような表情をするルナとベオウルフは置いておいて話を続ける。


「報告書も明日貰いに行かないといけないから出来る限り問題は起こしたくないんだ、分かるだろ?」

「あーはいはい。」

「私としましても日に日に同志の顔がやつれていくのは見たくありませんなぁ。」


 はいはい分かった分かったと手を振りジェスチャーをするセラ、本当にわかっているのかこいつ……。


「という訳で行くわよルナ。」

「え?私ですか?」

「あんたしか村長の家知らないでしょ?」

「いやでも…2人は来ないんです?」


 その言葉には私をこのような凶悪暴力シスターと2人きりにしないでといったニュアンスが入っていたのだろうがそんなことは知らん。


「私は見ての通り自分で起き上がることすらも出来ない状態だ。暴走したら仲裁してくれ。」

「私も起きるのが精一杯ですな、かたじけない。」

「無理無理無理!私にはそんなこと出来ません。」

「という訳でさっさと行くわよ。」


 いやぁあああと叫びながら首根っこを掴まれ家を出ていく二人の姿を見送った後、ベオウルフに視線を送る。


「体が動かないなぁ、これでは何をされても抵抗できないぞ?」

「それでは私は後片付けをしておきますので何かありましたらお呼び下さい。」


 そう言って私の傍から離れてほうきと塵取りを持ったかと思えば破片やら割れた食器やらをせかせかと掃除を始めるベオウルフ。

 駄目だなこいつ、まるで分っていない、ニーズを…今自分が何をするべきなのかを…何が君の幸せなのかを…。

 しばらくいじけていると近くで声が聞こえる。


「アネット様準備が出来ました、失礼いたします。」

「えっえっ?」


 おもむろに私を両手で抱え上げる。

 いわゆるお姫様抱っこをされ客室の布団まで移動する。

 ドクン、ドクンと波打つ鼓動が大きくなるのが分かる。

 初めて抱き抱えられたことによる緊張と恥ずかしさが入り混じり頬が紅潮してしまっているのが自分でも分かる。

 心臓の音が聞こえていないかとチラッとベオウルフの顔を見上げるもこいつは凛とした表情をしており何を考えているのかは分からない。

 そっと整えられた布団の上に降ろされる、服はまだ乱れたままで顔が沸騰するように熱い、呼吸が荒れごくりとゆっくり唾を飲んだ。


「そ、その…優しく…してください…。」

「ははっご冗談を。」


 ベオウルフは即答し部屋を出て扉を閉める。

 恐らく掃除の邪魔だったんだろうと後から気付く。

 1人仰向けになったまま涙が両頬を伝うように流れ出てくる。

 目を閉じるとエルフ共の盛っている声が聞こえてきた。

 セラを止めるべきでは無かった、私も一緒にエルフ狩りに参加して打ち首獄門にしてやれば良かったんだ、それともエルフの血で体でも洗うか。


 フヒッ、フフッ、ハハハッとセラたちが帰ってくるまで私は誰にも聞こえないように小さく笑っていた。

 

 ―そして戻りミリシェラ宅。

 吸い付くような肌の艶や絹糸のようなしなやかさの髪、美貌を体全体で表現し、既に800という年月を生きているにも関わらず身体の衰えが見えないエルフの長ミリシェラは焦っていた。


(考えて、考えないと…今目の前にいる女は何といった?殺し屋?

 殺される理由が私にはない、いや待てこのオーク、まさか奥さんがいるのでは?

 だとしたら私を殺そうと思うのにも納得がいく。

 だからといって殺されてしまう訳にはいかない。

 私とてこの村の危機を何度も救ってきた、それだけの交渉術や威厳が私にはある!

 とりあえずこの女の動機と情報を集めなくては…。)


「そ、その何が望み?欲しい物なら何でも持っていいわ、それともまさかこのオークの奥さんだったりするのかしら?」


 ブチッ、何かが千切れるような音がした。

 その瞬間セラが一瞬でベッドまで移動しミリシェラの両頬を片手で掴み掲げる様に宙に浮かせる。


「私は独身ですがぁ?てめぇ様にはオークに見えたんですかねぇ?」

「あがッ!がががッ!」


 ミリシェラが痛みによる苦悶の表情を浮かばせながらセラと目を合わす。

 その瞬間全てを悟ったかのように絶望に追いやられた表情に変わった。


(この女の目!これから人気が出るであろうアイドルや萌えキャラの顔面を躊躇(ちゅうちょ)なく殴り飛ばす事が出来る目をしているッ!

 目的の為ならばその界隈のご法度や禁忌に容赦なく土足で踏み込むことが出来る目だッ!

 この女にはやると決めたらとことんやる覚悟があるッ!)


「私の…私の事は好きにして下さい、ですが他の…他の村の者達には…手を出さないで下さい。」


 諦め。一体何が原因でこの人が怒っているのかが分からない(確かに先程の発言は間違いではあったが)、だが今はもうどうでもいい。

 せめて村の長として恥ずべき行動を控えこの運命を受け入れようと思った。

 恐怖に涙が零れる、少しでもその恐怖を軽減する為に目を閉じ両手を握る。

 死を受け入れ無抵抗ながら体を震わすが一向に一撃の衝撃が体を襲わない。


「セラフィーナさん降ろして!ストップ!ストップ!」


 スッとミリシェラの体が床に降ろされセラが手を離す。


「だ、大丈夫でしたか?ミリシェラ。」

「あぁ…まさか救ってくれるのがルナだったなんて、今まで尽くしてきた甲斐があったというもの…。」


 ミリシェラがルナを抱きしめルナも手を背中に回す。

 空気と化していたオークもうんうんと頷いていた。


「あのぉ~、言葉次第ではまだ救われてないんですがぁ?」


 2人を覗くように見開いた目を至近距離まで近付け放った言葉がピシっとその場を石のように固まらせる。


「な、なな何がご所望でしょうか?生憎金目の物はこの村にはありませんが?」


 息が止まりそうになりながら震える声で問う。


「とりあえず夜の情事を止めて貰える?うるさくて眠れないのよ。」


 すぐさまミリシェラが思念伝達の魔法で村全体に情報を伝え、先程の一分にも満たないやり取りを記憶ごと全員に送り込む。

 瞬間に辺り一帯に聞こえていた喘ぎ声がピタッと止まり、風の音以外聞こえない本来あるべき静寂が村全体を覆った。


「こ、これでよろしいでしょうか?」

「いいわよ、また明日の朝に顔出すからそれまではこの家に居てね。じゃあ帰るわよ」


 ミリシェラは(きびす)を返す姿を見てホッと胸を撫で下ろし一息を漏らす。

 その瞬間セラが振り返りドスドスと歩み寄る、ビクッと再度ミリシェラに緊張が走った。


「そういえばさっき欲しい物何でも持って行っていいって言ったわよねぇ。」


 ニタァッと目を細め不気味に笑う、貰えるものは貰う。未だかつて見たことの無いシスターの姿がそこにあった。

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