シーン2
<あらすじ>
ユキの上司にあたるデナグド百人長に戦果を報告する。
その後、部下達に補給の引き継ぎを行う。
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朝起きると、ユキは部下達と焚き火を囲んで朝食を摂る。
朝食はいつもの干し肉・・・なのだが、いつもと味が違っていた。
何と言うか・・・濃い。
ユキ:
「ミランダ・・・塩を使いました?」
ミランダ:
「よく分かったね~。
そうだよ、でも他にも色々使ってるんだ~。」
見れば、ミランダの横には沢山の小さい革袋が並んでいた。
塩に酢、植物油、香辛料多数・・・他にも沢山並んでいる。
ジャグ:
「贅沢過ぎじゃない?
隊の財産を預かる身としては、もっと節約して欲しいんだけど・・・。」
そう言いながら、ジャグはいつもより味の濃い干し肉を口に入れる。
ユキ:
「何言ってるんですか?
食事が一番大切です。
もし私の口に入る食事の質が今後少しでも落ちたら、二人とも殴るか指を切り落としますからね。」
ミランダ:
「え~!?」
ジャグ:
「え?」
ユキ:
「え?じゃないです。
それだけ大切なことなんですよ。
勿論、食事の量も大切です。
全員に満足に行き渡らないなんて事態になろうものなら、足りない人数分だけ指を、両手両足の指でも足りなければ四肢を切断してやります。」
ダン:
「ユキ・・・いや、今やユキ隊長か。
えー・・・それはやり過ぎなのではありませんか?」
ユキ:
「副官殿・・・分かっていないようなので教えてあげますが、この二人が預かっているのは兵糧であり兵站なんです。
兵糧および兵站は、不足無く行き渡ってこそ力を発揮します。
・・・分かりますね?ダン。」
ダン:
「言いたいことは分かりますが・・・それにしてもやり過ぎでは?」
ユキ:
「ふむ、認識に差があるようですね。
恐らく貴方は兵站を戦略の一要素・・・サブ的なものだと思っているのでしょう。
私は違います。
兵站は、全ての戦略の基礎となる要素だと思っています。
兵站が充実している方が・・・旨い飯を食べている方が勝つのです。
例えばダン、極端な話、3日くらい何も食べていない戦士と昨晩腹一杯好きな物を食べ、何なら食後のデザートまで口にした戦士、どちらが勝つと思いますか?」
ダン:
「それは勿論後者ですが・・・そこまで極端だと言いたいことが分かりません。」
ユキ:
「では連戦で得物が痛いんでいる者と直前で得物を交換した者では?
満足な水薬を用意出来ている者と出来ていない者とでは?
次も補給があることを信じている指揮官と、そうでない指揮官とでは?
軍需物資を大量に備蓄している軍隊と、そうでない軍隊とでは?
末端から中枢に至るまで、勝利の鍵を握っているのは兵站なのですよ、ダン。
兵站がしっかりしている方が勝つ・・・いえ、勝つチャンスを掴みやすい、勝率が高いのです。
そして、集団戦とは、現場の小さな勝利の積み重ねなのですよ。
得物を新品にしていたから、敵を難なく殺せた。
満足な水薬があったから、命を拾い、まだ敵を殺せる。
補給があることを信じていたから、味方を守る策ではなく敵を殺す策を打つことが出来た。
軍需物資が大量に備蓄されていたから、早く決着を付けようと焦って敵の策にハマることなく、落ち着いた視点で、確実に敵軍を潰す戦略を採ることが出来た。
勿論、時の運というものもありますが、それ以外の要素はおおよそ兵站が握っていると言っても過言ではありません。
兵站が安定して初めて、勝利というものが現実的になるのです。
そして私は勝利が大好きです。
・・・ここまで言えば分かりますか?
兵站の不足とは、勝ちが無くなるということ。
私は足を引っ張ったら殺すと言っているのです。」
ダン:
「最後の言葉が一番分かり易かったですよ。」
ユキ:
「そうですか・・・そうかもしれませんね。
ですが、副官殿。
貴方が今後、私の右腕たらんとし、隊の風紀を担おうというのなら、私が思う兵站の大切な理由を熟知していなければなりません。
ジャグ、ミランダ、貴方達もですよ?」
ミランダ:
「うん、ユキちゃんの言う意味は分かったと思う。
・・・ひもじいのは、嫌、だもんね。」
ミランダがいつもの間延びした言葉遣いではなく、ハキハキとした言葉で、ユキの目をしっかりと見ながら言った。
それだけでユキは信用出来ると思った。
ジャグ:
「・・・とんでもない大役を押しつけられた。」
対象的に、ジャグは頭を抱えていた。
しかしそれは、ユキが言った言葉の意味が良く分かっている為と言えた。
それらに対してダンは首を捻っている。
ダン:
「・・・すみませんが、私は頭が悪く、二人のように貧しい思いもしたことが無いので、兵站の大切さに対する理解が及ばないようです。
いつか・・・ユキ隊長の足を引っ張ってしまうかもしれません。」
ユキは、(・・・まぁ、引っ張られるでしょうね。)と思った。
ユキ:
「貴方の頭が悪いことなんて、初対面からお見通しです。
お見通しですが、自分のことを理解しているだけ私の予想を超えてきましたね。
いいでしょう、許します。
一度だけ、貴方がどれだけ盛大に足を引っ張っても一発殴るだけで許してあげます。
これは約束ですよ?」
ダン:
「一発は殴られるのですか・・・。」
ユキ:
「そのくらいは当然です。
手加減は・・・しませんからね。」
ユキはニンマリと笑った。
ダンはゾッした寒気に襲われることを禁じ得なかった。
ユキ:
「さ、重い話はここら辺にして、食事を再開しましょ。
ミランダ、今回の干し肉を戻した時に使った調味料を教えて下さい。
今度またやってみたいんです。」
ミランダ:
「いいよぉ~。」
ジャグ:
「・・・個人的に揃えられる調味料じゃ無いと思うけど・・・。」
ビンド:
「ふひひあっははほほほふはら、ほふほふぁへへはへひょっは?
(ウチにあったと思うから、今度分けてあげよっか?)」
ジャグ:
「なんて!?
っていうか咀嚼中に口を開くなよ、飛んでくるだろ!?」
ユキ:
「ていうかビンド・・・ずっと一人で食べてましたよね。
相変わらず能天気な・・・。
あ、良かったら私の分もお願いします。」
ビンド:
「ほっへー。
(OK~。)」
ジャグ:
「いや、なんでユキはビンドが何て言ったか分かってるんだよ!」
ダン:
「お前ら・・・仮にもユキ”隊長”なんだぞ?
もう少し言葉遣いというものをだな・・・。」
ジャグ:
「うっ、悪ぃ副官殿。」
ユキ:
「別に構いませんよ。
言葉遣い程度で私の凄さが揺らぐことは無いので。」
ダン:
「・・・何かまともに目上として扱うのが馬鹿らしくなってくるな。」
ユキ:
「何でですか。
く~、少しは変わってきたと思ったのに相変わらず生意気ですね。」
ダン:
「必要なときだけ敬うフリをしてやるよ。
隊・長・殿。」
副官殿などとユキが言った意趣返しなのか、ダンはニヤリと笑って言った。
良い傾向だと思ったユキだったが、腹が立ったので後頭部を平手打ちした。
「痛ぁっ!」というダンの声が、朝日に溶けて行った。




