九十七話 第六階層深層域へ
中層域の未探索通路を調べ回ること十日で、ようやく探索し終えた。
「調べ終わったけど、結果がしょっぱいな……」
未探索通路にあった宝箱は一つだけ。隠し部屋は三つあったが、どれも薬水の湧く休憩部屋だった。
骨折り損のくたびれ儲け感が強いが、唯一の宝箱の中身が大きめの魔石だったので、メイスの強化をしたかった俺にとっては良い結果となった。
しかしその魔石を砕いてメイスを強化したのだけど、やっぱり進化はしなかった。
「武器の進化も、繰り返す度に必要な魔石の数も上がるんだろうな」
このメイスは、鉄パイプの頃から二度進化している。
三回目の進化には、まだまだ魔石が必要なのだろうな。
もしかしたら、スキルのレベルアップにモンスターの討伐数が必要と見越したように、武器の進化にも討伐数が関係するかもしれないな。
「メイスの進化も、気長にやっていくか」
いまのところ、メイスの打撃力に不足は感じていない。
もし不足するようなモンスターに出くわしても、その際は魔槌を使えば急場はしのげるだろうしな。
そう結論付けて、俺は中層を調べ終わったのでダンジョンの外に出るかどうかを考える。
スマホで時間を確認すると、午後三時頃。
もう帰っても良いし、もう少しダンジョン探索をしてもいい時間帯だ。
「少し深層域のモンスターを確認してみるか」
俺は中層域の奥から引き返し、第七階層へ向かう通路へ戻った。
第七階層への順路を進み、第六階層の深層域へと足を踏み入れた。
その直後、他の探索者と出くわした。
というか、この順路の上で座り込んで休憩しているようだった。
中層域には探索者はいなかったが、どうやら深層域では稼ぎにくる探索者が多いようだ。
俺は休憩中の探索者たちの横を通り抜けつつ、スマホで第六階層深層域の地図を確認した。
すると、かなり広い範囲で通路が探索済みになっていて、判明している宝箱や隠し部屋もあった。
未探索の通路となると、四匹一組でモンスターが現れるはずの、通路の奥の奥の区域だけだ。
どうしてここまで探索者たちが集まり、そして通路の奥まで探索を既にしているのか。
その理由は間違いなく、深層域に出るモンスターのドロップ品のためだろうな。
俺の予想が正しいと示すように、俺の進行方向上で、いままさに探索者がモンスターを一匹仕留める光景があった。
モンスターは、動き回る西洋甲冑こと、リビングアーマー。鎧と鎧の繋ぎ目に、多数の探索者から日本刀を突き立て、いままさに薄黒い煙と化して消えるところ。
リビングアーマーが消えた後に残ったのは、一枚の銀貨――俺が低階層の宝箱で発見したのと同じ、ダンジョン銀貨だった。
銀貨を拾い上げる探索者たちの横を通り抜けて少し歩くと、今度は布が撒かれた杖を持つマミーが探索者に倒されるところだった。
その杖持ちマミーが消えると、金色の下地に色付きの石がはまった装飾品がドロップした。
銀貨に装飾品か。装飾品の方は、素材の金属以上に美術的な価値もありそうだ。
この銀貨と装飾品が通常ドロップ品なら、稼ぎにきている探索者たちが集まっているのも納得だな。
でも、こんなに沢山の探索者がいる場所だと、俺は次元収納以外のスキルは使えないな。治癒方術も基礎魔法も、ろくすっぽネットに情報がないスキルだから、他人に見せたりするとスキルについて見咎められること間違いないしね。
そんなことを考えながら歩いていると、通路の脇道から探索者が吹っ飛ばされて出てきた。
何事かと、俺が脇道の向こうを覗き込むと、大牛と戦う探索者の一団がいた。
なにを手古摺っているのだろうと見ていると、理由がわかった。
大牛の体表の一部が剥げていて、その剥げた部分から紫色の肉が見える。そして大牛は頭が半分割られていて身体には何本もの刀が刺さっているのに、痛痒を感じていない動きをしていた。
「あの大牛も、アンデッド系モンスターなのか」
差し詰め、ゾンビ牛だな。
そしてゾンビになっても牛の力強さは健在なようで、頭の一振りで身体強化スキルを使っているはずの探索者たちを押し退けている。そして不注意にもゾンビ牛の角に鎧が引っ掛かった探索者の一人が、ポーンと投げ飛ばされた。
あの様子を見るに、通路まで飛んで出てきた探索者も、ゾンビ牛の角で飛ばされたんだろうな。そして、投げられること自体はあまり痛手でもないからか、今投げられた人と通路に出てきた人も戦闘に復帰していった。
そんな戦いの様子を見ていると、ようやく探索者の一団がゾンビ牛を討伐し終えた。
ゾンビ牛が薄黒い煙と化して消えると、透明な大袋に入った臓物が現れた。パッと見で、心臓やら腸やら肝臓やらと胃が何個か入っているので、牛の可食臓物一式のようだ。
探索者の一団は、その臓物一式を持ち上げると、通路の端に捨て置いて、どこかへと向かっていってしまった。
「銀貨や装飾品に比べると、臓物は重いから拾わないんだろうな」
もしくは、あまり値段がつかないかだな。
俺の次元収納には余裕があるから、この内臓一式を持っててみて、どれぐらいの値段になるか調べてみるとしようかな。
探索者の一団が残した臓物一式を次元収納に入れると、深層域に出るモンスター三種類は確認し終わったので、俺はダンジョンの外へ出るべく順路を戻ることにした。




