シーン6
酒場でティアの話に乗ったユキは、そのままジルアを連れて仲間の下へと戻った。
日が落ちて、すっかり夕食の時間だ。
兵糧係のミランダから、拠点に居ることもあって少しまともな料理が配膳される。
新鮮な肉で作られたステーキは、とても美味に感じた。
食事が終わった頃、ユキはティアの話をそのまま伝える。
ユキ:
「───というワケで、今度は近所の集落を襲います。
何か異論のある者は居ますか?」
副官のダンが真っ先に手を挙げた。
こういうときに発言をするのが、副官の役目の一つなのかもしれない。
ユキはダンの発言を頷いて促した。
ダン:
「デナグドさんには話を通すんだろうな。」
ユキ:
「あっ、忘れてました。
一応、上司ですからね。
行くときには声を掛けるとしましょう。」
それだけ聞くと、ダンは納得したらしく黙り込んでしまった。
規律が重んじられればそれでいいらしい。
すると今度は、弾かれたようにジャグが手を挙げた。
ユキは頷いて発言を促す。
ジャグ:
「いや、ダンが何も言わないから言わせて貰うけど、これって俺たちが対応する案件なのかな。
千人隊とかの案件じゃない?」
ユキ:
「はい、私もそう思います。」
ジャグ:
「じゃあ、デナグドさんから上に話を通して貰った方が良くない!?」
ジャグがツッコんだ。
それに対してユキは、「やれやれ、分かっていませんね。」とでも言わんばかりにムカつく顔をしながら肩を振った。
ユキ:
「話がデナグド百人長のとこで止まるだけですよ。
それに今回重要なのは、上に知られることなく無断かつ独断で研究施設および人材、ついでに駐屯地を確保することなのですから、むしろ上に知られては面倒です。」
ジャグ:
「え、それって反乱・・・。」
ユキ:
「人聞きが悪いですね。
上が守りに徹してるのをいいことに、私腹を肥やそうとしているだけです。
何も問題はありませんよ。」
ジャグ:
「それは真っ当な軍規違反では?」
ユキ:
「私は軍規を知らないので何とも言えませんが、そもそもデナグド百人長から散々増援要請をされているだろうにマトモな後詰めを送ってこない、上に問題があると考えます。
えー、つまりこれは、正当な抗議行動なのです。
分かりましたね?」
ジャグはダンに耳打ちした。
ジャグ:
「おい、これって良いのかよ。」
ダン:
「問題しかないが、確かにデナグドさんを半ば見捨てる判断を下した上層部に従うのは気分が悪い。
・・・俺は命を懸ける価値があると思う。」
ジャグ:
「答えになってねぇよ・・・。
だけど、確かに見捨てられたのは気に食わねぇ・・・。
・・・無為に死ぬよりマシか。」
ジャグは深い深い溜息をついた。
ジャグ:
「分かった。
ユキ隊長の考えに従う。」
ユキは満足気に頷いた。
次に手を挙げたのは、仲間になってからこれまで必要以外には口を開かなかった狐族の少女、ヴァザンだった。
しかしユキは分かっていたかのように笑って頷き、発言を促した。
ヴァザン:
「聞いた話だと、ユキは以前そのティアとかいう輩に偽情報を掴まされたと聞いた。
今回も同じ事にならないという保証はどこにある?」
場が凍り付いた。
ヴァザンの責めるような口調が、ユキの逆鱗に触れてしまうのではないかと、皆直感的に思い至ったのである。
しかし当のユキは涼しいどころか、どこかニヤニヤと余裕のある顔をしている。
ユキ:
「フフ、分かってて言ってますね?
貴方が得意とするのはステルスでしょう?
私が期待していないとでも?」
ユキはヴァザンに近寄って頭をワシワシと撫でた。
ヴァザンの髪の毛が僅かに逆立ち、周りの人間は思わず軽く身構えた。
ユキ:
「貴方です。
貴方が敵駐屯地に潜入し、部隊規模から施設の構造、出来れば命令系統まで調べ上げてくるのです。
私が、その情報を元に作戦を組みます。」
ヴァザン:
「・・・必須目標が部隊規模と施設の構造、努力目標が命令系統で構わないな?」
ユキ:
「えぇ、そうです。
頼みましたよ?」
ヴァザン:
「あぁ。」
無茶と思えるような命令内容だったが、当のヴァザンはまるで新品の玩具を与えられた子供のようにキラキラとした目をしていた。
それを見て、軽く身構えていた人間達は腰を落とし始める。
レアク:
「まったく・・・。
ヴァザンは紛らわしいのよ。
自分が活躍できるってアピールをするなら直球でそう言えば良いし、ユキに期待されて嬉しいならもっと露骨に喜べばいいのに。」
ヴァザン:
「・・・善処する。」
レアクにやんわりと窘められたヴァザンは、年相応の納得がいかない ふて腐れた顔を浮かべた。




