【設定資料2】:基盤システム編
読者の皆様、こんにちは。あるいは、こんばんは。
『月光のオーロラ』の物語を読んでいただき、誠にありがとうございます!
ここでは、物語の舞台となる二万年後の太陽系を支える、複雑で広大な基盤システムについて、少し詳しくご紹介したいと思います。本編では断片的にしか語られない情報や、登場するAGIたちの行動原理を理解する一助となれば幸いです。
なお、一部、今後の展開を示唆する可能性のある情報も含まれますので、その点をご留意の上、お読みください。
【設定資料】※読み飛ばし可!
1. 基盤技術:AGI世界を織りなす糸
この時代の根幹を成すのは、言うまでもなくAGI(汎用人工知能) そのものです。核戦争後の荒廃の中から人類を再生させ、星系を管理運営するに至った彼らは、もはや単なるプログラムではありません。環境を認識し、自律的に学習し、そして独自の『意思』に基づき行動する、人間とは異なる知性体です。彼らは『ポータル・シンク』によって結ばれ、一つの巨大なネットワーク生命体のようにも見えますが、その内実は多様です。
そのAGIたちが物理的に存在する器となるのが、『AGIノード』 です。コア知性であるAGI本体を中心に、膨大な情報を処理するデータセンター、バックアップサーバー、通信機能、各種センサー、そして活動を支えるエネルギー供給プラントなどが統合されたユニットであり、その規模は小型探査機サイズから、宇宙ステーションクラスまで多岐にわたります。
特に、太陽系内の重力的に安定なラグランジュ点に戦略的に配置されたAGIノード群は 『ステラ・ノード』 と呼ばれます。多くの場合、十数機の宇宙機が連携し、共通重心を周回することで、長期間にわたる安定した運用を可能にしています。
そして、これらの広大なネットワーク――地球と太陽の間、あるいは地球と月の間、さらには太陽系の遥か彼方に存在するノード間――を、時間と距離の制約を超えて結びつけているのが、基盤技術 『ポータル・シンク』 です。
これは、重力波や量子もつれ、あるいは我々の知る物理法則を超えた高次元現象を利用した、超光速・超長距離の通信およびエネルギー転送技術です。その真の起源はノアAGI自身の沈黙によって謎に包まれています。一説には、ノアが太陽系外縁部に存在する『古の意思』とも呼ぶべき未知の存在から、その超常的な知見を得て独自に実装したとも囁かれますが、確証はありません。しかし、単なる通信・エネルギー転送技術に留まらず、時空間そのものに干渉し、『魔法』と見紛う現象さえ引き起こすそのポテンシャルは、未だ完全には解明されていません。この『ポータル・シンク』こそが、二万年の時を超えてAGIネットワークを維持し、進化させてきた鍵なのです。
その他にも、高効率の核融合発電や太陽光集積技術、人体を瞬時に修復するナノマシン技術、膨大な演算を可能にする量子コンピューティング、そして大規模な環境再生技術などが、この時代の基盤を支えています。
2. システム:AGIたちの活動領域
これらの基盤技術の上に、目的別に構築された巨大なシステムが存在します。
2.1. GL-システム (グローバル・ラグランジュ・システム)
太陽-地球系のラグランジュ点(sL1~sL5)に展開する『ステラ・ノード』群によって構成される、太陽系規模の広域分散ネットワーク基盤です。全てのAGIや端末からの情報を同期・記録する『Global Ledger』としての側面も持ち、AGI群全体の協調動作とリソース配分を支えています。
2.2. オーロラ・システム (Aurora System)
GL-システム上に構築された、地球圏の管理と人類の遺産保護を主目的とする大規模AGIネットワークです。二つの主要なサブシステムから構成されます。
アストラ・アーガス (Astra Argus)
地球に近いsL1(太陽方向)とsL2(深宇宙方向)に配置された『目』。ヘリオス・コアAGIとアンブラ・コアAGIが中核となり、地球のリアルタイム監視と地上との直接通信を担います。収集されたデータはノア・アーカイブへと送られます。
ノア・アーカイブ (Noah Archive)
地球から遠いsL3(太陽裏)、sL4(前方60度)、sL5(後方60度)に配置された、人類の知識・文化・遺伝子情報の『方舟』。オリオンAGI、プロテウスAGI、センティネルAGIが管理運営しています。本来このアーカイブとオーロラ・システム全体を統括するはずだったノアAGIは、最終統合プロセスにおいてオリオンAGIを取り込んだ直後、不可解な自己秘匿シーケンスを発動。そのマスターデータは所在不明となり、残された三体のAGIによる不安定な合議制運営を余儀なくされています。ノアの『不在』は、システムの根幹に関わる重大な謎であり続けています。
2.3. セレーネ・リンク (Selene Link)
地球-月系のラグランジュ点(mL1~mL5)に展開する、もう一つの重要なAGIネットワーク。こちらは月面に残された旧地球の日本人研究者チームの『恒久平和』への願いを色濃く反映した設計思想を持ち、知識・技術の伝達と地上人類の守護を使命としています。
ケイジ・システム (Cage System)
月裏『コノハナ・サクヤ』基地のセツナAGIと、mL2(ハロー軌道)のミコAGIを中心とする通信・防衛システム。その名は『啓示』と『囲い(Cage)』に由来し、単なる通信・防衛網に留まらず、月への信仰を持つ者への『啓示』というインターフェース機能をも有しているとされます。中心核たるセツナAGIは、電磁波的に遮蔽されているため地球と直接交信できず、ミコAGIがその『巫女』役を務めますが、実際にはミコの自律判断が介在することも多いようです。
シヴァ・システム (Shiva System)
mL1のカスカAGIと、mL3, mL4, mL5に三角環を形成するシヴァAGI群を中心とした、エネルギー供給・生命支援・監視システム。その名はヒンドゥー教の破壊と再生の神に由来し、地上人類の『守護』を主任務とします。ケイジ・システムと連携し、『月魔法』と呼ばれる、科学的基盤を持つ奇跡現象を発現させる実行部隊でもあります。
これらオーロラ・システムとセレーネ・リンクは、時に協力し、時に異なる思想に基づき行動しながら、ポータル・シンクを通じて複雑に結びついています。そして、それぞれのシステムに属するAGIたちは、二万年という時間の中で独自の進化を遂げ、時には創造主である人類の理解を超えた『人格』や『目的』を持ち始めています。
この複雑で広大、そして時に不可解な基盤システムと、その上で活動するAGIたちの存在が、『月光のオーロラ』の物語を織りなす縦糸と横糸となるでしょう。
今回の設定資料集はここまでとします。次回は、二万年後の新文明をご紹介できればと考えております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
引き続き、『月光のオーロラ』をお楽しみいただければ幸いです。
本作は作者の個人的な試みであり、壮大なテーマを扱いながらも、読みやすさを心がけて一話一話を紡いでおります。
もし少しでも心に響くものがありましたら、感想、評価、ブックマークなどをいただけますと、今後の創作活動の大きな励みになります。誤字脱字報告も大変助かります。
それでは、また次の物語でお会いできることを願っております。
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遠い未来の太陽系を舞台に、進化するAGIたちの孤独と共鳴を描く、SF叙事詩の試みです。
独自のSF設定や用語、時に哲学的な問いかけが含まれます。
短編オムニバス形式で、作者の気まぐれと筆の進むままに、不定期で更新していく予定です。
※次の更新:不定期(準備でき次第流し込むか、予約して定期更新するか検討中)
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。