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ヒスイの楽園

作者: Suica

 俺は小林翡翠、ヒスイハンターをして生活している男だ。ヒスイハンターとは海岸に打ち上げられるヒスイを拾う地元民のことをいう。そのヒスイハンターの中でも俺は自分でいうのもなんだが別格の存在だ。俺の捜索範囲はみんなが探さない沖合の方まで及ぶので、大きい翡翠の原石や青や紫の珍しい色をしたヒスイをとることができた。


 でもそんな俺でも最近はヒスイの採れる量が減ってきていることに気づいた。前までは1日に3個はとることができたのだが、今では3日に1個採れればいい方だった。その原因は恐らく、ヒスイハンターが増えているからだろうと思っていた。今まで自分の他に海岸には2、3人程度しかいなかったのが、今では通常時で5人以上、多い時は10人以上がヒスイを求めて海岸を歩きながら目を凝らしていた。


 俺はヒスイを売って生活していたので、もろにその影響を受けてしまった。ヒスイを採れる場所は限られているので新たに場所を開拓することも難しかった。そこで俺は今日、禁断の地、ヒスイの楽園に行くことに決めたのだった。


 ヒスイの楽園とは手付かずのヒスイの原石が眠っている川の上流のことで、海岸にあるヒスイも元はと言えば楽園から流れてきたものだった。ただし、その川は流れが急でかつ山道も整備されていないのでヒスイを採取するにはとても危険な場所だった。だから、そこへ立ち入ることは禁止されていたし、しかもそこへ入ったまま帰ってこないヒスイハンターも過去にはいたというのだから俺はその場所は避けるようにしていた。


 しかし、今は危険を冒してでも新しいヒスイの採集場所が必要だった。そこで俺は最新の注意を払ってヒスイの楽園に行くことにしたのだった。


 昼間は目立つので、太陽が落ち始める夕方に出発しヒスイの楽園へと歩みを進めた。場所自体は把握していたので、ものの1時間も山を登ればすぐ手前まで楽園が迫ってきていた。暗くなってきたので懐中電灯で周囲を照らし、歩みを進めていると奇妙な立て札が俺の目の前に現れた。


「この先ヒスイの楽園、入るべからず。侵入したもの、ただちに天罰が下るべし」


立て札は子供の書いたような字で書かれていて、乱れていた。俺はとても不気味に思って引き返そうと思ったが、ここまで来たのだからとその先を進むことにした。そこから、しばらく歩みを進めると懐中電灯の光の先にキラリと光るものが見えた。


「もしかして、これは」


近づいてみるとそれは縦横1メートルはある真っ白なヒスイの原石だった。そして、周囲を照らすといたるところにヒスイが転がっていて、黒色、青色、紫色のヒスイも満遍なく散らばっていた。


「ここがヒスイの楽園か」


 取っても取り尽くせないほどのヒスイがそこにはあった。俺はすぐさま片っ端からヒスイの原石を手頃なサイズに砕いてリュックに詰め、またポケットにもパンパンに入れた。俺は笑いが止まらなかった。


「ここに来れば一生生活に困ることはないぞ」


とそのときだった。懐中電灯で照らした先に何かの動物の影が見えた。何だろうと思いそこを照らすと一匹のキツネが赤い目をこっちに向けて直立していた。不気味に思い、すぐに引き返そうとしたが気づいた時には周りをキツネたちに囲まれていることに気づいた。すると、いっせいにキツネが飛びかかってきて俺は身動きが取れなくなった。


「おい、やめろ、やめろ!」


俺は100匹もあろうかというキツネに体を持ち上げられ、川が急に落ち込んでいて崖になっているところまで連れてこられた。すると一匹のキツネがこう言った。


「ただちに天罰が下るべし」


「うわぁーーーー」


男は数日後、川の下流で水死体として発見された。奇妙なことに、男のリュックやポケットにはただの石ころがたくさん詰まっていたという。

ヒスイに似た石のことを別名「きつね石」というらしいです。それに着想を得て書いて見ました。

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