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1話 いわゆるお通し

「魔物」それは人類にとって害となる存在。

 

 あるいは明確な脅威を持つ異形の生物・存在を指す総称である。

 

 その起源や形態は多種多様であり、獣のような本能に従う者から、知性を持ち策略を巡らす者、人語を解し社会を築くものまで存在する。

 

 いずれも共通するのは、人間や他の理性ある種族にとって「害」となり得る存在であるという点だ。

 特に魔物によっては女性や子供を標的にする傾向があり力を持たない残虐性と野蛮な本能に多くの種族が悩まされている。

 

 奴らは罠を張り巡らし、時には集団で襲い、本能に身を任せ行動をする。

 そして襲われた者達が一体どんな目に合わされるかは想像し難い。

 無事帰って来れたとしても深い傷やトラウマを植え付けられることは容易に想像がつくだろう…。

 そういった魔物の脅威から人々を救い出し1体でも多くの魔物を排除すること…それが冒険者に課せられた使命である。

 そしてまさに今、私たちの目の前には3~4mはある魔物――巨大なスライムと敵対しているのだった。

 

 スライム。

 

 それはゲル状の粘体であり細胞分裂を繰り返しあらゆる生物を取り込み成長していく魔物。

 その思考が読み取れない姿に相手を選ばない獰猛さは極めて危険な存在と言える。

 小さな個体であれば脅威とまではならないが大きな固体や群体ともなれば話は変わる。

 酸性の体液を分泌し近付けば粘体を伸ばし捕縛、そのまま体内に取り込まれてしまっては身動きは取れずそのまま捕食されるという。

 そのまま取り込まれてしまったが最後……。

 という話も幾分に聞く為この魔物には決して安易に近づいてはならない。


「ぶつぶつ言ってないで早くどうするか決めてくれないかしら?何なら私が殺ってきてもいいけど?」

 

 眉間に皺を寄せ、かったるそうに殺す等と物騒な言葉を口にしているのは金髪シスターのセラ。

 地面には聖職者が皆持っているであろうスタッフを置いて手にメリケンサックを嵌め込んでいた。

 何故シスターがメリケンサックなのか?

 だがそれは今は大事な事では無い為省かせて頂く。


「ふざけるな!見ろあの透明感とプルプルなボディを…、もし取り込まれたりしたら一体どんな目に合うか…いいかお前ら、絶対にそこから動くなよ!絶対にだ!」

 

 ここまで言わないと分からないのかと憤慨する。

 許せお前たちの為なんだ、仲間を危険に晒す訳にはいかないからな。


「チッ…、ならさっさとしなさいよ。」

「えぇ?いいんですかアネットさん一人に任せて……。」


 そう心配そうにしてるのは銀髪ロリダークエルフのルナ。

 身体の小ささから魔女のコスプレをしているように見える外見ではあるが歴としたエルフの装備であり、魔法のエキスパートで我がパーティの火力は随一と言える。


「頑張ってアネットちゃん、無理はしないようにね。」


 私を唯一応援してくれるのは黒いチャイナ服を身に纏ったべルヴィア・ナクターナ。

 サキュバスの女王であり何故同行しているかは…まぁ今は置いておこう。

 だがそんなことより今は目の前にいる魔物だ。


「ようやく来たな、この時が。」

 

 胸の高鳴りを抑えつつ腰に刺さった鞘ごと地面に投げ捨て満を持してスライムの目の前に立ち大地を踏みしめた。

 両脚は岩のように揺るがず、胸を張りバッと両手を広げる。

 仁王立ちをして相手の動きを待つその姿は守護神その者の様に見えていることだろう。


「私が相手だ、かかって来い!」

 

 傍から見たらスライムから仲間を守っているように見えなくも無い。

 仲間から距離は大分あるが守っているのだ、決して好きにしなさいといった意味はこれっぽっちも無い。


「「「あっ。」」」

 

 私を除いた他3人の気の抜けた声が同時に聞こえた。

 

 スライムがうねうねと動いたかと思うと巨体をもろともせずにぴょんと飛び跳ね、体全身を使って私の頭上から圧し潰す。

 と同時に私の全身がスライムの中心部へと飲み込まれた。

 きっ、キタァ…そう含んだ笑みを浮かべるものの何か違和感を感じる。


「フフッ………ッ⁉ごぶっごぽぽっ……んん~!、んん~!」

 

 ………なんてこったい。スライムの身体の中は呼吸が出来ないのだ。

 当然と言えば当然かもしれないが、じゃあ子供に「スライムの体内では呼吸できるんですか?」と聞かれて答えられる奴がどれほどいるかという訳で…。

 そんなことはどうでもいい今は呼吸をしなければ。

 

 水中を搔くように顔の前で手を必死に動かす。スライムの粘体が掻き出され何とか空気を確保することが出来たがそれも束の間。


「ぷはっ、ちょっ、たす…ごぽぽっ。」

 

 その抵抗も空しくスライムの粘体の壁がすぐさま閉じる。


「せ、セラさんさっきたす…って、助けてって意味なんじゃないですか?」

「たす?私にはカスって聞こえたけど?あの状況で罵倒してくる何て見上げた度胸ね。」

「頑張って~アネットちゃん必死な姿も可愛いわよ~。」


 誰も近付いてこない…、助けてくれる気配がしない…。

 何て非情な奴らなんだ、仲間がこんなに苦しんでいるというのに…。

 

 だが空気は何とか確保できた、この間に打開策を考えなければ…。

 かろうじで身体を動かすことは出来る、だが腕を伸ばすとその方向へ粘体がゴムの様に伸び弾かれてしまう…どうしたものか。

 そうこう考えていると皮膚がピリピリとしているのを感じる。

 これはまさか⁉服だけを溶かす溶解液的なやつなのでは…、くっこんな仲間の前で辱めを受けるなんて…。

 が、このスライムは私の想像を超えるものだった。


「おっ、おぉ?お゛ぉお!?」

 

 ひ、皮膚が…ゆっくりとではあるが溶けてきている⁉

 それと同時に激しい痛みが押し寄せてくるッ!

 ちなみに着ていた鎧や衣類は全く溶けてすらいなかった、寧ろ汚れが落ちて綺麗にになっている気がする。

 まずいマズイ不味い。

 ここから早く抜け出さなければ…

 手や足を必死に動かすもののそれに伴いスライムはプルンッと揺れるのみ。

 何なら身体の締め付けが強くなってきている気がした。


「せ、セラさん⁉ちょっと様子おかしくないですか?何だかもがき方がさっきよりも激しいような…。」

「う~~ん、もう一声!」

「すごいわぁ、普通ならもう骨になっていてもおかしくないのに…。」


 はえ~~、と博物館の展示品を鑑賞するように興味深そうな3人の表情が私の両の(まなこ)に映し出されている。

 そして誰も動こうとする気配も無い!


 痛い、痛い、痛すぎる。肉と皮膚の境界が曖昧になり、神経だけがむき出しにされていくような激痛が、波のように押し寄せては引いていく。

 全身の血液が沸騰し猛烈な熱を帯び溶けだすような感覚。

 激痛の中仲間達に文字通り死に物狂いでジェスチャーを送った。

 

 首と手を振る、全身を使いT字、×字を作るも反応してくれない、動こうともしない。

 仲間とは一体何なのか⁉

 全く以て度し難い!


「ひっひぃいいッ!セラさんさすがにもう助けるべきでは!?」

「アネット!最後にあんたの昔にやりたいって言ってたポーズ、あれをやりなさいな。」

「とりあえずモザイクの魔法を掛けとくわねぇ。」

 「っぐ……あ゛ああああっ……!!」

 

 声にならない悲鳴が漏れる。

 もはや痛みという概念を通り越して、脳が錯乱し始めるほどの灼熱が身体全体を焼き尽くす。

 やりたいポーズ?こんな状況でそんなものあるか!と思ったが1つ思い当たるものがあった。

 意識が遠のく寸前に最後の力を振り絞るように強張った筋肉を動かす。


「うっぇえがぽぽぽっ。」


 そのポーズを行った瞬間にスライムがパァンッ!と一瞬で弾け飛びセラの全くと言っていいほど無い胸の中へと沈み込む。

 上を向きながら舌を出しダブルピースを行う。

 そんなことをセラに言った気がするし、取り込まれる前までは絶対にしてやると意気込んでいた。

 

 助け出したセラは地面に横たわる私の体(骨が見えている箇所)をつつきビクンと反射する様子を楽しんでいる。

 ルナが駆け寄り回復魔法を掛けてくれようやく声が出せる程まで回復する。


 「し、死ぬがどおもっだぁああ!」


 涙は現在の体の構造上出なかったが間違いなく泣いていた。

 生の実感に安堵したからかは分からないが生きることの幸せを身に染みて感じる。


 「よく頑張ったわねぇ、どんな姿になっても私は好きよぉ。」


 なら助けてくれませんかねぇ…。

 そう思いながら回復魔法を一切掛ける素振りをしないドSシスターに目をやる。


「やったじゃない、あんたの夢がまた1つ叶ったわよ。」


 確かに…でもね…、そういうことじゃないんだよね。

 

 何か思っていたのとは違う、トラウマがまた1つ増えただけだった。

 

 後にルナは助け出されたその姿を見た時の事をこう語った。


「ゾンビの笑った顔よりも怖くて狂気を感じました。」と。


 下瞼がドロンと溶け目玉が剝き出しになり、唇や舌も変色していて顎や頬骨が見えていたらしい。

 それこそモザイクが無ければ見た者を絶叫させるほどの…。

 

 これは女騎士アネット・グレイヴァルの私利私欲を満たす為だけの物語というのには烏滸(おこ)がましい冒険譚である。

 世界を救ったりお涙頂戴等のシリアスな場面は一切期待しないで頂きたい。

初投稿です。

ストックが切れるまでは毎日投稿していきますのでどうぞよろしくお願いいたします

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