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寄り道好きのユキ  作者: ソドムとゴモラの獣
アンテスロム氏族
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シーン5

ひとしきり笑ったティアは、卓から躰を起こすと、笑い涙を指で払った。


ティア:

「ヒ~・・・!

いや~、向こう3ヶ月分くらい笑わせて貰ったねぇ・・・。

これだけで”洗浄”の魔術を教えてやってもいいくらいだよ。」


ユキ:

「お、では教えて下さい。」


ティア:

「それじゃあ面白くないよ。

・・・でもそうだね、少しくらい値下げしてやってもいいかもしれないね。」


ユキ:

「回りくどいですね・・・。

しかし、まぁ・・・面白さに価値を見出す貴方の考えも理解出来なくはありません。

限りなく面倒ですが、貴方の考えを聞くだけ聞いてあげようじゃありませんか。」


ティア:

「聞くだけじゃなくて、ちゃんと心から”聴く”ことだね。

なに、アンタにとっても有益な話にしてやるよ。

実はね・・・ここから少し離れた集落を管轄しているアンタと同じ氏族の百人隊なんだけど、実はそこの百人長はアタシらと取引しているのさ。」


ユキ:

「・・・へぇ、普通に有益そうな話ですね。

それで?

その話が、貴方が私に”洗浄”の魔術を教える話と何の関係があるんですか?」


ティア:

「逸んな。

ここからが大事なところなのさ。

アンタのことだ、アタシらの組織が一枚岩じゃないことくらい分かってるんじゃないかい?」


ユキ:

「あ~、話が見えてきました。

確かに目立っちゃいけない潜入員のはずのジルアを遣って私を殺そうとしたり、バカ正直に私に有効な毒を探そうとしたり、なんというか命令に統一性が無いと思ってはいましたね、ハイ。」


ティア:

「まぁ、詳しいことは言えないんだけどね。

大雑把に言うと、”アンタに期待してる勢力”と”アンタを潰したい勢力”に分かれて喧嘩してんのさ。」


ユキ:

「いや~、照れてしまいますね。

モテる人間は辛いですよ、ホント。」


ティア:

「・・・そこは文面通り受け取るんだね、アンタ。」


ユキ:

「まぁ、私のファンとアンチで喧嘩してるっていう話ですよね。」


ティア:

「死ぬほど拡大解釈すれば そうだね。

アンタのファンは、アンタにはそのまま躍進を続けて欲しいと思ってる。

だけどアンタのアンチは、アンタに早々に退場して欲しい。

・・・そんな感じさね。」


ユキ:

「ファンとアンチが居たら、思うことそのままって感じですね。

・・・それで、貴方はどっち側なんです?」


ティア:

「そうだね・・・。

正直に言うと、アタシはファンとアンチの喧嘩を見て愉しむ愉悦勢ってとこかね。

でも今回はアンタのファン側だよ。

・・・きっとアンタが飛躍すれば面白いことになるからね。」


ユキ:

「何ですか、素直に私のファンって言ってくれてもいいんですよ?

・・・まぁ確かに、私が死んだ未来より、私が飛躍した未来の方が面白いのは確かですが。」


ティア:

「だろう!

だからこそ、さっきの近所の集落の百人隊がアタシらと取引をしている話に繋がるのさ。

ここまで言えば分かるだろうけど、近所の集落の百人隊と取引しているのは、アンタのアンチさ。」


ユキ:

「へぇ、でも取引しているだけなら、私が動くメリット無いですよね。」


ティア:

「それがあるのさ。

アンチの連中が近所と取引してる物品の内容は何だと思う?」


ユキ:

「さぁ?

魔導書とか?」


ティア:

「それで喜ぶのはアンタかアンタくらい魔術オタクな奴くらいさ。

ヒヒヒ・・・聞いて驚きなよ?

なんとウチが扱っている商品は”人間”さ。」


ユキ:

「いいじゃないですか。

私にも幾らか売ってくれません?

生きてると諜報員を送り込まれるかもしれないので、屍体でいいですよ?」


ティア:

「アンタ・・・そこは義憤に駆られて怒ったり驚いたりするところだよ・・・。

アタシの前振りが台無しじゃないか。」


ユキ:

「エー、ソンナコトヲスルナンテユルセナイナー。」


ティア:

「棒読みにも程があるだろう・・・。

もういいよ。

無理に正義感を期待したアタシが悪かったよ・・・。」


ユキ:

「まぁ、マジレスすると、別に人身売買は世間体こそ悪いですけど違法でも何でもないですし、私も別に反対派でも何でもないので・・・。」


ティア:

「あ~、聞こえないねぇ~!」


ユキ:

「・・・それで、近所の百人隊の駐屯地で人身売買してるからって何なんですか。

ウチでだって探せば人売りの市くらいありますよ。」


ティア:

「取引している”人間”が”技術者”で、近所の集落丸ごとが研究施設と化してると言っても興味ないかい?」


ユキ:

「・・・詳しく話を聞こうじゃありませんか。」


ユキは卓に身を乗り出した。


ティアはユキが食いついたと嗤った。


ティア:

「いやなに、複雑なことは何一つないよ。

ただ件の百人長が屍術に ご執心でねぇ。

駐屯地を何の許可もなく、無断と独断で研究施設と その関連施設化しちまってるのさ。

そこを足掛かりに、この辺りのアンタのアンチが勢いづいちまってねぇ・・・。

このままじゃあ、アタシとしてはちょっと都合が悪いのさ。

だからそう、アンタには身内の足を引っ張って貰おうと思ってね。」


ユキ:

「直球ですね・・・まぁ嫌いではありませんよ?

・・・それで、私に何の得があるんです?」


ティア:

「まず、先の約束通り、”洗浄”の魔術を教えてやろうじゃないか。

そしてここからはアタシの独り言になるんだけど、アンタが・・・そう何かの間違いで身内のはずの百人長を始末してぇ⤴

その施設群を乗っ取っちゃったとしてもぉ⤴

アタシの知ったことではぁ⤴

ないだろうねぇ⤴」


ユキ:

「・・・うん!

考えてみれば、”洗浄”の魔術のために手を貸すことも吝かでは無い気がしてきました!

ティア、その取引、乗りましたよ!」


ティア:

「おぉ!

それは心強いねぇ!

宜しく頼むよ!」


ユキとティアは、まるで仲良しかのようにガシッと力強い握手を交わした。


その様子を、ジルアと酒場の店主であるアビエドだけが冷めた目で見ていた。

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