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寄り道好きのユキ  作者: ソドムとゴモラの獣
アンテスロム氏族
99/110

シーン7

話を終えたユキ達は一度就寝した。


────────────────────


朝起きると、ユキは早速任務に就こうとするヴァザンに、何か困ったことがあったらリリィという人物を頼るように伝えた。


組織の立ち上げの最中だろうが、役に立たないことは無いだろう。


リリィとは、酒場の店主であるアビエドを通じてコンタクトがとれる。


それを聞いたヴァザンは頷き、騎獣の大狼に跨った。


装備が整えられ、先日までの着の身着のままの姿と比べると格段に様になっている。


ヴァザンは狼具が取り付けられた大狼の他に、もう1頭、ほぼ何も取り付けられていない大狼を連れる。


それはユキが飢爺から教わった戦術の一つである、騎獣の他にもう一頭を連れ、移動中に荷物や狼具の交代をすることで移動速度が格段に上がるというものを実践したものだった。


ダンと考え方を共有し、実用化を目指していた戦術だが、昨日初めて大狼に乗った人間が即日実践できるものではない。


いくら大狼がゲンタと通して訓練が施された軍狼だとしても、ユキはヴァザンが難なく替え狼を連れる様を見て、才能の一片を感じざるを得なかった。


全く、天は人に何を与えるか分からないものである。


────────────────────


ユキ達は大狼を2頭連れたヴァザンを見送り、今度はダンだけではなくユキを交えた調練を行った。


まず部隊全体の動きを見たユキは、一度ユキが思う騎兵の動きの及第点まで付け焼刃で鍛え上げた狼族達に比べて、やはり狐族は素人目から見ても動きがぎこちなかった。


まぁ、それが普通である。


何の違和感も感じさせないほど、難なく大狼を乗りこなしていたヴァザンがちょっとおかしいのだ。


一朝一夕で騎獣を乗りこなすのは異常である。


訓練された軍狼であることを差し置いても、難なく騎乗は出来ても疾駆や密集陣形は難しいというのが普通だった。


ユキはヴァザンが帰ってくるまで数週間、自身も含めて全員の騎兵としての動きを徹底的に鍛え上げた。


やはり狼族の隊員も、今まで付け焼刃だったこともあって、時間をかけてジックリ調練を行うと多少ボロが出てくる。


ユキはそれらを許さず、隊員が欠けることも覚悟で、殺す気で鍛え上げた。


幸い死傷者は出ず、騎兵としての動きが熟練者と見紛うほど向上したが、部隊の人間の顔は死人のようになっていた。


────────────────────


ユキ:

「いや~楽しいですね。」


ユキは孤児院で、子供達の世話を主に担当しているロッティと院長であるエディと共に晩酌をしていた。


子供達が寝静まった、大人の時間という奴である。


ユキはこの時間が好きで、物心ついたばかりの子供だった頃から無理して夜更かしして参加したものだったが、どうやら今の孤児院にそんな物好きな子供は居ないようだ。


ユキは部隊の調練中、週1くらいのペースで孤児院の晩酌に顔を出していた。


流石に自分だけ夜を愉しむというのも不公平だと思ったので、部下達にも自由時間を与えている。


部下達はユキが給与代わりに渡した軍資金片手に酒場で呑んだり、宿をとってフカフカの寝床で泥のように眠ったりしているらしい。


まぁ、何にしろ愉しんでいるなら良いのだが。


ロッティ:

「いや~、ユキちゃん もう十人長かぁ~。

五人長だったのが昨日のように感じるよ~。」


ユキ:

「何を数年前の話をするみたいに しみじみしてるんですか・・・。

私が五人長になったのは、ほんの1ヶ月前くらいの出来事ですよ?」


ロッティ:

「あれ?

そうだっけ?

いや~、凄いよね~。

院長も そう思いませんか?」


卓に載せられた酒精の弱い果実酒で酔ってしまったのか、ロッティはフワフワした口調でエディに話しかける。


エディはロッティの言葉を鼻で嗤った。


エディ:

「フン、何も凄くありません。

当たり前のことが起きているだけです。」


ユキ:

「全く その通りです。

私は凄いので。」


ロッティ:

「わ~院長、ユキちゃんのこと分かってますねぇ~。」


エディ:

「・・・。」


エディは不服そうにムスっとした。


ジョッキに注がれた果実酒を口に運ぶ。


甘い果実酒は、ここに居る全員の好物だった。


酒の肴には、旨味の強い燻製肉が用意されている。


燻製肉はエディが作ったものであり、一昔前からハマっているらしいエディの腕前は、プロ顔負けのクオリティをお出し出来るほどであった。


ユキ:

「ウマウマ・・・。」


ユキが心底美味そうに燻製肉を口に入れると、流石のエディも少し頬が緩んだ。


ユキ:

「そういえばエディ、貴方 昔、氏族の長として老害ムーブかましたらしいですね。」


ユキはふとエディを弄るネタを思い出し、酒の席で切り出してみることにした。


エディ:

「・・・その話をどこで・・・いや、1人しかいませんね。

ブチ殺します。」


ユキ:

「止めてください。

世話になってるんです。」


エディ:

「知ったことではありませんね。」


ユキ:

「・・・。」


二人は睨み合った。


そして無言で表に出ていく。


孤児院の何等かを壊すと、ロッティが面倒臭いことを良く知っているのだ。


打撃音。


血が噴き出す音。


骨が砕ける音。


そして再び打撃音。


二人が帰ってくると、ユキはボロボロだが、エディは軽く擦りむいた程度だった。


しかし、体力的にはユキはツヤツヤしているが、エディは肩で息をし、軽く汗もかいている。


損傷的にはエディの圧勝だが、体力的にはユキの方が圧倒的に優勢といった感じだ。


結局決着が付かなかったのか、エディとユキは不機嫌そうにドカっと席についた。


ユキ:

「・・・次は殺す。」


エディ:

「こっちのセリフだ。」


心なしかお互い口調が荒い。


しかしエディの顔はスッキリしており、付き合いの長い二人は、エディがデナグドを殴ることは無いだろうと察することが出来た。


ユキ:

「で?

何でなんです?」


エディ:

「あ?」


ユキ:

「何で老害ムーブかましたのかって話ですよ。

貴方なら分かっていたはずでしょう?

時代は質じゃなくて数だって。」


エディ:

「・・・。」


エディは少しユキを睨んだ後、ゆっくりと口を開いた。


エディ:

「・・・諦めきれませんでした。」


それはポツリと零れた独白のようであった。


エディ:

「我らが生きた、強者のみが生き残る戦士の世を、時代を諦めきれませんでした。

数ばかり多くて、弱卒ばかりの戦士を名乗る兵士を見ると吐き気がしました。


だから氏族長に戴かれたとき、自分の氏族だけでも我らの時代の血を残そうとしました。


・・・でも無駄でした。

我が氏族は、周りの膨れ上がる兵士の数が出す圧力に耐えきれませんでした。

数だけに囚われて、それに並び立つことだけに腐っていきました。


・・・何年おさえつけても変わらない その腐敗を見て、私では無駄だと悟りました。


だから氏族長を辞めました。

・・・今は新しい時代を見届けることにしています。」


まるで心まで老いてしまったかのように暗く俯いていたエディは、一転して若く猛々しい、狂気さえ孕んだような目でユキを見据えた。


エディ:

「貴方だったら どうでした?

・・・時代に逆らえましたか?」


ユキ:

「本気でやればイケると思います。

時代を騙くらかすのは、不可能ではありませんからね。


ですが私は逆らおうとも思いません。

せいぜい利用してやろうと思います。


時代は その世で最も強い強者が創るものです。

いままでもずっとそうだったじゃありませんか。

これからも、ずっとそうなのではありませんか?」


エディ:

「フッ・・・えぇ、全くその通りです。

その通りですとも。」


エディは笑った。


初めて見るような清々しい笑みだった。

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