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イチゴループ

作者: 夜空タテハ

「俺が……」

「私が……」

「男女デュオアイドルとしてデビュ〜!?」

 高梨たかなし 舞空まそら石上いしがみ 大地だいちは、同時に驚きの声を上げた。

「男女デュオアイドルってなんですか?! バンドならまだしも、男女でアイドルユニットを組むなんて聞いたことないですよ!」

 舞空が勢いよく捲し立てる。舞空の言うことはもっともだ。しかし、事務所の社長は、曇りなき眼で舞空を見つめて口を開く。

「聞いたことない、だからこそ、そこに金脈があるのさ! まだ見ぬ未踏のその先へ!」

 曇りなき眼どころではない、その目はギラギラと燃えるような輝きをたたえている。本当に自信があるようだ。

「……大地は?! どう思うの?!」

 舞空が大地に振ると、大地は首を傾げなから困った顔をする。

「どう思うって言われても、よくわからないな。……そもそも、どうしてアイドルって男と女に分かれるんだろう?」

「いい疑問だね!」

 大地の言葉に、社長が切り込んできた。

「アイドルが男と女に分かれる理由、まあ色々とあるだろうが、一番は疑似恋愛的な売り方にあるだろうね。最近はガチ恋勢なんてのもいるが……。アイドルと恋愛は、どうしたって切り離せないものだ。一般的にストレート……異性愛者が多い世の中だ、男と女が一緒にいたら嫌でも恋愛がチラつく。そういうもんだ。……私は、その空気を変えたい。いや、違うな、アイドルに男女の差をなくしたい。だから……アンタ達には、男女デュオでアイドルをやってほしいんだ。アイドル界に風穴を開けるような、そんな存在になってほしい」

 真剣な目で語る社長の言葉を、舞空と大地は静かに聞き入っていた。

「……わかりました、社長。私にどこまでできるかわからないけど、やれるだけやってみます」

「……俺も、がんばってみます。俺にできること、全部やります」

 舞空も大地も、覚悟を決めた瞳で社長を見つめていた。

「……ありがとう、二人共。じゃあ、詳細はこれから追々、詰めていくとして、今日はこれで打ち合わせは終わりにしよう。気を付けて帰るんだよ。またね」

「はい、じゃあ、また明日」

「また明日」

 挨拶をして、舞空と大地は椅子から立ち上がった。そのまま荷物を持って社長室から出ていく。

「……未踏の世界、果たしてなにが待っているだろうね」

 一人になった社長室で、社長は誰にともなく呟いた。舞空と大地の前では自信満々のように振る舞っていたが、正直に言えば不安な気持ちはあった。それでも、舞空と大地から感じる眩しさのようなモノに賭けてみたい気持ちがあった。


 ところ変わって、舞空と大地は事務所からの帰り道。並んで歩いていた。ふと、舞空が足を止める。

「……どうかしたか? 舞空」

「ねえ、大地、少し話していかない?」

 舞空は言って、公園の方を指差した。

「……ああ、いいぞ」

「ん、ありがと」

 舞空と大地は、並んで公園に入り、少し歩いてから、あいていたベンチに並んで腰掛けた。

「……男女デュオアイドル、どう思う?」

「……社長室でも言っただろ、俺にはよくわからん。でも、社長がソレに光を見てるなら、俺はそれを信じたい」

「そっかぁ……」

「舞空は、嫌なのか?」

「嫌ではないけどねぇ。アイドルって男女、分かれてるのがフツーだし、男女デュオでアイドルなんて成功するのかどうか、不安だね」

「そういうものか……」

 舞空の言葉を聞いて、大地は考え込むような姿勢を見せた。

「まあ、これもただの私の偏見なのかもしれないけどね。アイドルは男女に分かれるべき、ソレが本当に正解なのか……どうなるのかわからないけど、できることはやりたいな。でも私、ソロでアイドルデビューしたかったのに……」

「俺だってソロでデビューするつもりだった。社長なりに考えあってのことだろう。……もし、うまく行かなくても、ソロでデビューはできるんじゃないか?」

 大地が言うと、舞空は少しムスッとした。

「なに、始める前からうまく行かないこと考えてるの? 私はやるからには本気だよ。絶対に成功させるんだから」

「……そうだな、その意気だ、見習いたい。俺も精一杯やるよ」

「……よーし! じゃ、景気づけに乾杯しよう! ……って言っても、自販機のジュースだけどね。大地はなににする?」

 舞空が立ち上がって、横にあった自販機の前で、大地に尋ねる。

「俺は……イチゴオレがいいな」

「じゃあ私は〜……どれにしようかな、ぶどうジュースにでもしようっと」

 舞空が自販機から飲み物を取り出して、ベンチに戻ってきた。大地にイチゴオレを手渡す。

「じゃあ、私たち二人の輝かしい未来を願って! かんぱーい!」

 舞空が勢いよく飲み物を高く掲げる。

「乾杯!」

 大地も高らかに声を上げて、飲み物を掲げた。

「……ねっ、絶対にうまく行くよね!」

「……そうだな」

 舞空の言葉に、大地は笑顔で頷いた。


 翌日。舞空と大地は再び社長室で打ち合わせだと呼び出された。

「さて……今日は、二人のユニットの名前とコンセプトを決めたいと思っている。……まあ、『前人未踏の男女デュオ』っていうのがコンセプトと言えなくもないかもしれないが……。まず、舞空はどうだ? ユニット名でも、コンセプトでも、思いつくことがあれば言ってくれ」

「んん〜、ユニット名は、シンプルに二人の名前を取って『空と地』なんてどうです? 空からも地上からも、輝きを放って、すべてを照らすアイドル! って感じで」

「……悪くないね。大地はどうだ?」

「俺ですか……。ユニット名は『イチゴループ』ってのはどうですかね? 俺がイチゴが好きだから、ってのもあるんですけど……『一期一会』を大切に、何度でも、一生に一度の出会いと別れを繰り返すアイドル……っていうコンセプトで。アイドルって、そういうモノじゃないかな、って、俺は思うんですよ」

「ほう……」

 大地の言葉に、社長は感嘆のため息を漏らした。

「えー、でも、名前はわかりやすい方がよくない? けど、イチゴってのはかわいくていいかも……」

 舞空はそんなことを言って、首を傾げていた。

「私は大地の言うことは本質をついてると思うよ。アイドルっていうのは一期一会だ。例えば同じ会場で一日に二回ライブがあったとしても、それは同じライブじゃない。ライブは一回きりしか味わえない輝きだ。同じライブなんて二度とできはしない。何度もライブに通ってる常連であっても、同じライブなんてないし、人生で一度しかライブに行けないような人だっているかもしれない。……ライブのことばかり語ってしまったけど、ライブだけじゃない。アイドルとして生きる、アイドルとしての活動すべてが一期一会で、とても大切で尊いものだ。それを忘れちゃいけない。……それを何度もループする、か……イチゴループ、いいじゃないか、それでいこう」

 社長に言われて、大地は喜びのあまり少し震えた。

「社長にそこまで言ってもらえるなんて、嬉しいです。じゃあ、これからどうしますか? 具体的な活動は……デビューライブはいつ、どこになりますか?」

 大地に問われて、社長は苦虫を噛み潰すような顔をした。

「社長……?」

「はあ……言われたんだよ、ライブの運営に。『男女デュオでアイドルなんてありえない』って、ね。まあ、アイドルのライブなんて女子は女子、男子は男子で分かれてるのがフツーだ。そんな反応をされる可能性も考えてたはいたけどね。……というわけで、ライブハウスでやるライブのステージに立つのは当面は厳しいだろうね」

「ということは? 考えはあるんですよね?」

「……路上ライブしかないだろう。ライブハウスで派手にデビューさせてあげたかったけどね。路上ライブでコツコツとファンを増やして、実績を作って、ライブハウスに呼ばれるくらいにしよう。さて、そういうわけで、さっそくレッスンだ。デビューからいきなり曲を用意するのは難しいから、最初は他のアイドルのカバーを歌おう。二人共、好きなアイドルソングをピックアップしてくれ。二人の好きなアイドルソングをやってみるといいと思うよ」

「本当に?! 好きなのやっていいの?! そんなの、好きな曲ありすぎて迷っちゃう〜!」

 社長の提案に、舞空は飛び跳ねて喜んだ。

「舞空は本当にアイドルが好きだな」

「それは大地も同じでしょー? アイドル好きだから、アイドルになりたいんじゃん?」

「それは……そうだな。さて、俺もなかなか迷うな。好きな曲を選べと言われると……」

 舞空も大地も、腕を組んで考え込んだ。社長がそんな二人の前に、紙とペンを差し出す。

「とりあえず、思いついたモノを書き出していくといい。その中から、三人で話し合って決めよう」

「わかりました!」

「はい!」

 大地と舞空は頷いて紙とペンに向き合う。少し時間をかけてリストアップを終えて、二人共ペンを置いた。

 社長と舞空と大地、三人で、リストを眺める。

「……この曲は私は知らないね」

「俺はこの曲を知らないですね」

「私コレわかんなーい」

 三人がそれぞれ紙に書かれた曲名を指差して言う。

「……じゃあ、三人共わかる曲は?」

 指を差して確かめ合う。いくつかの曲は三人共が知っていたので、デビューライブでカバーする曲はそれらに決まった。

「さあ、曲も決まったし、さっそくレッスンだ。……と言いたいところだが、レッスンはまた今度からにしよう。体を休めるのも大事なことだ。打ち合わせだけでもうかなり時間を使ってしまったからね。今日は休んで、また今度だ。じゃあ、気を付けて帰るんだぞ、二人共。またな」

「また明日」

「また明日!」

 挨拶をして、舞空と大地は帰っていった。一人になった社長室の窓から、社長は沈みかけの夕日を眺めていた。眩しさに目を細めながら、これからのビジョンに思いを馳せる。


 帰り道、舞空と大地はまた公園のベンチに座っていた。

「ユニット名、いつから考えてたの?」

「アイドルにならないかってスカウトされた時から、なんとなくかな。ソロデビューばっかり考えてたけど、もしユニットでデビューすることになったら、って考えてた」

「ふーん、そうなんだ。大地はすごいねぇ」

 舞空は思わずため息をこぼす。

「なに言ってんだ、舞空だってすごいだろ。アイドルになりたくて、事務所に殴り込みに来たって、社長が言ってたぞ」

「殴り込みは人聞きが悪いなぁ。私はただ、ガムシャラだっただけだよ。本当に、必死で、アイドルになりたくて。ソレばっかり考えて……。でも、アイドルになるのがゴールじゃなくて、むしろそこからがスタートなんだよね。しっかりしなくちゃ……」

「そんな難しい顔するなよ。世の中、楽しんだもん勝ちだ。全力で楽しめばいい」

「……そうだね、大地の言う通りだ」

 舞空は笑って、立ち上がった。

「じゃ、また明日ね! 明日からのレッスン、がんばろ!」

「おう! レッスンから楽しむぞ! またな!」

 そう言葉を交わして、二人はそれぞれの帰路へついた。


 そこからは、怒涛の日々だった。二人共まだ高校二年生である。学業とアイドルレッスン、両立するのはとても大変だった。

 それでも二人共、一切の弱音を吐かず、ただガムシャラに努力していた。この日々がいつか報われることを夢見て。

「ねえ、大地」

 レッスンの休憩中、舞空が大地に声をかけた。

「なんだ?」

「デビューライブ、楽しみだね」

 舞空はそう言って微笑んだ。

「ああ、そうだな」

 大地もそう答えて微笑みを返した。

 その時、二人はお互いに対してこう思っていた。世界一ってくらい眩しい笑顔だな、と。その笑顔を一番、近くで見ていられることが幸せだな、とも考えていた。


 デビューライブの日はあっという間に訪れた。社長が各所に掛け合って、なるべく人通りが多い場所を確保してくれた。

 二人共コンディションはバッチリで、絶対に楽しいライブになると予感していた。

「皆さんこんにちは〜! 私たち、イチゴループっていうアイドルです! 一期一会を大切に、何度でも! 一緒に楽しい時間を過ごしましょう〜!」

 そんな舞空の言葉から、ライブは始まった。何人かの通行人が足を止めた。

「まずは自己紹介から行ってみましょう! フレッシュな輝きを放ちながら空を舞う! 高梨舞空です! よろしくお願いします!」

「石の上にも三年! みんなを支える大地! 石上大地です! よろしくお願いします!」

 二人の自己紹介は、社長が考えたモノだった。アイドルと言えばキャッチーな自己紹介が必要だろう、とのことだった。だが、この自己紹介が本当にキャッチーにできたかどうか、二人にはイマイチ自信がなかった。

 立ち止まっていた通行人からは、困惑が混じった生暖かいまばらな拍手が送られる。

「ではさっそく! 歌いましょう!」

 舞空が言って、曲がスタートした。

 歌って踊る舞空と大地の姿は、とてもキラキラと輝いていた。

 が、しかし、通行人の反応は芳しくない。

「あー、曲は知ってるわ。でもなんでカップルでライブやってんの?」

「男女デュオアイドルイチゴループ……って書かれてるね。男女デュオ? アイドルってフツーどっちかじゃない? こんなんじゃファンつかないでしょ」

 立ち止まっていた人達が、一人、また一人と減っていく。それでも舞空と大地は、気にしていない風にライブを続けた。

「いよいよ次が最後の曲です! ぜひ皆さん楽しんでってください!」

「盛り上がってこー!」

 大地も舞空も、精一杯に声を張り上げる。そして、最後の曲が終わり、最後の挨拶をする。

「私たちイチゴループは、今日デビューライブで、まだまだ走り出したばかりのユニットです! これから、もっともっと輝けるようがんばるので、私たちを見てください!」

「イチゴループって名前は俺が考えました。一期一会を大切に、何度でも。そう思って名付けました。ここにいてくださる皆さんとの出会いも、大切に胸に抱えて、また何度でも僕らはライブをします。どうか、見ていてください」

 大地も舞空も、深々とお辞儀をして締めた。まばらな拍手が起こり、人々が散って行った。

 時間がタイトなので、二人は大慌てで機材を片付ける。社長も手伝ってくれて、機材を事務所に車で運んでいく。

 車の中では、後部座席に大地と舞空が並んで座っていた。

「……悔しいね」

「……そうだな」

「……もっともっと、たくさんの人に私たちを見てほしい。知ってほしい。私はもっとたくさんの人に、私たちの歌を届けたい」

「……ああ、俺もだ」

「……どうしたらいいのかな」

「なーに、弱気になることなんてないよ。デビューライブなんてこんなもんだ。これから上がっていくんだ」

「……そっか、そうだね。これから、がんばろう」

「ああ、がんばるぞ」

「ふふ、二人共その意気よ! イチゴループ、アイドル界の天下を取りましょ! 大丈夫。貴方たちにはチカラがある。私はそう信じてるから」

「ありがと、社長」

「ああ、ありがとうございます、社長」

「礼なら、ビッグなライブで返してちょうだい。貴方たちがビッグなライブをしてくれることが、最高の恩返しだわ」

「……がんばるよ! 社長!」

「ああ、見ててくれ、社長」

 決意を漲らせる大地と舞空の様子に、社長は心を踊らせた。


 デビューライブから数日が経つ。イチゴループの名前は、まだあまり知られていなかった。今日なデビューライブとは違う場所での路上ライブ。

 大地も舞空も、ガチガチに緊張していた。

「二人共、とっても緊張してるみたいね」

 もうすぐ始まるタイミングで、社長が二人に声をかけた。

「緊張するのは、悪いことじゃないわ。誰だって緊張はするわよ。でもね、緊張に囚われないようにしなさい。適度な緊張はむしろいいパフォーマンスに繋がるわ。大事なのは、自分としっかり向き合うこと」

 社長は言って、二人の肩を優しく叩いた。

「二人なら大丈夫よ。楽しんできなさい」

「……ありがとうございます、社長。楽しんできます」

「楽しむ……楽しむ! 大丈夫な気がしてきた! ありがとう、社長!」

 大地と舞空はそれぞれの言葉を残し、駆け出した。

 ライブが始まる。自己紹介をして、軽く喋って。立ち止まる通行人はやはりまばらだった。

 それでも、大地も舞空も思いっきりライブを楽しんだ。ライブが終わると、まばらな拍手と歓声。人々は散り散りになっていった。

「よくがんばったわね」

 社長が後ろから二人に声をかけた。

「めちゃくちゃ楽しかった〜!」

「楽しかったです、社長、もっとライブ、やらせてください」

 二人は笑顔で言った。額を流れる一筋の汗が、煌めいていた。


 イチゴループの売りは、なんと言っても男女がデュオでアイドルをしているという点である。ソレをあまり押し出せていないのではないか、という話になった。

 社長室での打ち合わせ。しばしのあいだ無言の時間が続く。皆、なにか策はないかと考えていた。

「……アイドルってさ、疑似恋愛的な側面もあるから、男の子は男の子、女の子は女の子じゃん。でも、性別は関係なく応援してる、ってファンも少なからずいるよね。どういう気持ちなんだろう」

 舞空が言って、大地と社長は首を傾げる。

「確かに、そういうファンもいる。だが、問題はそこじゃない。俺達が大事にすべきなのは、疑似恋愛でもなんでも、俺達を見てくれる人に楽しんでもらうことだ。性差は関係ない。……って言うのは綺麗事かもしれないが」

「いいえ、大地の言うことが正しいと思うわ。どんな相手でも、楽しんでもらえるよう、隅々まで意識してどんな人にも全力で向き合うのが、アイドル。私はそう思う」

「でも、じゃあどうするの? 全員に向かい合って、パフォーマンスしてるつもりなんだけどね、私は」

「俺だってそうだ」

「そう、二人共それはできてるのよ。なのにこんなにファンが付かないなんて、誤算だったわ。どうすれば勝機を掴めるかしら……」

「やっぱり、必要なのはオリジナルの曲じゃない? 一曲だけでもさ、カバーじゃなくてオリジナルで、私たちだけの魅力を見せようよ」

「……そうね、やってみようかしら。なるべく早く作ってもらえるよう、頼んでみるわ」

「ありがとー! 社長!」

「オリジナルソング……!」

 大地も舞空も、目に見えて舞い上がっていた。


 それからもしばらく、イチゴループは細々と路上ライブ活動を続けていた。少しずつ立ち止まってくれる通行人が増えてきて、拍手や歓声も増えてきた。SNSでも極少数のあいだではあるが、話題に挙がることもあるらしい。

「今日はありがとう! 楽しかったよ〜!」

「ありがとう〜! めちゃくちゃ楽しかった!」

 ライブが終わり、やりきった二人は少しのあいだその場に立ち尽くす。

「楽しいね……」

 大地にだけ聞こえる小さな声量で、舞空が言う。

「そうだな」

 大地は力強く頷いて答えた。

 社長と一緒に事務所にり、帰り支度をしようとする。そこで、社長の電話が鳴った。

「もしもし?」はい、はい……」

 電話を受けた社長の表情が、みるみると嬉しそうに変わっていく。電話を終えて、社長は大地と舞空に向き合った。

「できたわよ!」

 興奮気味に言う社長に、大地も舞空も不思議な顔をする。

「できた?」

「何が……って、まさか」

 舞空の言葉に、社長は頷いた。

「イチゴループのオリジナルソング! ようやく完成したのよ!」

「や、やったあ〜! オリジナルソング!」

「じゃあ、さっそくオリジナルソングのレッスンですね?」

「そうね、振り付けもすぐできるようにするから、まずは歌を覚えて。ダンスも最高のクオリティーにしましょうね。けど、今日はもう休みましょ。レッスンは明日から」

「……そうですね、今日は疲れてる」

「ええ〜、私まだまだやれるよ? すぐやりたい! オリジナルソング!」

「体を休めるのも大事だよ、舞空」

「……そうだね。じゃあ、また明日、社長。大地も」

「ああ、また明日」

「また明日、ね」

 二人が帰っていった後、社長は一人、舞い上がりながらも、知り合いの振り付け師に電話をかけていた。絶対にこの曲で二人を今より上のステージへ連れて行くんだ、そう思っていた。


 オリジナルソングのレッスンは、順調に進んでいった。本当にすぐに振り付けもできて、大地も舞空も一生懸命に歌とダンスを覚えた。

 大地も舞空も、すごく真剣だった。

 イチゴループの初めてのオリジナルソングは、出会いと別れを歌う切ない悲恋ソングだった。いや、一言で説明しようとするとそうなるが、決してマイナスな歌詞ではなく、曲調は歌詞に似合わず明るくポップな曲調でギャップがあった。

 出会いと別れを大事にしよう、というメッセージ性を感じられる楽曲で、イチゴループの初めてのオリジナルソングとしてピッタリだと、舞空も大地も社長も思っていた。

 ただ、恋愛の歌詞に合わせて、振り付けは少し大人っぽく、二人が密着するような振り付けもあった。まだ高校二年生、思春期まっただなかの二人には少々、気恥ずかしいのではないかと、社長は少し心配だった。

 しかし、大地も舞空も、恥ずかしいなんて感情はほとんど見せずにレッスンをやりきっていた。本当にとても楽しそうだった。


 そうして迎えた、オリジナルソング発表の路上ライブ当日。

「楽しもうね」

「当然!」

 短い会話をしてすぐ、イチゴループのライブが始まった。

 ライブも終盤を迎えた頃。いよいよオリジナルソングのお披露目だ。

「なんと! 次にやる曲は私たちのオリジナルソングです!」

「とってもステキな恋愛ソングなので、ぜひ皆さん聞いてください!」

 そして、オリジナルソングが始まった。切ない歌詞に乗せて、二人のダンスが際立つ。

 足を止める通行人が、いつもより多かった。

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました〜!」

 曲が終わり、二人がお辞儀をすると、爆発的な……とまでは行かないが、いつもより多い拍手と歓声があった。


 事務所に帰って、社長と今日の反省会タイムになった。

「よくがんばったな、二人共」

 社長が言って、大地と舞空の頭を撫でる。

「手応え、あったよね」

 舞空が言うと、大地が頷く。

「私たち、絶対にトップアイドルになります!」

「俺たちのことずっと見ててくださいね、社長」

「……ああ、わかってるよ、じゃ、また明日な」

「はい、また明日!」

「また明日」

 それぞれに挨拶を交わして、二人は帰っていつまた。一人、残った社長は、電話対応に追われていた。


「決まったぞ」

 打ち合わせに来た大地と舞空に、社長は突然そう告げた。

「え?」

「何がですか?」

 二人共、不思議そうな顔をする。

「路上じゃない、ライブハウスでのライブだ。……って言っても、対バンのオープニングアクト。どれくらいお客が来てくれるかわからんが……」

「ライブハウス……!」

「ようやくここまで来ましたね」

 二人はとても嬉しそうにはしゃいでいる。

「ああ、ようやくだな。……それに、せっかくだから、新曲を発表できないかと思って、各所に相談中なんだ。楽しみにしててくれ」

「わあ〜、新曲!」

「新曲……!」

 喜びを隠せない二人を、社長は愛おしそうに見つめていた。


 そして、イチゴループ、初めてのライブハウスでのライブの日。控室で二人はガチガチに緊張していた。

「楽しむことが一番、大事よ。楽しんできなさい」

 社長がそう言って二人の背中を優しく叩く。

「楽しんできます……!」

「楽しむ……!」

 二人はゆっくりと歩いていって、ステージに立った。ステージの上は、照明に照らされてキラキラと輝いていて、目がくらみそうだった。

 オープニングアクトの持ち時間は10分。軽い挨拶と自己紹介、二曲のオリジナルソングで時間いっぱいだった。

 観客はとてもまばら。イチゴループを目当てに見に来た客はいなさそうで、ケータイをいじっている者もいる。

 そんな中でも、二人は全力のパフォーマンスを見せた。今までで一番と言えるパフォーマンスが、毎回のライブでできるよう、一番を更新していけるように、二人共、意識していた。

 ベストを尽くせたライブだった。悔いはなかった。

 まばらな拍手と歓声に見送られて、二人はステージを後にした。

「……今度は、さ」

 控室に戻る道すがら、舞空が呟いた。

「今度は、もっとデカいステージで、観客みんなを沸かせようね」

「……ああ、そうだな」

 大地が頷くのを見て、舞空は満面の笑みを浮かべた。


 この後、更に高みへ、イチゴループの二人は駆け上っていくことになる。一期一会を、大切に、胸に抱えて。


〈了〉

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