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駅前の図書館があるエリアは行政地区となっていて市役所やらハローワークやら税務署やらが集中している、その周りには行政区で働いたり訪れたりした人たちが食事をする飲食店があった。その一角にあるファーストフード店でテイクアウトしたハンバーガーを図書館前のベンチで食べていた。
今の私の姿はダブダブのスゥエットに、背中まである明るい金髪と尖った耳を詰め込んだニット帽をかぶり、サンダルを引っ掛けた一見すると見窄らしい、被災地の炊き出しに並んでいそうな格好だった。そんな図書館のガラス壁に映るハンバーガーを食べている女性は、野暮ったい格好をしていながら、どこかスタイリッシュに見えてしまうのは、美人というのは得なものだなと思わずにはいられない。
身体のサイズが小さくなってしまったので、ハンバーガーを1つ食べたらもう十分だった。チラチラみてくる男どもが声をかけて来そうな気配から逃げ出すように昼食を切り上げると図書館の中に入った。向かうは家政科のジャンルがある棚だ。
ゲームの中で私は宿屋兼酒場でコックの職を得て働いていた。冒険者ギルドで第二陣がログインして良さげなパーティーを探すまでの間、家政系スキルのLv上げをする事にしたのだった。料理スキルはキャラ作成時にとっていたものの、家政スキルという料理スキルを含む大枠があることを知ったために家政スキルを上げるために家事全般を経験できそうな、宿屋健兼酒場で働く事にしたのだった。
元々VRMMOに使われている技術は職業訓練を圧縮された時間内で短期間に習熟するためのトレーニングシステムだ。一人暮らしも随分長いが、一度キッチリ家政の技術を勉強してみて、現実世界にフィードバック出来ないか試してみたかったのだ。
背の高い本棚から料理本を一冊「美味しいひき肉レシピ」と、生活知識の棚から「お掃除の基本から応用まで」と「お洗濯のいろは」を取り出すと、貸し出しカウンター近くの見晴らしが良い椅子に腰掛けて、まずは「美味しいひき肉レシピ」から読む事にした。お昼に食べたハンバーガーをゲーム内でも再現できたらいいなって思ったから。
1時間ほどで「美味しいひき肉レシピ」を読み終わった。ハンバーガーのレシピは残念ながら載っていなかったが、ハンバーグの脂肪と赤みのおいしい割合や、混ぜるパン粉や卵の意味や硬さの調節から焼き方や注意すべき点が細かく載っていたのでこれはこれで非常に有意義な本だった。これなら酒場の料理で再現して出してもいいんじゃないだろうか? おいしいハンバーグを作れるだろう。本を読んでいる最中に声をかけてくる男もいなかったので、席選びは正解だったな。貸し出しカウンターにはずっと係の人がいるし、見晴らしがいいので2人きりになる事がないのが勝因だろう。しかし目立ってしまっているのは難点かもしれない。
しばらく余韻に浸った後、次の「お掃除の基本から応用まで」を手にとってまた読み始めた。
ガッツリ3冊を読みきって頭が煮えてきたので少し休憩する事にする。目を瞑って興味深かった部分を反芻していた。まぁ図書館だし本を借りてもよかったのだが、どうせ明日からまたログインしっぱなしになるので本を持って帰っても読むことはないだろうというのと、図書カードは作っていたがそれは以前の姿の名前のままなので、明らかに男性名が書かれた図書カードである。突っ込まれたらなんて答えたらいいのか正直わからない。
無意識のうちに脱いでいたニット帽を被り直して、金髪と耳をしまう。耳は髪で隠れていたから見えていないはずだ……たぶん。
時計を見ると針は午後4時を指していた。今日は世間では日曜日だ、日が暮れてから飲食店が混む訳でもない。しかしこの姿で1人で外食をするというのも、何かこう、勇気がいる。
帰り道の途中にあるホカ弁でも買って帰る事にしよう。6日間ログインしっぱなしになるので自炊しようにも、作り置きを消費することはできないだろう。数食分を一度に作らないと自炊だと割高になってしまうのだ、仕方がない。
本を返却棚に返すと(図書館の棚には並び方にルールがあるため、正確な並びがわからない場合返却は返却棚に返した方が良い)貸し出しカウンター係の人に目礼をして図書館から出ることにした。なんとなくそこからホカ弁までの道のりを逃げるように走り出した。
自意識過剰? いや、ゲーム中にね、男がつけてくることって結構あるんですよ、いやマジで。美人って大変だなって、君もこんな事で困っていたりしたんだろうかなんて、今更思う今日この頃です。




