九十六話 またもスキルのレベルアップ
一日の休養をとって、心身ともにリフレッシュ。
心持ちを新たにして、第六階層の中層域を巡っていく。
本日の目的は、未探索通路の解明、それに伴う宝箱と隠し部屋の発見、そして浮遊ゴーレムを積極的に狩って劣化魔石といえる浮遊石でメイスの強化を行うこととした。
「それにしても、この中層域って探索者に人気がないのかもな」
浅層域では、他の探索者が捨て置いたドロップ品を見かけることがあった。
しかし中層域では、それがまったくない。
理由は、労働とモンスタードロップ品の換金比率だろうな。
「浅層域の通常ドロップ品は、変異グールの謎の錠剤、オオアルマジロの硬い革、そして射向日葵の油。そのうち、謎の錠剤は軽さと換金の高さが両立していたもんな」
一方で中層域でのドロップ品は、角猪の角、オーク革、浮遊石。
角も革も荷物としては嵩張るし、浮遊石はダンジョンの外だと一定期間の後は浮かなくなってしまう特性から、研究素材として注目はされているが高く買い取ってはくれない。
第七階層への最短通路を逸れるような探索者は、ダンジョンに稼ぎに来ている人たちだ。中層域より浅層域で活動する方が稼げるうえに比較的モンスターが弱いのだから、その手の人たちが中層域に来るはずもないな。
「他の探索者が居ないんなら、伸び伸びとスキルを使うことができるから、俺としては万々歳だけどな」
三匹一組でモンスターが現れる区域に踏み入り、すぐにオーク二匹と浮遊ゴーレム一匹と出くわした。
俺は魔力弾で先頭を進む浮遊ゴーレムを撃ち倒し、オーク二匹とはメイスで戦う。素早く倒すために、オークに真正面から戦う。リジェネレイトを既にかけてあるから、頭に拳を食らって昏倒さえしなければ、ダメージレースで俺の方が勝てると見越しての強硬策だ。
俺はオークの拳を腹に食らいながら、相打ち攻撃でメイスを相手の頭に叩き込む。もう一匹の方は、俺の左肩を掴んできたところを、メイスのフルスイングで側頭部を陥没させてやった。
「おー、痛ってえ。腹はジンジンするし、掴まれた肩は砕けるかと思った。この革の全身ジャケットの防御性能は、ここら辺の魔物相手で限界なのかもな」
腹を摩り、肩をぐるぐると回して、調子を確かめる。
そうしている間に、リジェネレイトがすーっと効いてきて、腹と肩の痛みが徐々になくなっていく。
身体が万全の状態に回復するのを待ちつつ、俺は落ちたドロップ品を回収する。オーク革二つを次元収納へ。浮遊石は、踏み付けて地面に固定してからメイスで付き潰して壊す。割れた浮遊石から出た薄い光はメイスに吸い込まれた。
ドロップ品の処置を終えても、少しお腹が痛い気がしたので、ヒールをかけた。
すると、頭の中にアナウンスが流れた。
『治癒方術の新たな術を覚えた』
アナウンスの直後に、俺は新たな治癒方術を使えるようになったことを理解した。
「つい先日に基礎魔法の魔力弾を覚えたのに、もう新しい治癒方術を覚えられるのか?」
この連続レベルアップを受けて、俺はなんとなくスキルのレベルアップの仕組みが分かった気がした。
多分ではあるけど、スキルを得てからの、スキルの使用回数とモンスターの討伐数によって、レベルがアップするんじゃないだろうか。そして、そのカウントはスキル毎に個別になっていて、それぞれのスキルのレベルアップに必要な使用回数と討伐数には差があるんじゃないだろうか。
加えて、レベル一からレベル二へは上がりやすいが、レベル二以降からは上がりにくいんじゃないだろうか。
「もしかしたら、ダンジョンのどの階層に到達したかとか、どのモンスターを倒したかも、レベルアップするための鍵になっているかもしれないな」
次元収納を手にしてから、いままでかなりの数のモンスターを倒したし、ドロップ品の出し入れでかなりの回数スキルを使用している。
その割に、レベル三から一向にレベルアップしない。
レベルアップしない理由が、階層やモンスターにあるとすれば、納得できる。
でもまあ、これはあくまで俺の予想でしかない。
次にモンスターを倒したら、あっさりと次元収納がレベルアップするかもしれない。
「おいおいレベルアップするだろうと考えていた方が、精神衛生に良いよな」
そんな結論を下した後で、新たな治癒方術がどんなものなのかを確かめることにした。
「身体に受けた毒や病気や呪いを治す、リムーブ。自分を中心に広い範囲にヒールをかける、エリアヒール。この二つか」
普通の探索者なら諸手を挙げて歓迎するような治癒方術なんだろうけど、正直俺には使い処がない。
いまのところ毒や病気や呪いを放ってくるモンスターと出くわしてないし、俺は一人だからエリアヒールをかける仲間はいない。
「ヒールでアンデッド系を倒せるように、毒持ちのモンスターをリムーブで倒せたりするんだろうか? エリアヒールは、アンデッド系のモンスターが大量に迫ってきたら使うぐらいか?」
使い道を考えつつ、俺は中層域の通路を先へと進んだ。