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あけましておめでとうございます。
仕事にも多少の余裕が出てきたので、頑張って更新していこうと思います。
どうしてこうなった? 「きゃーにあうー」なんてキャッキャする女将さんを前に、私は呆然と立ち尽くしていた。
ゲーム内で私が働いている宿屋兼酒場『羽ばたく鳥亭』は、女将さんのお腹が大きくなってきたことを機会に新たに店員を募集していたところに、私が応募して採用されたのだった。募集要項はコックで作業内容は調理補助だったはずなのだが、女将さんがお腹が大きくなってきて作業効率が落ちてきた作業を代わりも務めることで、宿屋の掃除やベッドメイク洗濯までやるようになった次第だ。まぁ私的には家政スキルを上げたかったので、全く問題が無いどころか、バッチコイの大歓迎だったのだが……。
「いや、これは流石に無いんじゃないですか?」
「大丈夫!」
力強く肯定してくれる女将さんに手を引かれ、酒場についてしまった。
「「「おおー」」」
時刻はディナータイム、すっかり顔馴染みになった常連客達から野太い歓声が上がった。女将さんにグイグイ押されて酒場の真ん中まで来てしまった、っちょ力強いなこの妊婦。私は今とても女々しか姿をしている。白のブラウスにオレンジ色の膝上10㎝の巻きスカートを履き、業務用のエプロンの上から太めのオレンジ色の腰紐がウエストを絞っている。ニーソックスにこれまたオレンジ色の踵のあるパンプスまで完備だ。生足より絶対領域の方が恥ずかしいのはなんでだろうな?(哲学)
「見てこのウエスト、内蔵入ってるの?」
そう言って私のウエストを測った形を手で表した女将さんは「なんか腹たってきた!」と私の脇腹を揉む事で憤り表した、っちょやめて、あなたは妊婦だから仕方ないでしょ。
「おっぱいを強調するかウエストの細さを強調するかで迷ったんだけど、我ながらいい仕事したわー」
大満足の女将さんを尻目に私はゲンナリモードだ。神戸屋の制服のようなディアンドルのような谷間を強調した服を提示した後で今着ている服を提示された、見事なドアインザフェイスを決められてしまったのがこの有様だよ。
「3番テーブル上がったよ!」
女将さんの旦那さんで酒場のマスター兼料理長のセローさんが、カウンターにドンと乗せた鳥の丸焼き香草詰から漂う湯気と香りが酒場に充満した。
「はーい、今行きまーす」
つい何時もの条件反射で返事をして、お盆に丸鳥を乗せたものの、3番テーブルは1番テーブルと2番テーブルの間を抜けた壁際だった。
両手に持ったお盆の上に丸鳥を乗せてテーブルの間を抜けようとすると、椅子に座った酔っぱらいの常連達がニヤニヤしながら門番のように待ち構えている。無視して通り抜けようとすると、案の定私の尻に左右から手が伸びた。
バチン!
素早くウィルオーウィスプを尻と手の間に召喚すると、静電気の5倍程度のギリギリダメージが入る程度の威力に抑えられた衝撃が、不埒な手を弾き飛ばした。
「お前らも懲りないもんだな」
蔑んだ目で一瞥をくれてやると「いい女に声をかけるのは男の義務ってもんよ」そうサムズアップを決めた常連のトラスを無視して3番テーブルに丸鳥を置く。
「たまにはお酌してくれてもいいんだぜぇ」
酔っ払いのバニングの戯言を無視してさっさとカウンターまで戻った。
「1杯奢ってもらうくらいの役得があってもいいのよ?」
女将さんがエールのジョッキを3つ用意したので手を上げている酔っ払いどもに配り終えると。
「仕事中に飲むつもりはありません」
そう返しておいた、お酒にはあまり強くないし。
「私が結婚したら売上落ちちゃったのがさ、ノーラちゃんがウェイトレスやってくれるようになってから売り上げが戻ったから、本当に感謝してるのよ?」
「そっち方面で売上を伸ばしても、私は期間限定なんですから頼りすぎちゃダメですよ」
「えーノーラちゃんエルフなんだしずっと若いジャン、できるってーずっとやろうよー」
出産予定日が第2陣の少し前なので、タイミングとしてはちょうどいいんだよな、最近女将さんのお母さんが出産準備の手伝いに来てくれるようになって、お店も女将さんも余裕が出てきたところだった。
「私は冒険者なんです、女将さんの出産が終わるまでの契約期間が済んだら冒険に出るんです」
正直にいうと、この住み込みの宿屋兼酒場の授業員生活がかなり楽しかったりする、でもやっぱり冒険もしてみたいのだ。今の私の職業表記は、精霊使いではなくコックになってしまっていた、精霊スキルのLvも1上がり、召喚精霊をリメインスペル化することも可能になり、竈門にサラマンダーくんを常駐させることができるようになった。不可視化したウィルウォーウィスプを尻に常駐させたり高速召喚できる様にも威力を加減することもできるようになった。なのに今現在ものすごい勢いで上がっている接客スキルがコックを追い抜かせば、職業表記がウェイトレスになってしまうだろう。ウェイトレスはちょっと嫌なんだよなぁ……この酔っ払いどもはすぐ私の尻を触ろうとするし。
「1番と2番にエール!」
ドンとカウンターに置かれた6つのジョッキを、一度には持てないので(マジックユーザーは非力なんだよ)3つだけ持って、1番テーブルに運ぶのだった。




