シーン2
<あらすじ>
狩りでしくったユキは、一度補給のために集落に戻った。
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皮剥屋を出たユキは、ゲンタに語りかける。
ユキ:
「そういえば貴方をエディに紹介していませんでしたね。
私の騎獣なのですから、エディも知る必要があると思いませんか?」
ユキの少し後ろを歩くゲンタは、「何言ってんだコイツ・・・」とでも言わんばかりの怪訝な目をしていた。
ユキ:
「エディは気性が荒いですからね。
生意気な貴方はボコボコにされてしまうかもしれませんよ?」
ゲンタは、既に話を聞いていなかった。
遠くを見て、興味を引くものを探している。
ちょっとイラッとしたユキは、軽くゲンタを小突いた。
─────孤児院─────
孤児院に顔を出すと、子供達の世話などを任されているロッティがユキに駆け寄ってきた。
ロッティ:
「やぁ、ユキちゃん。
すごい狼だね。
ユキちゃんの騎獣?」
ロッティはユキの少し後ろを陣取るゲンタを見てそう言った。
ユキ:
「そうです、私の騎獣です。
利口ですが、少し気性の荒いところが───」
そう言おうとしたところで、ゲンタはロッティの匂いを少し嗅ぎ、何を思ったのか無抵抗に撫でられるところを目撃した。
ロッティ:
「わー、この子人懐っこいね~。」
ユキ:
「・・・。」
ゲンタは無抵抗に撫でられるどころか、ロッティの顔を毛繕いするときのように舐めた。
明らかに懐き始めている。
ユキは初めて会ったときの殺気はどこへ行ったのかと訝しんだ。
取り敢えず腹が立ったので、ユキはゲンタを小突いた。
ユキ:
「まったく・・・。
ロッティ、エディは居ますか?」
ロッティ:
「ん?
エディ院長は居るよ?
”飢爺”が来てるからね、しばらくは狩りに出ないんじゃないかな。」
ユキ:
「え、飢爺が来てるんですか!?」
ユキはゲンタを置いて孤児院に直行した。
ユキ:
「飢爺、飢爺は居ますか!?」
エディ:
「うるさいですよ、ユキ。」
院長のエディは子供達が入ることを許されていない私室で、一人の男とネファタフルを指していた。
ネファタフルはチェスの亜種のようなゲームで、逃げる側と包囲する側に別れて卓を囲む。
逃げる側の王駒が四隅に行ければ逃げ側の勝ち、王駒が動けなくなれば包囲する側の勝ちだ。
盤面を見れば明らかにエディが負けているようだった。
逃げ側が男なのだが、明らかに王駒が逃げ切れる流れが出来ている。
男はエディより少し背が低く(それでも平均より遙かに大きい)、覇気もエディには及ばない。
しかしその風貌からはエディが遠く及ばないほどの知性が溢れ出ていた。
厄介度で言えばエディと同等だと言える。
ユキ:
「久しぶりですね、飢爺。」
飢爺:
「おう!!
久しいな、ユキ!」
飢爺は元気の良い老人だった。
性格も非常に明るく、エディの暗さとは対象的だ。
そんな飢爺は、しかしエディにトドメを刺すかのように王駒を動かした。
ユキ:
「飢爺の勝ちですね。」
エディ:
「くっ、詰みですか・・・。
今回こそ勝てると思ったのですが・・・。」
ユキ:
「ちなみにその根拠は?」
ユキがそう言うと、エディは木箱を一つ取り出した。
蓋を開けると、中にはユキの好物の一つである甜瓜が入っていた。
エディ:
「飢爺がダメだと言うのに性懲りも無く甘味を隠し持っていたので、それを人質にとって指したのですよ。
・・・最初こそ迷っていましたが、最終的に勝ちにいったようです。」
ユキ:
「き、きたないことをしますね・・・。」
ユキは言外に、自分に渡されるはずだった甜瓜がエディの手に渡ったことを悟った。
飢爺が目線で謝ってくる。
仕方の無いことではある。
ここを訪れる度に何らかの甘味を持ってくることで、以前、飢爺はエディと何か揉めたらしい。
そして最終的に飢爺が根負けして、エディに二度と大量の甘味を持ってこないと誓わされていた。
しかし飢爺は狡猾で、次来たときに何食わない顔で大量の甘味を持ってきた。
禁止されている甘味を前に、飢爺は「甘味を持ってこないとは言ったが、バレなければ何の問題もない」と言い切った。
それ以来、ユキはこの老人が只者ではないと思っている。
ちなみに甘味は飢爺とコッソリ食べていたが、最終的にエディにばれ、飢爺はエディにコッテリ絞られていた。
それ以降も、飢爺は大量の甘味を荷物に紛れさせる形で懲りずに持ってきていて、バレるかバレないかは半々くらいの戦績だった。
今回は、バレたというだけだ。
しかし甘味は口惜しい。
ユキ:
「・・・エディ、私とのネファタフルで私が勝ったら、その甜瓜は私に全部下さい。」
エディ:
「・・・幾らか貴方に都合の良い気がしますが、まぁいいでしょう。」
ユキは飢爺と交代し、エディとネファタフルを指した。
今度はエディが逃げる側で、ユキが包囲する側だ。
エディのネファタフルの腕前は、お世辞にも良いとは言えない。
それは別に本人が言うように頭が悪いというわけではなく、単純にエディがネファタフルに力を入れていないからだとユキは思っていた。
もしエディが本気でネファタフルに取り組めば、ユキは勿論、飢爺にも負けない戦績が叩き出せるほどのポテンシャルはある。
しかしポテンシャルがあるだけだ。
結果としてエディはユキにネファタフルでボロ負けした。
ポテンシャルがあるというだけで戦うには、ユキは飢爺に鍛えられ過ぎていた。
エディに半ば呆れられてという形ではあるが、ユキは確かに甜瓜を取り返した。
ユキは懐からナイフを取り出すと、甜瓜をカットしてエディと飢爺、自分の三人分に切り分けた。
渡してやると、エディも悪い気はしないような顔をする。
結局、エディも甘味は好きなのだ。
ユキ:
「む、この甜瓜・・・美味いですね。」
飢爺:
「だろう!?
この甜瓜は西方からワザワザ取り寄せたものでな!
何としてもユキに食わせたかったのだ!」
そう言って、飢爺はエディの方をチラチラと見る。
食わせたかったのはエディの方もなのだろう。
見ればエディは険のとれた表情で甜瓜を楽しんでいる。
エディ:
「・・・偶には甘味も悪くありませんね。」
飢爺:
「だろう!」
エディ:
「まぁ、それでも木箱一杯の甜瓜はやり過ぎだと思いますが。
・・・まったく、幾らしたんです?」
飢爺:
「うっ・・・。」
飢爺が痛いところを突かれたという顔をする。
恐らく、結構な額をかけたのだろう。
ユキ:
「私が喜ぶというだけでその価値はあると思いますが?」
エディ:
「・・・貴方のそういう傲慢なところ、私は嫌いだと何度も言いましたよね?」
飢爺:
「ユキの言う通りだと儂は思うぞ!?
やはりユキの喜ぶ顔というものは、金に代えられないものがある!
だから、エディ?
甘味の持ち込みの解禁をだな・・・。」
飢爺が隙を見て甘味の持ち込みの解禁の話題を持ち出した。
この男はこういうところがある。
油断ならないというやつだ。
エディ:
「次その話をしたら、お前の舌をカラスの餌にしますよ?」
飢爺:
「おぉ、ユキよ!
エディが恐ろしいことを言うのだ!!
儂を守ってくれ!」
ユキ:
「任せて下さい。
甘味に関して、私は妥協するつもりはありません。」
ユキと飢爺はヒシと抱き合った。
エディは分が悪いことを悟ると、溜息をついて甜瓜を黙って囓った。
ユキと飢爺は色々な話をしたが、エディはそれを聞いているだけで、一切話そうとしなかった。
エディにはそういうところがある。
話すよりも聞くことが好きなのだ。
やがてユキと飢爺の話が一段落すると、エディは席を立った。
ユキ:
「おや?
エディ、何処へ?」
エディ:
「貴方の騎獣を連れてきたのでしょう?
話に出ていましたよ。
これからそれを見てこようと思います。」
ユキ:
「気性の荒い奴ですからね。
エディと言えども噛まれてしまうかもしれませんよ?」
エディ:
「そんな奴だったら良いですね。
昔の狼は、ずっとそういう奴ばかりでしたから。」
そう言うと、エディは少し楽しそうに部屋を出て行った。
飢爺と二人きりになる。
何を言うでもなく、飢爺とユキはネファタフルの卓を囲んだ。
飢爺:
「儂はここに来るまでに100は戦略を考えてきた。
お前は?」
飢爺は先程までの元気が嘘のように、静かな声でユキに語りかける。
しかしその目は異様なほどの火を宿していた。
ユキ:
「ハッ、100程度ですか?
私は以前指し合った時から1,000は考えてますが?」
飢爺:
「上等。」
ユキはそれから飢爺と夜通しネファタフルを指した。
その間、一言も話さなかった。
話す必要は無かった。
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<ユキの手帳>
・ネファタフル
けっこう広い範囲で定着している、伝統的なボードゲーム。
飢爺に教えて貰った遊び。
かなりやり込んでいて、飢爺以外には負けたことが無い。
酒場なんかに行くと、何処の誰ともしれない人と指し合うことが出来る。
勝つと掛け金が入ってくるので、小遣い稼ぎには丁度良い。




