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第十二章〜侵入

筆が遅い。仕方ない。

教室内には、季節が真夏ということもあって、生徒たちの若い身體(からだ)の放つ熱気が充満(じゅうまん)していて、むわっとしていた。

この湿り気。

━━いかにも秀次郎のような生物が好きそうな湿地帯を思わせる。

先生がこつこつ、と折り曲げた指の角でホワイトボードを叩いている。

注目せよ、という意味に違いない。だが、ヤスオの視線は急降下する秀次郎のキチン質の肉体に釘付けだ。

目標!補足!突撃!

そんな声が、聴こえたような気がした。

すぽ!と音がしたかどうかは知らない。

秀次郎の身體が零の詰襟(つめえり)の首の隙間から、制服の背中の方、内部へと突っ込んでいくのご見えた。

「ひゃっ」

と声をあげたのが零本人だったのかは結局わからなかった。が、彼の大柄な身體が一種団にして十数センチ跳び上がるのを確かに見た。

物音に先生が教壇(きょうだん)から振り向いてこちらを向くのも見えた。

「ひえええっ」

無様にも呻きながら零が身體をうねうねとさせて(もだ)え出すのはすぐ、であった。

「たすけて!」

と、(うな)るように声を(しぼ)り出し始めた彼を見て、いよいよ教室じゅうが異変に気づいてどよめきだした。

それらの光景を、ヤスオはスローモーションでも見るように見詰めていた。

どちらかというと、秀次郎の無事を祈りながら。

「どうした?おい!授業中だぞ!何をしている!?」

怒鳴るような先生の声が響いた。

有り難う御座いました。

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