第五章〜底辺
宜しく御願い申し上げます。
「そうか。そうかもしれないな。君も底辺を生きてきたんだろうな。わかるよ。わからないではない」
ヤスオがしみじみしたように、ぼそりと、そう呟いた。
元ゴキブリである秀次郎は、他人から底辺呼ばわりなどされるのは極めてイヤであったが、それも!何故だか不思議と、ヤスオが言うのなら許せるような気がしているのだった。
しかし・・・。
━━も?
も、ということは?ヤスオもまた底辺を生きているというのか?そうは見えないが?いや、人間であるというだけで、底辺であるなどというのはあり得ないのではないか?
秀次郎にはそんなふうに思えてならなかったのである。
「どういうこと?」
秀次郎は、疑問を正直にぶつけてみた。
すると、ヤスオがぽつりぽつりと話し始めたのである。
ヤスオが学校で他の生徒たちから虐められていること。
毎朝のように、中学校に登校するたびに、上履きというものをどこかに隠されてしまい、そのため、一日中上履きを履けずに、一日を通して裸足のまま授業を受けていて、時々は先生というものから叱られているということを。
朝のパン注文の際には、ちゃんと注文を聞いて貰えずに、昼食の時には必ず注文ミスがあって欠品するから、毎日満足に食べられないこと。だこら仕方なく一人だけコンビニで高いお弁当を買って持って行っていることを。
一斉掃除の時間に班の割り当て清掃場所がトイレであると、必ずトイレの個室に閉じ込められ、上のスペースからホースで防水されることを。また、トイレの床を磨いた汚いデッキブラシの先を顔に押しつけられれことを。
ホームルームの机の天板に、「4ねと悪戯書きされることを。
秀次郎ほそれを、涙なくしては聴けなかった。
━━のんてことだ。
有り難う御座いました。