シーン5
・魔法書を魔導書に名称変更。
<あらすじ>
狐族の集落に来た。
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ユキ:
「先生~、居ますかぁ?」
ユキが屋敷の奥へと進んで辿り着いたのは、巻物や石板、書物が山と積まれた部屋だった。
部屋の奥には1人の狐族の老婆が座しており、ユキの声を聞いて、目を通していた巻物から目を離した。
しかしその肝心な目は、両目とも眼帯に覆われており、ユキでさえどうやって文字を読んでいるのか分からなかった。
???:
「おや、ユキ。
よくぞ来ました。
こちらに座りなさい。」
ユキ:
「おぉ、デイラ先生。
お久しぶりです。」
ユキは狐族の老婆ことデイラの勧めるままに、床に敷いてあった毛皮の上で胡坐をかく。
デイラ:
「ここに来たということは・・・今日で二つの約束が果たされるのですね。」
ユキ:
「そうです。
片方はまだ道半ばですが、今日この日に走りだそうとしています。
そしてもう片方は、先生が果たさねばなりません。」
デイラ:
「分かっています。
今日は貴方に一つだけ好きな魔術を教えましょう。」
ユキ:
「えっ!”なんでも”ですか!?」
デイラ:
「・・・訂正します。
”初級の魔法で”、好きな魔術です。」
ユキは露骨にガッカリした様子を見せる。
ユキ:
「なんですか・・・そんなに私の才能が恐ろしいのですか・・・。」
デイラ:
「その通りです。
私は貴方の才能が・・・いえ、貴方が恐ろしい。
だからこそ、魔術の師として、魔術だけでも正しい方向に導こうと苦心しているのです。
どうか耐えて下さい。」
ユキ:
「・・・貴方が私より魔術に詳しいことは確かです。
分かりました、耐えましょう。
ですがいつか、先生の知る最高の魔術を教えて下さい。」
デイラ:
「・・・分かりました。
”賢狐”の尊称に誓って約束しましょう。
貴方が魔術師として正しい方向に行ったと確信したとき、私の知り得る最高の魔術を教えると。」
ユキ:
「・・・約束ですからね。」
ユキはふて腐れた様子を一転させて、輝くような笑顔を見せる。
ユキ:
「それで・・・教えて欲しい初級魔術はですね!
<氷の弾丸>を教えて下さい!」
デイラ:
「・・・これはまた殺傷力の高い魔術を選びましたね。
ちなみに<氷の弾丸>した理由は何ですか?」
ユキ:
「まず、私と氷の魔術の相性が二番目に良い気がするからです。
あと、一番使い易いかなと。」
デイラ:
「まぁ、無手の状態から貫通力の高い氷の塊を発射する<氷の弾丸>は確かに使い易いでしょうが・・・。
・・・ちなみに一番相性が良かった魔術は何ですか?」
ユキ:
「死の魔術ですが、何か?」
デイラ:
「あぁ・・・。」
デイラは不意に口元を抑えた。
デイラ:
「・・・私はやはり、貴方が恐ろしいですよ。」
ユキ:
「悪い気はしませんね。」
デイラ:
「何故です?」
ユキ:
「・・・正直に言うと、私でも良く分かりません。
他人に聞かれれば”自分が強いという証明だから”とか”恐れられれば無駄な争いをしなくて済むから”とか、その場ででっち上げた理由を答えますが、他ならぬ先生ですからね。
ただ、物心ついた頃からそうなのです。
恐怖されるのが畏怖されるのが崇拝されるのがサイコーに気分が良いのです。
エディは”生まれついての戦士ゆえです”と言っていましたが、何か、どうも違う気がするのです。
先生は正解を知っていますか?
私が、人から恐れられたがる理由を。」
デイラ:
「・・・ごめんなさい。
私の口からは言えません。」
デイラの身体は、誰が見ても分かるほどに震えていた。
デイラ:
「ですが、<氷の弾丸>は約束通り教えましょう。
本当は要らないのですが、エディから言い含められていますからね。
設定された対価さえ払えば他の初級魔術も。
そしてやがて、来たるべきときが来れば中級魔術も、ゆくゆくは上級魔術すらも。
・・・そして果てには、私の知り得る・・・人間の使用出来る限界の魔術である大魔術をも。
貴方が望むのであれば、大人数で行使する儀式魔術も。
だからどうか、人の道を外れないで下さい。
過去から現在まで、綿密に積み重ねられてきた人の道を。」
ユキ:
「・・・その人の道とは、倫理観とかそういう話ですか?」
デイラ:
「出来ればそうあって欲しいと思っていますが、貴方はきっと外れるのでしょうね。
だから私が祈るのは、もっと大まかなものです。」
ユキ:
「例えばどんなことをすれば、先生の言う人の道から外れるのですか?」
デイラ:
「───この樹海、いえ世界から生命全てを消し去ってしまうこと。」
デイラは極めて真剣な表情で言った。
しかしユキは笑った。
ユキ:
「ぷっ・・・アハハハハハ!!
ちょ・・・デイラ先生!
流石に私がどれだけ強くても、生命全てなんて無理ですよ!
ヒーッ、デイラ先生の言う人の道の定義大まか過ぎますって!!」
デイラ:
「・・・そうですね。
そんなこと、出来るはずがありませんよね。
それでいいのですよ。」
デイラは深い溜息をついた。
デイラ:
「冗談はこれくらいにして、実際には貴方が人を殺すことだけに価値を見出したり、獣を食い殺すことだけに囚われたりしなければそれで良いのです。」
ユキ:
「え?
どっちも大好きなんですけど・・・。」
デイラ:
「まぁ、エディの仔ならそうでしょうね。
私が言いたいのは、それだけに囚われるのは止めなさいということです。
貴方が誰かと肉を分け合う喜びを知っていたり、人の上に立つ喜びというものを知っていればそれで良いのです。」
ユキ:
「なんだ。
なら、今のままでOKということですね。
良かったです。」
デイラ:
「えぇ・・・本当にそのままでOKですよ。」
デイラは側に積み上げられていた書物の山から、無造作に一冊の魔導書を抜き取った。
それは、ユキの望んだ<氷の弾丸>について記載された魔導書だった。
デイラ:
「では話はこれくらいにして。
・・・魔術の講義を始めましょうか。」




