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寄り道好きのユキ  作者: ソドムとゴモラの獣
アンテスロム氏族
87/110

シーン5

・魔法書を魔導書に名称変更。

<あらすじ>

 狐族の集落に来た。


────────────────────


ユキ:

「先生~、居ますかぁ?」


ユキが屋敷の奥へと進んで辿り着いたのは、巻物や石板、書物が山と積まれた部屋だった。


部屋の奥には1人の狐族の老婆が座しており、ユキの声を聞いて、目を通していた巻物から目を離した。


しかしその肝心な目は、両目とも眼帯に覆われており、ユキでさえどうやって文字を読んでいるのか分からなかった。


???:

「おや、ユキ。

よくぞ来ました。

こちらに座りなさい。」


ユキ:

「おぉ、デイラ先生。

お久しぶりです。」


ユキは狐族の老婆ことデイラの勧めるままに、床に敷いてあった毛皮の上で胡坐をかく。


デイラ:

「ここに来たということは・・・今日で二つの約束が果たされるのですね。」


ユキ:

「そうです。

片方はまだ道半ばですが、今日この日に走りだそうとしています。

そしてもう片方は、先生が果たさねばなりません。」


デイラ:

「分かっています。

今日は貴方に一つだけ好きな魔術を教えましょう。」


ユキ:

「えっ!”なんでも”ですか!?」


デイラ:

「・・・訂正します。

”初級の魔法で”、好きな魔術です。」


ユキは露骨にガッカリした様子を見せる。


ユキ:

「なんですか・・・そんなに私の才能が恐ろしいのですか・・・。」


デイラ:

「その通りです。

私は貴方の才能が・・・いえ、貴方が恐ろしい。

だからこそ、魔術の師として、魔術だけでも正しい方向に導こうと苦心しているのです。

どうか耐えて下さい。」


ユキ:

「・・・貴方が私より魔術に詳しいことは確かです。

分かりました、耐えましょう。

ですがいつか、先生の知る最高の魔術を教えて下さい。」


デイラ:

「・・・分かりました。

”賢狐”の尊称に誓って約束しましょう。

貴方が魔術師として正しい方向に行ったと確信したとき、私の知り得る最高の魔術を教えると。」


ユキ:

「・・・約束ですからね。」


ユキはふて腐れた様子を一転させて、輝くような笑顔を見せる。


ユキ:

「それで・・・教えて欲しい初級魔術はですね!

<氷の弾丸>を教えて下さい!」


デイラ:

「・・・これはまた殺傷力の高い魔術を選びましたね。

ちなみに<氷の弾丸>した理由は何ですか?」


ユキ:

「まず、私と氷の魔術の相性が二番目に良い気がするからです。

あと、一番使い易いかなと。」


デイラ:

「まぁ、無手の状態から貫通力の高い氷の塊を発射する<氷の弾丸>は確かに使い易いでしょうが・・・。

・・・ちなみに一番相性が良かった魔術は何ですか?」


ユキ:

「死の魔術ですが、何か?」


デイラ:

「あぁ・・・。」


デイラは不意に口元を抑えた。


デイラ:

「・・・私はやはり、貴方が恐ろしいですよ。」


ユキ:

「悪い気はしませんね。」


デイラ:

「何故です?」


ユキ:

「・・・正直に言うと、私でも良く分かりません。

他人に聞かれれば”自分が強いという証明だから”とか”恐れられれば無駄な争いをしなくて済むから”とか、その場ででっち上げた理由を答えますが、他ならぬ先生ですからね。

ただ、物心ついた頃からそうなのです。

恐怖されるのが畏怖されるのが崇拝されるのがサイコーに気分が良いのです。

エディは”生まれついての戦士ゆえです”と言っていましたが、何か、どうも違う気がするのです。

先生は正解を知っていますか?

私が、人から恐れられたがる理由を。」


デイラ:

「・・・ごめんなさい。

私の口からは言えません。」


デイラの身体は、誰が見ても分かるほどに震えていた。


デイラ:

「ですが、<氷の弾丸>は約束通り教えましょう。

本当は要らないのですが、エディから言い含められていますからね。

設定された対価さえ払えば他の初級魔術も。

そしてやがて、来たるべきときが来れば中級魔術も、ゆくゆくは上級魔術すらも。

・・・そして果てには、私の知り得る・・・人間の使用出来る限界の魔術である大魔術をも。

貴方が望むのであれば、大人数で行使する儀式魔術も。


だからどうか、人の道を外れないで下さい。

過去から現在まで、綿密に積み重ねられてきた人の道を。」


ユキ:

「・・・その人の道とは、倫理観とかそういう話ですか?」


デイラ:

「出来ればそうあって欲しいと思っていますが、貴方はきっと外れるのでしょうね。

だから私が祈るのは、もっと大まかなものです。」


ユキ:

「例えばどんなことをすれば、先生の言う人の道から外れるのですか?」


デイラ:

「───この樹海、いえ世界から生命全てを消し去ってしまうこと。」


デイラは極めて真剣な表情で言った。


しかしユキは笑った。


ユキ:

「ぷっ・・・アハハハハハ!!

ちょ・・・デイラ先生!

流石に私がどれだけ強くても、生命全てなんて無理ですよ!

ヒーッ、デイラ先生の言う人の道の定義大まか過ぎますって!!」


デイラ:

「・・・そうですね。

そんなこと、出来るはずがありませんよね。

それでいいのですよ。」


デイラは深い溜息をついた。


デイラ:

「冗談はこれくらいにして、実際には貴方が人を殺すことだけに価値を見出したり、獣を食い殺すことだけに囚われたりしなければそれで良いのです。」


ユキ:

「え?

どっちも大好きなんですけど・・・。」


デイラ:

「まぁ、エディの仔ならそうでしょうね。

私が言いたいのは、それだけに囚われるのは止めなさいということです。

貴方が誰かと肉を分け合う喜びを知っていたり、人の上に立つ喜びというものを知っていればそれで良いのです。」


ユキ:

「なんだ。

なら、今のままでOKということですね。

良かったです。」


デイラ:

「えぇ・・・本当にそのままでOKですよ。」


デイラは側に積み上げられていた書物の山から、無造作に一冊の魔導書を抜き取った。


それは、ユキの望んだ<氷の弾丸>について記載された魔導書だった。


デイラ:

「では話はこれくらいにして。

・・・魔術の講義を始めましょうか。」

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