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リアル日数で10日が過ぎた。その間に1日タンクベッドのメンテが入り、本日は2回目のメンテナンスが終わったところである。メンテナンスといっても、業者のお兄さんがやってきて自己診断プログラムを走らせると、清掃用ロボットがタンクベッドを掃除して栄養カートリッジと老廃物カートリッジを交換しておしまい「確認のサインをお願いします」とサインをすれば、30分程度で立ち合いメンテナンスは終わった。
「明日の朝7時までログインできないのか……」
定年してから半月、ほぼログインしっぱなしだったのでリアルではやることが無いのだ。タンクベッドの全介護モードで寝っぱなしだったのに、働いていた時よりも体調は良い。今は午前11時なので、お昼ご飯でも食べに外に出ようか、そう思い部屋着のスゥエットから外出用のジーンズに履き替えようと足を通すとウエストがガバガバになってボタンを止めてもストンと落ちてしまう。
「そりゃぁ体が軽いわけだ」
全介護モードを健常者が使った場合、相性が良いと健康になるために体調が大きく変化する場合があると購入時にレクチャーを受けたが、なるほどこういう事なのかと納得した、老廃物カートリッジがパンパンになるわけだ。
「これが服を買いに行くための服がない状態か」
衣装ケースをひっくり返しても今の私のサイズに合う服がない、パンツですらずり落ちる始末だ。タンクベッドのコンディションモニターを確認すると適正体重にチェックが入っているので大丈夫なのだろう、多分。でも身長が下がってないか? いやこれ本当に大丈夫か??
半裸のままラジオ体操をやってみるが実に快調である。以前ならば前屈をして見てもお腹がつっかえて床に指先が届かなかったのに、今は手のひらまでピッタリとつく。開脚をしてみれば、180度足が開いてそのままうつ伏せに寝転がることができる。
「いやいや健康になりすぎだろう」
柔軟になり過ぎた体で中国雑技団ごっこをしながら関節の可動域を確認していたが、本当に柔軟すぎる……まぁ健康になったんだから、いいか。この事実を騒ぎ立てることでログイン出来なくなることを恐れた私は、この事実にあえて目を逸らす事にした。
楽し過ぎたのだ、VRMMOの中の生活が、今更あの生活を手放すことなんてできない。
仕方がないので、スゥエットのウエストの紐をギュウギュウに絞ってなんとかずり落ちないようにすると、洗面所の鏡の前に立った。そこには明るい金髪で緑眼の耳が尖ったよく見知った顔があった。
「金髪緑眼でこんなに印象が変わるのか」
それは髪と目の色が変わった、君の顔だった。近頃シワとシミがめだちはじめた、白髪8割の年老いた男の姿は何処にもなかった。1度目のメンテナンスで既に兆候が現れていた、それに目を瞑ってさらに1週間ログインしっぱなしで過ごしたのだ。ある意味で覚悟はできていた……パンツの中を確認する勇気は無いけれど。
サンダルを引っ掛けて(足のサイズも小さくなっていた)服を買いに行く途中でふと思いついた。まだ身体の変調は終わっていないはずだ。VRMMOの中のキャノーラの3サイズはもっと、こう、すっごいんだ。いや違うんだ、男の願望がモリモリに盛られているのは否定しないが、君に不満があったわけじゃないんだ。記憶の向こう側の君に言い訳をしてみても、なんとなく後ろめたい気持ちが抜けないまま、服屋ではなく図書館のある区域へ歩き始めたのだった。
キャノーラの3サイズはヴィブロスぐらいです、男の願望に現実みろってLvですっごいです。




