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初めて「羽ばたく鳥停」を休んだ。強制ログアウト以外ずっと働いていたんだけど別に嫌になったわけじゃない。給料から宿代と食事代を引いてもそこそこたくわえが出来たした。可愛い衣装を着せられて酔っぱらいの相手をするのも……まぁ慣れはしないけれども、ギリ嫌じゃないことも無いかもしれない。
私ぐらいの年になると、社会に受け入れられて構成する一員として役割を与えられるという事に幸せを感じるようになるものなんだ。年寄りになると、何処に行っても邪険に扱われて邪魔にならないことを求められるようになってくる。そうやって社会から切り離された孤立した老人になるのはとてもつらい事なのだ。なので、仕事と役割を与えて貰える上にお給料までいただけるのは、なんて幸せな事なんだと。だから、妙に肌色面積が多いお仕着せを押し付けられたり、酔っぱらいの相手をしたり、その酔っ払いが尻を触ろうとしてきたりしても……ゴメンヤッパ辛いわ。
冗談はさておき、セクハラでGMコールしてやろうかと思ったけど、中の人お爺さんがセクハラで訴えるって正直どうなの? って思うし、トラスやバニングほか触ってくる数名がNPCだった場合、演出だから嫌なら場所変えろって言われたら、そっかーとしか言いようがないし、女将さんに相談してみたら「笑顔であしらえるようになったら一人前よ」って言われちゃったし。まぁ奴らはそこそこのベテラン冒険者なので、からかわれているだけでエスカレートは絶対しないんだろうなってある意味信頼もある。過剰に反応するから遊ばれているんだろうなぁ。
まだまだ女としての経験値が少なすぎるというわけか、とほほ。
そういえば、次ログアウトしたらリアル体の変体が完了しているみたいなんで、一度精密検査を受けに来るようにと、ゲーム会社からメールが来てたんだよな。なんでも認知領域現実が物理的現実身体にフィードバックする研究の被検体に一次合格したんだってさ。まぁタンクベッドを購入してVRMMOをプレイするための資金は個人で出せる金額じゃないのを、学術研究に協力することで企業が負担しているのは見返りがあるからって事だ。
VRMMOをプレイしていたプレイヤーの中に「エグバート事件」のVRMMOを版を発症した事件があったらしく、その身体は物理的変容を伴った事で研究が始まったそうだ。その研究の試行回数のための人体実験的側面もVRMMOにはあるって事だろう、同意書にもちゃんと書いてあったしサインもした。
臨床段階を経て金持ちたちがアモータルに至るモルモットにされるってわけか、現状私にはメリットしかないし、解剖検体同意書や臓器提供意思表示カードにサインするようなもんだろう。
まぁ頭を切り替えて、今はゲーム内の休日を楽しむことにしよう。宿屋も酒場も女将さんが産気づいたとしても閉める訳にはいかないし、女将さんが職場復帰するまで私と7日前に入った新人のカミリアちゃんとで仕事を回さなきゃいけない。そうなる前の最後の買い物のための休日だ。消耗品とか買いに行かねばな。
教えてもらったお店を回って調味料やハーブなどを購入したあと、噴水広場のフードコートで一息ついていた。屋台で買った真っ黒いお茶を飲んでみるとさわやかな酸味と甘さと少しの青野菜のようなにおいがした。コーヒーか紅茶を想像していたのだが、何だか全然違う物だった。
ほへ~としながら何となくバザーエリアを眺めているとギチギチだったバザーエリアもだいぶん隙間が目立つようになっていた。第1陣プレイヤーたちも拠点を移しているのだろう、ワールドアナウンスを切っているので何にもわからんけども。私みたいに町の住人化しているプレイヤーにとって、プレイヤーの誰それがボスモンスターを討伐したから何々の町が解放されましたとか、初の偉業を達成したから何々の機能が解放されましたとか、全然関係ないからなぁ。
町行く人々を眺めてみてもほぼ人間しか居ない。エルフの私を除けば100%人間しか居ないのではないだろうか? プレイヤーの種族比率は人間70%、妖精族10%、獣人10%、その他10%というのをどこかで見た気がする。種族選択は現実の肉体にフィードバックするかもしれないって警告文が有ったらそりゃ怖いよな。人生終わった老人である私にとってはチャンスでしかなかったんだが。
エルフは妖精族に分類されるようだ。あれだけ面白い人種が沢山いたのになんとももったいない話だ。私も勢いで君の姿をモデリングしなければ、絶対面白種族をプレイしていたに違いない。人間とかけ離れた種族を選んでたと思うから、ゴーレム人間とかなってたのかもしれないな。
「そうか、そういうのを探す旅に出てもいいな」
確か、人間領と魔属領があって、特殊な種族は魔属領の初期町にスポーンするってあったな。妖精族は人間領と魔属領に半々だったっけ。何処の誰か知らないエルフさんは私の代りに魔属領にスポーンしたのだろう、ちょっと羨ましい。
よし、女将さんの出産が終わってお店が落ち着いたら旅に出よう、目標は魔属領の初期町だ。そうと決まれば情報収集を始めよう。確かこの町には図書館があったはずだ。お茶みたいなジュースを飲み終えると、私は図書館へと歩き出したのだった。




