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やってしまった。
キャラクターエディットを担当している困り顔のAIさんの足元で orz の姿勢で後悔している私の姿は、薄っすらと青く発光する人型だった、かまいたちの夜に出てくるような人型のシルエットの様な姿とでもいうのだろうか? その私の後ろには、丹精込めて作り上げた私のアバターが両腕を広げた姿で立っていた。
「どういたしましょうか」
「本当に、保存することは出来ないんでしょうか?」
困りましたねぇとにこやかに頬に手を当てているナビゲーションAIさんに、私は何度目かになる問いかけをしていた。
「あくまでこのゲームのアバター作成システムですので、他の媒体に出力するようにはできていないんですよ。配信システムはありますが、あくまで動画配信ですので、アバターデーターの保存ではありませんし……」
「そう、ですよねぇ」
初めはなんとなくだったのだ、アバターをデザインするにあたり性別を変更できるという事をナビゲーションAIさんに教えてもらった時、本当に何となく君を再現してみようと思ってしまったのだった。我に返った時には寝食を忘れてただひたすら、思い出の中の君を、長い年月によって劣化してしまった記憶を理想と願望と妄想で補完しながら、ただひたすら、君を再現するという作業を続けていた。私にはデザインをするセンスも無ければ技術も無い、それを時間と情熱で何度も何度も何度も何度も思い出の中の君を再現するためにトライ&エラーを繰り返した結果が、私の後ろに立つ「君」だった。
失った恋人を捕り物すために、狂気の研究に没頭した天才科学者や錬金術師の物語をいくつか知っているが、その彼らの気持ちが私には理解できる気がする。やっと再び会えたんだ、言葉を交わす事も触れる事も出来ない、ただ無表情で立っているだけだとしても、確かに目の前に、君が居るんだ……。
作り上げるためにどれくらいの時間がたったのか分からない、そして完成した君のを飽きることなくどれくらい見つめ続けていただろう、何日もかかったのかもしれないし一瞬だったのかもしれない。ナビゲーションAIさんに呼び掛けられるまで君をずっと見つめ続けていた。
「このアバターで冒険を開始しますか?」
ナビゲーションAIさんの問いかけに私はハッとなった。アバターデータは出力できないし保存もできない、この「君」の姿を保存するためには、私が「君」の姿で、ゲームの世界にダイブするしかないのだ。
「このアバターで冒険を始めます」
「わかりました、それでは、ステータス設定モードへ移行します」
ナビゲーションAIさんがサッと手を振るうと青く光る人型だった私の体が、君の姿に差し替えられ、目の前にポップアップウィンドウが開いた。
「誓約書、本VRMMOにおいて、本来の性別と異なる性別を選択することにより何らかの症状が発生しても、自己責任であり、セルノー社を訴える事をいたしません」
そのポップアップウィンドウに私は躊躇なくサインをした。君を再び失うくらいならどんな姿になっても構わない、その気持ちは本物だった。
サインを確認するとナビゲーションAIさんは微笑みながら言った。
「あらためまして、ようこそベルナートVRMMOへ。では、キャラクターのステータスを決定いたしましょう。まずはお名前を教えていただけますか」
「名前はキャノーラです」
アバターをデザインしている間、ずっと考えてた名前を口にした。こうして、私+君=キャノーラがベルナートの世界に産声を上げたのだった。




