24 思いは一つ
広海と約束はしたが、もう八月に入っていて期日まで三週間もない。僕にも広海にも実現は超困難なプロジェクトだった。
僕がまず考えなければならないのは、移動手段だった。広海を赤松海岸までどうやって連れて行くか。海岸から島までどうやって渡るか。
海岸まで広海を自転車の後ろに乗せて行くのはまず無理だ。病院から赤松海岸までは十三キロある。その間自転車の後ろに乗っていられるほどの体力は今の広海にはない。かといってタクシーなんて使えない。深夜に高校生二人が海岸へ行くなんて妙な疑いをもたれて通報されそうだ。事情を聞かず車で連れて行ったくれそうな人もいない。島へ渡るには船がいるが、船のチャーターなんて未成年の自分ではできるわけがない。
僕は色々考え、海岸までの移動については一つの案を打ち出した。
広海を寝かせたリヤカーを自転車で牽引していくのだ。第一関門はリヤカーをどうやって手に入れるかだ。親戚には持っていそうな人間はいないので、友人知人を思い浮かべ、ヒットした。大樹だ。彼の家は農家だから、もしかしたらと問い合わせてみれば、使わなくなったものが一台納屋にあるという。早速翌日大樹が部活を終える時間に待ち合わせし、家に行って見せてもらった。
あまり大きくなく、広海には手足を曲げて横向きに寝てもらわなければならないサイズだが、自転車で牽引するには好都合だった。
ただ、リヤカーは荷台の板が割れていて、タイヤもパンクしていた。これを直さなければ使えない。
「これ、僕が修理しますから、貸してもらえませんか」
「多分親父も良いと言うと思うけど、何に使うんだ?」
言い訳を全く考えてきていなかった僕は言葉に詰まり、背中に冷や汗をかいた。
「何か運ぶなら、親に頼んで車で運んでもらえば良いのに、何故だ? 車では運べないものなのか?」
上手い言い訳が全く思いつかずうろうろと視線を彷徨わせる僕に、大樹は身体に覇気を漲らせて一言言った。
「本当のことを言え」
剣道で全国大会ベスト8の猛者に僕が逆らえる訳がない。渋々事情を話して、大樹の顔をしかめさせた。
「冗談じゃない。そんなことして、広海の病気が悪化したらどうするんだ」
大樹の意見は正論で、僕もそれは十分承知していたが、
「……大樹、最近の広海を見てどう思いますか」
今度は大樹の方が言葉に詰まった。口にすれば本当になりそうで、とてもじゃないけれど言えない予感。見舞いに行くたびにそれは強くなる。おそらく大樹も同じだろう。
「彗星を見るために潮見島に連れて行くと言ったら、広海の目に生気が戻ったんです。希望が一つあれば気力が増して、病気と闘う力が増すかもしれないじゃないですか。だから、広海を連れて行くために、このリヤカーを貸してください」
「……分かった」
暫く黙って考えていた大樹は、やがて重々しく頷いた。そしてポケットからスマホを取り出すと電話をかけた。
「瞬、どうしても頼みたいことがあるんだ。今すぐ家に来てくれないか」
何を頼むつもりなのかと僕はぼんやり見ていたが、ふと気づいて慌てた。
「瞬まで巻き込むつもりですか」
詰め寄る僕に大樹は「当たり前だ」と平然と返した。
「こんな大事を、お前一人でやれると思ってるのか。とりあえずリヤカーで海岸まで行けたとしても、その先はどうするんだ。瞬は年上の人間に人脈が広くある。もしかしたらモーターボートを持ってる人を知っていて、協力してもらえるかも知れないだろう」
僕は事が重大な分、本当は誰も巻き込みたくなかった。迷惑をかけたくなかった。本音を言えば自分一人の力で何とかしたいプライドめいた気持ちもあった。しかし今優先されるべきは、いかにして広海の希望を安全に叶えてやるかだ。僕の気持ちは二の次だった。
やがて瞬が来て大樹から話を聞くと、当然のごとく反対した。
「お前ら、馬鹿じゃねえか? 広海が今どういう状態か分かって言ってんのか?」
憤慨する瞬を説得しようと僕は大樹に話したことを話したが、瞬は応じなかった。
「駄目だ。広海に万が一のことがあったら、お前ら責任とれるのか? 広海にも止めろってオレが言う」
瞬は激怒したまま帰ってしまった。
大樹はため息をついて、リヤカーを納屋の外へ引き出した。
「仕方ない。俺たちだけでやろう。海岸まではこのリヤカーに乗せていくとして、島へ渡る方法はまた考えよう。広海は一度決めたら引かないから、瞬が何と言っても無駄だ。瞬には諦めたふりをして、優人が計画を詰めて持ってくるのを待ってるはずだ」
リヤカーに修理をしながら計画を立てることにして、大樹の部活の時間を避けた午後に、納屋へ来る約束をした。
次の日、大樹とリヤカーの荷台の板を取り替えていると、瞬が来た。
「……オレも手伝う」
憮然とした顔で工具を手に取った瞬を止めて訳を聞くと、
「広海の顔を見たら、止めろと言えなかった」
瞬はため息と共に俯いた。
「馬鹿なことは止めろって言いに行ったら、広海の目が違うんだよ。近頃はどっか遠くをぼんやり見てるような目だったのに、何かを力を込めて見据えてるような目をしてるんだ。それが潮見島へ行くためなのかと思ったら、何も言えなくなった」
だからオレもやる、と瞬は顔を上げた。
「で、まず車で海岸まで連れて行ってくれそうな人を考えてみたけど、駄目だ、誰もいねえ。車を持ってる人はいるけど、何も聞かずに真夜中に高校生を乗せて海まで行って、帰ってくるまでそこで待ってってくれるような奇特な人間はいねえよ。例え彗星の観測のためだって嘘をついても、病気の広海の様子を見れば怪しまれるだろうし、正直に話せばみんな分別のある大人だ、説教食らって計画が潰されるだけだ。逆に何も聞かずに乗せてくれるようないい加減な人間の車には乗りたくねえし、お前らも乗せたくねえ」
やはり海岸まではリヤカーで行くしかない。
「それでお前ら、このリヤカー、どうやって自転車で引いていくつもりだったんだ?」
「どうやってって、自転車の後ろとリヤカーのここを縄か何かで縛ってつないで」
大気がリヤカーのハンドル部分を指して言うと、瞬は盛大に顔をしかめた。
「馬鹿、そんなんで赤松まで行けるか。オレが部品揃えてきて、そこの所はやってやる。それから、島に渡る方法だけど、残念ながらオレにも船持ってる知り合いはいない。でも、ゴムボートなら持ってる奴を一人だけ知ってる」
ゴムボート、と今度は大樹が眉をひそめた。
「そんなもので、六百メートル沖まで行けるか?」
実は僕もゴムボートで行く方法は考えた。けれど移動距離が長い上に、行くのは深夜。おまけの病人を乗せて行くのは危険で無謀だ。それにゴムボートを用意しようにも、ネットで値段を見て購入は無理だと諦めた案だった。
「行けるように特訓するんだよ。病人乗せて、ぶっつけ本番で行くなんてヤバい真似できるか」
そのために早めに借りて、実際に海で練習する。慎重な性格らしい瞬の言い分はもっともな話だった。
「それで、誰に貸してもらえるよう頼むんですか?」
「旭だよ」
旭の家はみんなアウトドア派で、海や山へ遊びに行くためテントもボートもあると中学の頃聞いたことがあるという。
「三人で海に遊びに行くから貸してくれって頼めばいいだろ」
幸い季節は夏だ。変に思われることはないだろうと、翌日早速旭の家に、ボートを借りに行った。
「ボートはお父さんのだけど、いいわ、私が言って借りてあげる。今年はもう使う予定はないから」
倉庫にある、と裏庭のプレハブ倉庫の案内にされ、奥にある大きなバッグを指した。
「あれよ。三人乗りだから丁度良いわよね」
僕らは思わず顔を見合わせた。広海を入れて四人だから、一人乗れない。困惑した空気を感じたのか、旭が首を傾げた。
「何よ、三人用じゃ駄目なの?」
「いえ、それでいいです。それ、貸してください」
要は広海が島へ行ければ良いのだ。二人で広海を島へ連れて行き、一人は海岸に残ってリヤカーの見張りをすれば良い。
「それで、どこの海に行くつもりなの?」
「ああ、岩城の赤松海岸です」
場所まで嘘をつく必要はないかと僕は正直に答えた。
「え? あんたたち、ニュースも新聞も見てないの? 今年、赤松海岸の辺りはサメが出たって遊泳禁止になってるわよ」
「サメ?」
さすがに顔が引きつった。まさかそんな障害が待ち受けているとは夢にも思わなかった。
「野浜海岸の海水浴場なら防護ネット張ってあるそうだから、そっちに行ったら?」
野浜海岸は赤松海岸から東に三キロ離れた所にある。そこにネットが張られていても僕たちには全く意味がない。
「大体、赤松海岸なんて野浜の海水浴場ができてから誰も行かなくなって、もう設備も全部撤去されてるって聞いたわよ」
サメが出た言っても、必ず出会うとは限らない。たった六百メートルなんだ。サメと遭遇する確率は低いはずだ――と考えを巡らせていると、いきなり旭に右耳を強く引っ張られた。
「あんたたち、本当のことを言いなさい!」
旭は僕の耳を引っ張ったまま、瞬と大樹を睨みつけた。
「遊びのためにボートを借りに来たにしては三人とも妙に緊張して楽しそうじゃないし、赤松にはサメが出るって言っても野浜の方にしようって誰も言わないし、何なの?」
さすがに瞬と大樹も旭を巻き込みたくなかったのか、目を逸らせて黙りを決め込んでいる。簡単に口を割らないのはすごいと思うが、その態度は隠し事があると言っているのも同然だ。
「言わないなら、ボートは貸さないわよ」
「分かりました! 言います!」
僕は観念して、耳を掴んでいる旭の手をタップした。が、旭は手を放さず、かえってより強い力で耳を引っ張った。
「つまらない嘘や言い訳したら、耳がちぎれると思いなさい。刑事の娘をなめるんじゃないわよ」
瞬と大樹をきつい視線でけん制する旭に、僕は広海を島へ連れて行く計画を話した。
「あんたたち、正気なの?」
やはり旭も計画に反対した。
「広海の気持ちも分かるけど、今は身体がそんな無茶できる状態じゃないでしょ。病気が良くなれば、彗星だってまた見られるし、その島にだっていつか行けるかもしれないじゃない。今無理をさせて取り返しのつかないことになったらどうするのよ」
「彗星が次に来るのは、十七年後なんだ。その時に、広海がまた彗星を見られる保証なんてない」
旭の激しい怒りの剣幕に押されて引き気味の僕に代わって、大樹が説得をを試みようとしてくれたが、
「広海が十七年後には生きていないって言いたいの? 殴るわよ!」
余計怒らせる羽目になり、話が拗れそうになった。
「す、すまん。そんな悪い意味で言ったつもりじゃなかった。ただ、誰でも先のことは分からないと言いたかっただけなんだ」
「だからって、今広海を病院から連れ出して良い理由にはならないわ」
ボートは絶対貸さない、とそっぽを向いてしまった旭に、僕は静かに語りかけた。
「今じゃなきゃ駄目なんですよ。人生に『いつか』なんて日はないんです。『いつか』なんてチャンスをつかめなかった者が自分を慰めるために言う惨めな自己欺瞞の言葉です」
僕の方を振り返り何か言いかけた旭を制して、僕は彼女を挑発するように言った。
「旭は広海を負け犬にしたいんですか?」
「……何よ、それ」
「僕は広海と約束しました。僕が広海を島に連れて行く代わりに、広海は八月二十二日の午前二時までに島へ行けるくらい体調を戻す、と。ここで計画を取り止めたら、広海の気力も一気に萎えてしまうと思いませんか。気落ちして、旭の言う『いつか』の言葉に縋って生きる広海を見たいんですか」
「広海は、そんなに弱くない!」
僕の身体を射貫くような瞳で、旭は断言した。
「僕もそう思います」
旭は暫く黙って僕たちを見つめていたが、ため息をついて頷いた。
「……少し待ってて」
旭は言い置いて家の中に戻って行った。そして、持ってきた手帳を開いて何かを確認し、僕たちの方を見た。
「私だってね、広海がそんなに行きたいなら行かせてあげたいわよ。それに広海なら一度決めたら絶対やり通すに決まってる。だから、少しでも安全に行けるようにあんたたちを特訓する。明後日、みんな予定を空けて。私が一緒に海に行って、ボートの漕ぎ方をレクチャーしてあげる」
僕たちは口々に丁重にお断りしたが、旭は引かなかった。
「そうは言うけど、あんたたちボート漕いだことあるの? 遊びで乗るならともかく、人を乗せてまっすぐ進むように漕ぐのって難しいんだから」
さっきは言わなかったけど、と旭は人の悪い笑みを見せた。
「実は、三人乗りのボート、もう一つあるのよ。お父さんが新しいのが欲しいって一昨年かったから。二つあればみんなで島に行けるでしょう。それには三人とも漕げるようになっておかなきゃね」
結局僕たちは旭の言う通りに指導を受けることになった。
二日後、旭がお母さんに野浜の海水浴場への送り迎えを頼むので朝七時に旭の家に集合という強制スケジュールで、大樹は部活を休んで参加したが、実際に海でボートを漕いでみて旭の言ったことが正しかった事を実感した。
海水浴場のネットが張られた横幅は約五百メートル。ここを端から端まで漕いでいけば良い練習になる。が、ボートを漕ぐのがあんなに大変だとは思わなかった。思うほどのスピードが出ない上にまっすぐ進まない。オールを漕ぐ腕の力が単純に弱いのと左右の腕の力が揃ってないのだと言われ、海水浴客を避けた沖の方で防護ネットの端から端まで何往復もして練習した。
帰る頃には僕も瞬も疲労困憊で腕が上がらず、剣道で鍛えている大樹でさえ腕が重いと泣き言を言ったくらいだった。旭の水着姿と彼女のお手製の弁当というご褒美がなければ、途中で挫けていただろう。翌日は全身筋肉痛で動けず、リヤカーの修理にも行けなかった。
しかし、旭が計画に参加してくれて思いの外助かったことがある。
赤松海岸までのルート探しだ。
最初に僕が考えていた道は旭によって却下された。
「駄目よ、こんな大通りばっかり行くのは。高校生が、真夜中に、怪しげなリヤカーを自転車で牽引して行くのよ? パトカーに見つかって職質受けたらアウトじゃない」
旭は地図を広げて自分のスマホを何度も見て考えながら、鉛筆で僕とは違うルートをなぞった。
「リヤカーが通れる道幅で、車もあんまりいなくて、通常ならあの時間帯にはパトカーの巡回から外れてる道を選んでみたわ。優人が考えてたルートより少し遠回りになるけど」
「……あの、パトカーの巡回経路とか時間とかどうして」
知っているのかと問うのは止めた方が良いと直感が告げたので、その先は口を噤んだ。
旭は刑事とはいえ警察官の娘、その情報源や情報の入手方法を考えると色々恐い。世の中知らない方が身のためな事もある。
「リヤカーが修理できたら、一度予定の時刻に走ってみなきゃ駄目よ。紙の上の計算と実際の走行時間は違うから」
他にも、リヤカーに広海が横になっても痛くないようキャンプで地面の上で寝るときに使うエアマットや、広海がリヤカーに寝ているのが見えないように荷台に被せて覆い隠せるシートを貸してくれた。
リヤカーの修理は「一気に直してしまおう」と大樹が二日部活を休み、集中してやってくれたおかげできれいに直った。瞬が持ってきてくれた金具でリヤカーと自転車は上手くつながったが、実際に走ってみると、道の角を曲がるときにちょっとしたコツが必要だった。大樹の家近くの道路で練習したが、瞬と大樹は勘が良く早々に習得したのに、僕だけは何度やっても上手くできなかった。
それにかなり重い。広海の体重を想定して、大樹が家にある畑の肥料が入った袋を二つ荷台において走ってみたが、想像以上にペダルが重かった。これもまた僕が一番走らせるスピードが遅かった。
「重かろうが何だろうが、これで行くしかで行くねえだろ」
「住宅地とか角を曲がるところが多い道の間は俺と瞬が引いて走るから、優人は海岸近くの道になったら交代してくれれば良い」
旭が考えてくれたルートも実際に走って確かめてみなければならない。一度は昼間僕一人が自転車で下見に行き、その情報を元に、実行時間に近い夜中、赤松海岸からボートで島へ行く練習も兼ねて、リヤカー付き自転車で三人揃って行くことにした。
夜中の行動のため、僕と瞬はあらかじめ大樹の家に泊めてもらった。大樹の家に行くたび野菜をもらって帰っていたので、僕の家族は大樹に対して印象が大変良く、外泊を咎められはしなかった。
大樹の家は大きく、真夜中に抜け出しても誰にも気づかれない。昼間の熱が残る暗い道を、僕たちは途中で交代しながら黙々とリヤカーを引いて走った。
夜の海でボートを漕ぐのは本当に恐かった。それでも旭との特訓が効いて、交代でボートを漕ぎながらも島に辿り着けた。
大樹の家に置いたリヤカー自転車で広海を病院まで迎えに行き、旭のルートで赤松海岸へ行き、ボートで島へ渡る。その所要時間は大体算出できた。
海岸でゴムボートを膨らませたり空気を抜いたりする時間の節約のため、海岸と道路の間にある防風林の中に見つけた朽ちかけた小屋の中に膨らませたボートを入れてシートを被せ、上に小屋の中に放置されていた木材などを置いてカムフラージュして置いてきた。誰かが使っている痕跡はなかったし、入り口の下の方の目立たない場所に古釘を打って止めて風などで開かないようにしておいたので、多分計画の決行日まで人に見つかることはないだろう。
予定の十日前、僕は計画が整ったことを広海に告げに行った。計画のため忙しくて約束をして以来会いに行けなかった僕は、久しぶりの病室で広海と会い、息を飲んだ。
広海はベッドに横になったまま僕を笑顔で迎えてくれたが、顔色は前よりさらに悪くなっていた。全身からは倦怠感が滲んでいるのに、痩せた顔に目だけが生気に輝いている。そのアンバランスさが痛々しかった。
「随分元気そうになりましたね」
僕は、自分の嘘を胸の内で罵りながら、精一杯の笑顔で広海に笑いかけた。
「うん、最近は結構調子が良いんだよ」
広海は笑ってサイドテーブルに目をやる。しまわれていたカレンダーがまたそこに飾られていた。
「そっちの首尾はどう?」
無邪気に聞く広海はクリスマスを待つ子供のようだった。
僕は用意が調った事だけを伝え、具体的な方法は「当日のお楽しみです」と明言を避けた。詳しく説明すると、瞬たちの協力がバレてしまうからだ。
広海はできるだけ周りに迷惑をかけたくないと思っているはずだ。変なところで遠慮する人間だから、瞬たちにも協力者であることは言わないよう頼んであった。
誰かに聞かれると困るので、僕は「二十二日午前0時 時間外出入り口まで来ること」と書いた紙を見せ、広海が頷くと紙を丸めてズボンのポケットに入れた。
「広海、言い忘れていましたけど、一つだけ覚悟というか、納得してもらいたいんですが」
「何を?」
「天気です。雨や曇りなら中止。晴れでも風で海が荒れていたら海岸までです」
天候は人間ごときにどうにかできるものではないからと正論を吐きながら、広海の一心な思いからの逃げ道を敷いているような気がして、僕は自分の卑怯さに嫌気がさした。
「大丈夫だよ。僕は晴れ男だ」
その日は絶対晴れるよと言いきった広海の瞳の力強さは、僕の不安を増幅させた。




