大好きな友へ。~ひとつの嘘が始まりだった~
――あなたと出会えて本当によかった――
『ちょっと距離置きたいんだけど、少しの間一緒に行くのやめない?』
YOASOBIの「ハルカ」が鳴ると共に届いた、一つのメッセージ。
ショックだった。
でも、不思議と涙は出なかった。
『……うん、解った。部活の帰りとか大丈夫?
本当に辛い時は言ってね。』
こうするしかないのだと思い知らされた。
どうして、どうして……その問だけが頭の中で回っていた。本当に信じられなかった。
いや、信じたくなかったんだ。そこまで思い詰めていたとは思ってもみなかった。
しばらくして再び「ハルカ」が流れた。
『今本当に奈美といるのキツいんよ。今はもう前みたいにはできない。部活の時は大丈夫だから。』
涙が出た。声を押し殺して泣いた。
私といるとキツい……その言葉が深く私の心に突き刺さった。
『……解った。本当にごめんね。』
送信。そして私は、静かにベッドに横たわった。
◆◇◆◇
みっちゃんと出会ったのは、小学一年生の時だった。今はもう、うろ覚えでしかない記憶だが、確かに、みっちゃんのお誕生日会の写真に私も写っていた。
「すごくない? ばっちり写ってるし。昔、仲良かったんかねえ。覚えてないけど」
そう言って、みっちゃんは笑った。
私も覚えていないと言って笑ったけど、本当は、嘘。
はっきりとは覚えてないけど、うっすらとだけなら覚えている。
でも、みっちゃんが覚えていないのに、私だけ覚えているなんて言えないから、合わせて言っただけだ。
私の住んでる団地に新しい小学校が出来て、途中からそちらへ移ったから、お互いのことをあまりよく覚えていないのだろう。
中学も一緒だったけど、グル―プなんかが違っていたりしたせいもあって、みっちゃんと私は関わりのない存在だった。
「ごめ~ん!」
「遅い~」
不機嫌そうなみっちゃんの顔を見る度に、明日こそは! っと思うのだけれど、そうそう人間の生活週間は変えられない。もう五分でも早く起きられれば、みっちゃんの顔をそんな不機嫌にさらすこともないだろうに。なかなかそれが出来ない。
「三十一分のに乗って行くよ」
三十五分の電車を待って乗れば乗り換えもせずに着けるのだが、三十一分に乗って一本前に出た電車に乗り換えるのには訳がある。
「今日は会えるかね」
「絶対会うよ!」
力んでるみっちゃんを見て私は笑った。
みっちゃんには好きな人がいる。
でも、その人は学校も違う一つ年上の男で、同じ弓道部のため、大会などで顔を知っている程度なのだ。
だから、毎朝同じ通行路を通るその男を一目見ようと電車の時間を計算しているのだ。
「も~、長谷さんまじかっこいい~」
「そう? 私のタイプじゃないなあ」
毎朝のろけるみっちゃんに私はあっさりと答える。
「なんでよ~。まじかっこいいじゃん」
「まあ、人の趣味はそれぞれだしね」
私とみっちゃんの趣味は本当に違う。まったくもって正反対だ。性格も、のんびりした私に比べて、みっちゃんはしっかりしている。
そんな私達がどうして一緒にいるのかと言うと、同じ高校に受かったからだ。
しかも、その学校に通う生徒が近所にみっちゃんと私しかいない。そんな私達でも、いつの間にか何でも話せる仲になっていた。
「昨日、何時間電話しよったん? 二時間以上はしてたじゃろ」
「え~? 昨日は一時間しかしてないよ」
「一時間も? それだけしたら十分すぎるよ」
毎朝交わされる話題は、まずみっちゃんの恋ばなから始まって、私の恋ばなになったりする。
「それより、お金すごいんじゃないの? 毎日電話一時間はするんでしょ?」
「うん……。それは私も気になるけえ、聞いてみたんだけど、気にしなくていいって」
私の毎日電話している相手は、SNSで知り合った21歳の男だ。何度か会ったこともあって、今では私の想い人となっている。
「あのさ~、今日先に帰ってもらえん?」
「なんで?」
私がこれを言ったらみっちゃんは何て言うだろう……という不安が胸を過ぎる。
「今日の放課後、直人と会う約束しちゃったから……」
はっ?! っと驚いたような顔をして、みっちゃんが言った。
「危ない、危ない」
「危なくないよ。そんな人じゃないもん」
「それは分からないでしょ? いつ何が起こるか分からないし」
「そりゃあそうだけど……。直人はみっちゃんが考えてるような人とは違うよ」
「なんでそう言えるの? そりゃあ、私はその人のこと何も知らないけど、奈美だってその人の全部を知ってるわけじゃないでしょ」
ずきん。胸が痛んだ。
「それは~、そうかもだけど……」
腑に落ちない顔をしてみせても、みっちゃんには敵わない。みっちゃんの言ってることは誰が聞いても正しいと思うだろう。
SNSで知り合って、数回しか会ったことがない人(しかも車持ち)を、そう簡単に信じろと言う方が無理だろう。世の中が、世の中だから、本当にいつ何が起こるか分からない。
それに、みっちゃんは私のことを本当に心から心配して言ってくれてるのだ。そこまで私のことを心配してくれる人はみっちゃんだけだろう。
そんなみっちゃんだからこそ、私は何も言えない。
「もう告られた?」
ずきん。また胸が痛んだ。
「ううん。告られてなんていないよ」
最近みっちゃんは、このことばかり聞いてくる。その度に私の胸が痛んでいることを、みっちゃんは知っているのだろうか。
私とみっちゃんはクラスが違う。主に学校の行き帰りと、部活の中だけでの関係だ。それでも、みっちゃんとは何でも話せる仲になっている。
「おはよ~」
「おはよう」
クラスの友達とある程度あいさつを交わしてから、私の学校生活が始まる。
「どしたん? 元気ないね」
いつも学校で一緒にいる由美が声をかけてくれる。そう、最近の私は変だ。
「うん……、なんか、ね」
そして、今日みっちゃんに言われたことや、最近感じていることを話した。
由美は、それを真剣に聞いていてくれた。
「だから。最近、みっちゃんといるのがちょっと、辛いんだあ……」
みっちゃんの言っていることは正しい。
でも、それが私を傷つけていることをみっちゃんは知らない。性格上、はっきり人にモノを言うタイプなだけであって、みっちゃんに悪気はない。それは、高校に入って1年以上も一緒にいた私にはよく解る。
でも、最近そんなみっちゃんといると、疲れを感じてしまう自分がいる。
それはどうしようもない事実だ。
「そっか~。みっちゃんもはっきりモノを言う人だからね~」
由美ともまた、何でも話せる仲だ。みっちゃんとは対照的で、どちらかと言えば私の性格に近いものがある。
だから、由美には心の奥底にあるモノまで全部うち明けることができる。私が何を言っても、由美ならそれを全部受け止めてくれるからだ。
みっちゃんは、私が変なことを言えば、ためらいなく文句を言うだろう。もちろん、悪気があってのことじゃない。私とみっちゃんの関係だからこそ、言える事でもあるのだ。その証拠に、今までみっちゃんに言わなかったことは何もない。
みっちゃんは、私にとって大切な友達の一人だ。
◆◇◆◇
その日の放課後、私は直人に会った。学校の近くにある公園で待ち合わせをした。直人は自慢の車で来ていた。
「直人」
「お! 来た、来た」
私は、車の中にいる直人に半分開いた窓から声をかけた。そして、車に乗った。
直人に会うのは数週間ぶりだ。前に1回、由美と直人の友達と4人で遊んだことがある。
それ以来、私は直人のことが好きになった。話しやすい直人は、どこか関西人を思わせるところがある。一緒にいて楽しくて、どこか安心させられるところがある。
そして、外見とは裏腹に誠実で優しい直人に私は惹かれた。
「どこに行こうか?」
「ん~、どこでもいいよ♪」
私達は、しばらくドライヴした後、小さな広場で話をした。直人といる時間はすごく楽しくて、私にとってとても大切で貴重な時間だ。時間が過ぎていくのがもったいなく感じる。
(このまま時間が止まればいいのに……)
そんな私の気持ちはお構いなしに時間は過ぎ、あっと言う間に直人といる時間は終わってしまった。
「今日はすごい楽しかった。また遊ぼうや♪」
「うん。私も楽しかった。ありがとね」
そして、私達は〝ばいばい〟を言って別れた。
この時の私には、この先、辛いことが待ち受けているとは思いもしなかった。幸せに溺れてしまっていた私には……。
その夜、いつものように直人から電話がかかってきた。すごく嬉しかった。なんだか今日は物足りなくて、もっと話がしたかった。
『今日は楽しかったなあ~』
「うん」
『また遊んでやってや♪』
「うん」
直人の声を聞くと安心する。
『今日は目標があったんよ』
「目標? なに?」
すると、直人は初め秘密だと言って教えてくれなかった。
でも、私がしつこく聞くので、言いにくそうに答えてくれた。
『実を言うと、手をね、繋ごうと思って……』
「手?」
私の心がドキンと疼く。
『……うん。でも、まだ会って2回目だし、出来なかった』
少し照れくさそうに笑う直人の声が、私の心をくすぐる。
『でも、次はがんばる!』
「あはは、がんばれ☆」
その後はよく覚えていない。どうしてその話になったのか、よく分からない。
「え? 好きな人、いるんだ……?」
『うん。好きな人はいるよ』
胸が騒いだ。何が起きているのか解らなかった。ただ解るのは、直人には好きな人がいる、と言うことだった。
『ん? どうした? 大丈夫かあ?』
「え? うん、大丈夫だよ~♪」
私は、平静を装った。動揺していることを知られたくなかった。悔しかった。
『じゃあ、また明日な』
「うん。おやすみ」
『おやすみ』
ぷつん。電話が切れた。私と直人との関係も、これで切れたのだと思うと涙が込み上げてきた。
スキナヒトガイル……
それからしばらくして、スマホの「ハルカ」が流れた。
『今日の電話で言ったこと。もう、俺の好きな人バレバレだな~』
頭の中がぐちゃぐちゃで、直人からのメールの意味が理解できない。
『なんか、直人の言ってることがよく解らないよ。好きな人がいるのに、他の人と手を繋ぎたいって思うものなの?』
涙はいつの間にか止まってた。
『こら、こら。ふつう好きでもない人と手を繋ぎたいなんて思わないだろ?』
うぬぼれちゃいけない。本当の真実が知りたかった。直人の気持ちが……。
『それって、友達の好きとかじゃなくて?』
チャットを打つ手が震える。送信。
『俺は、女の子として奈美のことが好きだよ』
この胸に広がる想いをどう伝えたらいいのだろう。こんなことは生まれて初めてだ。いっそのこと、明日学校に行って、由美に相談しながら返事を送ろうかとも考えた。
でも、次から次へと来る直人からのチャットが、それを許さなかった。
『奈美は俺のこと友達としてしか見れない?』
『迷惑だった? ……ごめん。』
涙が出そうになった。チャットじゃ、いまいち実感が湧かないけど、直人が私からの返事を待っている気持ちだけは確かに伝わってくる。だから、私も自分なりに精一杯の気持ちで答えた。
『ごめんね! 迷惑とかそうゆうんじゃないんよ。ただ、何て言ったらいいか解らなくて……。私、直人のこと友達としてじゃなくて好きだよ。』
送信。そして、私の新しい日々が始まった。
◆◇◆◇
「もう告られた?」
いつものみっちゃんの問いに、私は嘘をついた。
「ううん。告られてなんかいないよ」
ずきん。胸が痛んだ。でもそれは、いつも感じる胸の痛みとは違った。みっちゃんに嘘をついているという罪悪感からだった。
「よかったじゃん! 直人と上手くいったんだね~♪」
由美は、私の思ってた通りの反応を示してくれた。
「うん」
私は、照れくさそうに笑った。
「それのこと~、みっちゃんには……?」
由美が言い難そうに聞く気持ちは解らなくない。
「ううん。まだ言ってない」
そっか~やっぱり、っとため息をつく由美には、解っているのだ。私がこのことをみっちゃんに言えないでいる理由が。
みっちゃんは、私と直人が付き合うことをどう思うだろう……という不安が胸を過ぎる。最近、いつもこうだ。みっちゃんに何かを言う時は、必ずと言って言っていい程そう考えてしまう。
「怒るだろうな~みっちゃん」
「うん、だろうね」
由美もそれを感じている。みっちゃんが直人のことをあまりよく思っていないことを由美も知っているからだ。
「どうしよう~」
「ん~、何も言わなくてもいいんじゃない? そこまで全部言わないといけないの?」
そう言われると、そうかもしれない。でも、みっちゃんは今まで何でも私に話してくれてたし、私もみちゃんには何でも話していた。
もし、私が直人とのことをみっちゃんに言わなかったことがばれたら……みっちゃんを傷つけることになるかもしれない。それが私は怖い。
「よし! 長期戦でいこう」
「長期戦?」
「うん。直人の良いところをみっちゃんに話しまくるの。それで、みっちゃんが直人のことをいい人だって思ってくれるようになったら、直人とのことを話す。どうかな?」
「ああ、それいいね。私もフォロ―するよ♪」
こうして、私の《みっちゃんに直人の良さを解ってもらう長期戦作戦!》が決行されたのだ。
《みっちゃんに直人の良さを解ってもらう長期戦作戦!》は失敗に終わった。私がいくら直人の話をしても、みちゃんは一切聞く耳持たず、といった感じなのだ。
「ね? 汚れた椅子の汚れを払って、私を座らせてくれたんだよ♪」
「それって、当たり前のことじゃない?」
直人のことを熱く語る私に、みっちゃんは冷たかった。こうして、《みっちゃんに直人の良さを解ってもらう長期戦作戦!》に懸けられた希望は、儚く散っていった。
「どうしよ~」
「もう直人のことは聞く耳持たず! って感じだもんなあ~。もうこの際、隠し通したら? 何も全部言わないといけないってことはないでしょ?」
私は戸惑った。初めは絶対にみちゃんには絶対に言うつもりでいたが、ここまでみっちゃんが直人のことを悪く思っているのなら、どうしようもないのでは、と思い始めていた。そんな私に、由美のアドバイスが私を楽な方へと誘う。
「……うん。そうだね、みっちゃんにはしばらく黙っていようかな……」
ばれた時のことも怖かったけど、それよりも、直人のことを話したことで、みっちゃんに嫌われることの方が何よりも怖かった。
みっちゃんに軽蔑されたくない。嫌われたくない。その想いだけが私を支配していた。
この時は、これでいいのだと思った。でも、今想えば、これがそもそも間違っていたのだ。このせいでみっちゃんとの関係が壊れてしまうなんて、思いもしなかった。
◆◇◆◇
私と直人が付き合い始めてから一週間が経とうとしていた、ある帰り道のことだった。その日はみっちゃんと、SNSと会ってることを親に言った方がいいんじゃないかという話になっていた。
「だって、ここまで育ててくれた親だよ? 隠し事は良くないよ」
「そうだね、考えてみるよ……」
もちろん、親には友達と遊びに行くと言って直人と会っていたのだ。それは将に、私が直人と付き合い始めたことをみっちゃんに隠しているのと同じだ。今まで何でも話してきたみっちゃんに隠し事を良くない……そうみっちゃんに言われた気がした。
「もう告られた?」
毎日聞かれるこの問に、とうとう私は嘘を突き通すことが出来なかった。
「……」
みっちゃんは、よく私に嘘をつけない人だと言う。嘘をつくとすぐに解るっとも……。
でも、それが違うということを、私がこの1週間で証明したことになる。
それでも、さすがにこれ以上は無理だった。
「告られたん?!」
何も答えないで顔を背ける私にみっちゃんは言った。
「いつ?」
「……ちょっと前ぐらいに」
みっちゃんの顔が曇った。
「今まで、言わないで隠してたんだ……」
「ごめん! 言おう、言おうとは思ってたんだけど、言い出せなくて……」
少しの間が空いた。
「すごいショック……」
私は、ただひたすらみっちゃんに謝るしかなかった。言い訳がましいことも何度か言っていたような気がするが、よく覚えていない。そんなことよりも、みっちゃんの表情が気になった。
「でも、由美ちゃんには言ってたんでしょ?」
「……?!」
それを言われると終わりだった。もう、私には謝る権利さえないのだと思った。
その帰り道は沈黙の塊だった。時々盗み見るみっちゃんの表情は、今にでも泣きそうで、それを堪えているように見えた。私は胸が痛んだ。自分がした事を今更のように思い知らされた。
(私がみっちゃんを傷つけたんだ……)
その日、私は家に帰ってお母さんに全部話した。言いにくかったけど、お母さんは真剣に私の話を聞いていてくれた。SNSで知り合った男と今付き合っている、と。
お母さんは怒らなかった。SNSで知り合った人とは絶対会わないと約束していたのに、それを破ってしまって怒られるかと思っていたので拍子抜けしてしまった。
でも、その代わり、条件を付けられた。車に乗ってはいけないということと、勉強の妨げにはならないことだった。車にはもう乗ってしまっていたけれど、そこら辺は隠しておいてもいいだろう(ごめんなさい、お母さん!)。
そして、その条件を私は承諾した。
その後、私はみっちゃんにメッセージを送った。
『今日は本当にごめんね! 言おう、言おうとは思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて……。お母さんにね、全部話してみたんよ。直人とのことと、SNSで知り合ったこととか。思ってたより怒られなかったからびっくりしちゃった(笑)』
ここまで書いて、私は笑った。大丈夫、そう自分に言い聞かせた。
『みっちゃんが私のことを心配して言ってくれてるのは解ってたけど、私は直人のことが好きだし。私、みっちゃんにいつも迷惑ばっかりかけてて傷つけてばっかりだけど、みっちゃんのことは本当に大切な友達だと思ってるし、あ~何て言ったらいいか解らないけど……これからもよろしくしてもいいですか?』
返事は、一日経った日曜の夜に「ハルカ」と共に返ってきた。
『返事遅くなってごめん。メッセージありがとね。私が怒ってるのは、直人と付き合ってる事とかいうことじゃなくて、奈美が私にそれを言ってくれなかった事なのね。私は高校に入って長谷さんのことまで、奈美には一番に全部言ってきたつもり。それで奈美の相談にも自分なりに応えたつもり。私は、すごい奈美が大事だし、自己満足かもしれないけど私も全部言ってる分、奈美も私に全部言ってくれるもんなんだと勘違いしてたから、今回のはすごい悲しかったのと、自分が思い上がってた分、自分にも腹が立った』
胸が痛む。 勘違いなんかじゃない。本当に、みっちゃには何でも話してた。
『奈美が直人のことを言えなかった気持ちもすごい解るよ。そういう雰囲気出してたのも私だし。それでも私は言ってほしかった。。。』
ここまで読んで、私は後悔の渦に巻き込まれた。
(どうして言わなかったのだろう。みっちゃんが私のことを嫌う筈がない。あんなにも私のことを心配していてくれたのに……!)
『奈美からのメッセージで心配して言ってくれてるって書いてあるの見て、私は由美ちゃんみたいな純粋な考え方出来ないけど、奈美がそれを解ってくれてるって思うと嬉しかった。私はSNSで知り合った人と会うつもりないし、好きにはなれないと思う。でもそれは個人個人の価値観や考えだし、私の価値観を奈美や他の人に押しつけるのはいけないことだと思う』
これは、きっと私にも言えることだろう。みっちゃんがそのことを解ってない筈がなかったのだ。ちゃんと、私の価値観も大切にしててくれていたのに、それに私が気付かなかっただけだ。
『今は本当には納得できない自分がいるけど、そのうち納得出来ると思う。直人とがんばってね。』
最後に書かれていた文にみっちゃんの優しさを感じた。みっちゃんは、直人とのことを認めようと努力してくれているのだ。
涙が出た。後悔と悲しみと嬉しさの入り交じった涙だ。
(明日、もう一度謝ろう。そしたら、前みたいに戻れるよね)
でも、それも浅はかな考えでしかなかった。
それから数日間、沈黙の登下校が始まった。やっぱり、どうもまだ前みたいに話せない。みっちゃんの様子は、私に対して怒っていると言うよりも、戸惑い私を避けているように見えた。
(全部、私のせいだ)
私は、その日の夜みっちゃんに電話をかけた。電話口でも、みっちゃんは、どこかよそよそしかった。
それでも私は、今自分が考えていること、みっちゃんには何でも話せる友達だと思っていたこと、そして、前みたいに話せるようになりたいということを全部話した。
みっちゃんは、すぐには無理だけど、私の言いたいことを解ってくれていたようだった。
(あとは時間の問題かもしれない)
私は、まだそんなふうに簡単に考えていた。
そして、再びみっちゃんと恋ばなや馬鹿な話をしながら学校へ行く夢を見た。
でも、事態は思っていたより複雑だったのだ。
◆◇◆◇
次の日、私が風邪をひいて学校から帰った後、ベッドで寝ていると、みっちゃんからのメッセージが届いた。
……私と距離を置きたい……
みっちゃんは、私が思っていたよりも傷ついて悩んでいたのだ。
もう私に出来ることは何もない。あるとすれば、それはみっちゃんを信じて待つことだけだろう。
ここまできて、やっと気付いた。私の中でみっちゃんがどれだけ大きな存在だったのか。これからはしばらく一人で登下校しなくてはいけなくなるだろう。それを考えると胸が痛む。
みっちゃんは、私がどれだけ遅くまで残っていても、遅くに来ても待っていてくれていた。今更のように、みっちゃんの優しさが身にしみて解る。
(もうみっちゃんは私の元に戻って来てはくれない……)
(今度こそ、愛想が尽きて嫌われた……)
そう思うと涙が溢れた。
みっちゃんに嫌われることだけを恐れて、それを避けるためについていた嘘が、反対の結果を生んでしまった。もう後には戻れない。いくら後悔しても、みっちゃんとの関係は壊れてしまった。
私は泣いた。みっちゃんとの楽しかった思い出を胸に抱いて、いつしか眠ってしまっていた。
その時、私は夢を見た。みっちゃんと楽しく話しながら登下校する夢を。みっちゃんはいつものように明るく笑って私の話していることを茶化しながら聞いていてくれた。
戻れるだろうか。あの頃のように。何でも話していた楽しかったあの頃のみっちゃんと私に。
(戻りたい)
その気持ちが私を目覚めさせた。出来ることなら、戻りたい。あの頃のように。
今では壊れてしまった関係も、いつかは修復することができるだろうか。
でも、それにはただ待つしかないのだろう。みっちゃんが気持ちの整理をつけるまで。自分の想いは全て告げた。後は待つしかない。
一度は何でも話せる仲だった私達なのだから、きっと大丈夫だよね。
私はみっちゃんが大好きだから、いつまでも、いつまでも待ってるよ。
完




