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「アーコロジーに引っ越しですか」
セルノー社の支社か営業所の応接室で、トントン拍子に進む話に圧倒され、宇宙猫の顔と頭になっていた。頭の中では、でっかい企業はいっぱいお金持ってるんだなぁ、だって健康診断の呼び出しなのに、ハイヤーでお迎えに来たし。とか考えてた。
「防犯と、研究的にも妥当かと。もちろん新居も費用も弊社で負担させていただきます」
ええっと、今日って精密検査を受けるからって、ログアウトしてから水しか飲んでないんだよな。そろそろ15時か、お腹減ったなぁ(現実逃避
「日取りに関しましては、本日はこのまま併設する宿泊施設に泊まっていただいて、明日アーコロジーへ移住するための防疫措置を午前中受けていただきます。午後から住居と周辺の案内を予定しております」
「あの~本当に引っ越さなきゃダメですか?」
そう言った私の顔を見て、セルノー社から来た担当の人の顔が真顔になり懐からスマホを取り出して、私に見せてきた。スマホの画面には、コインランドリーの椅子に座った金髪緑眼エルフさんが、ファッション雑誌を読んでいる動画が映っていた。
「あ、私だ」
「他にもあります」
図書館で本を読んでいるニット帽をかぶったエルフ姉さんの画像、数枚スクロールするとニット帽を取って伸びをしている画像に切り替わった、長めのキラキラ輝く金髪から長く尖った耳が突き出していた。最後の動画はリクルートスーツを着て美味しそうに牛丼を頬張る、金髪エルフさんの動画だった。あ、これは先週に健康診断に行く服が無いけど、ネットで買うにもサイズが分からないし、買いに行く店も分からないし何を買えばいいかも分からないしで、結局吊るしのスーツを売っているいつものスーツのチェーン店でリクルートスーツを買ったんだよな、今着ているパンツスーツと同じ姿だ。
「この画像がSNSで出回ってしまっています」
「うへぇ、なんでですそれ」
肖像権の侵害じゃない? そう思って担当の人を見ると、深いため息をついて首を振っていた。
「肖像権に関しては、削除依頼は完了しています。しかしあなた自身に自覚が足りなさすぎます」
なんか怒られた。
「あなたはもう、アモータルの一員なのです。美貌、長寿、不老、歴史の権力者が求めて止まなかった、ハイソサイエティ垂涎の三点セットを手に入れたのです。その危険性を、もっと自覚をしてください」
「え? そうなんですか??」
「そうなんです、攫われて変体爺のペットならまだましな方です、バラバラにされてパーツ取りされたり、魔術や迷信の素材にだってされ得ます」
えええ、何それ怖い。
「SNSの拡散状況から、本当に危険な状態なんです、アーコロジーに移住しましょう」
「はい、移住します」
なんか超展開になってきたわ。
「了承を頂きましたので、これより今住んでいるお部屋を引き払わせていただきます、貴重品や個人情報などの物品で何か指定はございますか?」
「あ、写真立てに入ってる妻の写真は保管しておいてください」
断捨離どころか終活も終わったもんな。タンクベッド以外は貴重な物も特にない。
「では、行きましょうか」
担当さんに手を取られて、立ち上がると、そのまま手を引かれヘリポートまで連れていかれた私はヘリコプターに乗せられて機上の人となったのであった。
「どうなっちゃうんだいったい……」
私の呟きは、ヘリコプターのローター音にかき消されて、誰にも届かないまま消えていったのであった。




