18
アクション回
「群れが来るよ!」
ミーナちゃんの掛け声を合図に、私は精霊に呼び掛ける。
「汚染の精霊、お願い」
汚水が持ち上がると津波のように奥へと続く下水道を駆け抜けていった。まだ見える範囲に入っていなかったデカイGや疫病ネズミが、絡め捕られるように汚水の津波に飲み込まれて押し流されたのを、汚水の精霊を通して感じていた。
「半分抜けた、トシ君」
「任せろ」
トシ君はショートソード二刀流を構えると、シャープスタンスを取って前方へ駆け出した、命中率を上げると同時に攻撃サイクルを確保するスタンスだ。半面攻撃力と防御力が下がるが、スウォームを相手にするには最適と言っていいスタンスだった。
「盾、茨の衣」
トシ君に防御力アップとダメージシールドの支援魔法をかけ直す。
「先鋭」
トシ君のショートソード二本とミーナちゃんのショートスピアに攻撃力のUPの付与をかける。使ううちに分かったのだが、先鋭は攻撃力UP効果もあるが武器の消耗を抑える効果もあった。武具は消耗品だが長持ちするに越したことはない、下水道の様な過酷な環境では特に。
トシ君が群れの中に突っ込むとショートソード二本を振り回した、次々と叩き落されるGとネズミ。それでもショートソードを搔い潜ってトシ君に齧りつくGとネズミは茨の衣に刺し貫かれて弾き飛ばされた。かすり傷が増えていくトシ君にヒールを飛ばしながら魔力の残量をマネジメントする。
大丈夫、複数のリメインスペルの維持に魔力回復量が拮抗している、ヒールの消費魔力はバッファで補っても20分は継続可能だ、最適効率でスウォームを殲滅すれば5分後には戦闘は終了するだろう。保険として魔力の余裕は十分だ。
「後ろから!」
トシ君を抜けてきたGやネズミから私を守っていたミーナちゃんの索敵が新手を感知したらしい。挟撃か、汚染の精霊に私の魔力総量の半分を一気に渡す。喜ぶ汚染の精霊に汚水を立ち上げてもらい後ろの通路に蓋をする。
「3分!」
私の魔力が持つ時間を宣言する、ミーナちゃんがトシ君へ走り寄り正面の殲滅を手伝い始める。抜けてきたGに多少齧られるが、まぁそれで倒れるよりも魔力が切れて後ろからの群れに飲まれるのが先だろう。
急激な魔力消費に冷や汗をダラダラ流しながらも、二人の背中を頼もしく見ていた。トシ君はお気に入りの大剣を仕舞ってショートソード二刀流に切り替えた。環境の最適解を自分なりに考えて私とミーナちゃんに相談してくれた。ミーナちゃんはGやネズミを見るだけでキャーキャー騒いていたのに、今じゃ積極的に叩き潰している。ショートスピアは彼女なりの妥協点だったのだろう。魔力がどんどん減っていくが、並行して魔力回復と魔力消費軽減のスキルレベルが一つずつ上がった、こういう切羽詰まった状況だとスキルレベルがよく上がる、ピンチはチャンスという事なんだろうか。
汚染の精霊も下水道に入ったばかりのころは全然いう事を聞いてくれなかったのに、今じゃ率先して私を手伝おうとしてくれる、要求される魔力も最初に比べて半分くらいになった。「精霊との親和性+」がここにきて仕事をしている。汚染の精霊は本来プレイヤーに敵対的な精霊っぽい。まぁ自分以外に精霊使いを知らないので、よくわからないんだけどね。
そんな事を考えているうちに魔力が完全にゼロになった。ここからがエルフの本領発揮である。「魔力の限界」スキルが仕事をし始める。魔力がマイナスをカウントし始めると先ずスタミナが減り始める。マイナスが増えるたびにスタミナ消費が加速していく、そして元々少なかったスタミナ量がゼロになると私は膝から崩れ落ちてorz状態になった。もうこれで一歩も動けなくなったし逃げられない。しかしまだまだここからである。ものすごい勢いでマイナスを刻む魔力に比例して体力がミルミル減っていく。
「ゴホ、ッゲホ」
呼吸するだけで咽たと思ったら、吐血した。
あ、魔力の限界スキルのレベルが上がった。
「ノーラ!」
前方を殲滅し終えたトシ君が私を抱き上げようとするのを押しとどめて、後ろを指さす。
「任せた」
それだけ言って汚染の精霊に頼んで汚水の壁を解除する。汚水の精霊は名残惜しそうに帰っていった。すし詰めになっていたGとネズミが押し寄せてくるが、汚染の精霊にダイブ食われていたのだろう、それほど多くは無かった。
トシ君とミーナちゃんは顔を見合わせて頷くと、後ろの群れに突っ込んでいった。魔力消費量が魔力回復を下回ったことで一息ついた私は、二人にかけた補助魔法を維持することに努めて、一休みさせていただくことにした。
土曜日はしごとだったん。
現実はつらいね。




