八十八話 第六階層、浅層域を探索
俺はトレント周回をやり過ぎてしまったのだろう。
第六階層の浅層域に出てくるモンスターを、手軽に倒してしまっている。
「ふっ。実力が伸びたことで、探索が楽々に進むぜ」
イキリ探索者の演技の練習をしながら、モンスターたちを倒して進む。
既に二匹一組で現れる場所に入っているが、魔力球とフォースヒールを使えば楽勝だし、それらを使わなくてもメイスで十二分に倒せてしまっている。
「オオアルマジロと射向日葵は魔力球の連発で、変異グールはフォースヒールで一発だしな」
スキル頼りとはいえ、ここまで楽にモンスターを倒せるなんてな。
あまりにも楽過ぎて、ついついモンスターを狩り回ってしまうため、すでに次元収納の中にドロップ品が大量にある。
俺の次元収納の容量は小型トラックの荷台と同じぐらいあるから、まだまだ入れられるし、どんどん集めていくとしよう。
「おっ、オオアルマジロと射向日葵の両方から同時にレアドロップが出るなんて、運がいい」
大アルマジロからは、解体されて開きになったような、アルマジロの枝肉がフィルムに包まれた状態で出た。
射向日葵からは、掌に納まるぐらいの大きさでヒマワリを模した見た目をした、ブローチのようなものが出た。
アルマジロの方は食用肉だから良いとして、問題はこのブローチっぽいものの方だ。
「これ、地雷なんだよなぁ……」
誰かに踏ませると、ブローチみたいな見た目のコレ全体が爆発して、破片を飛び散らせる。
なかなかの威力があり、人間でもモンスターでも直踏みなら脚を脛の中ほどから吹っ飛ばすことができるし、爆発の破片でも大怪我を負わせられるという。
しかし安全ピンのない地雷であるが故に、事故も起こりやすいという。
これは噂話だけど、地雷であると知らない頃は不用意に荷物に突っ込んで爆発して探索者パーティーが全滅したり、ブローチと誤解して頭に付けた人が誤爆で頭が消失したりという事件があったという。
そんな噂話が流れているため、この地雷ブローチは拾われずに捨てられることが多い。そして捨てる際には、他の探索者が誤って踏まないようにと、壁に投げつけての自爆処理するのが定番だという。
「ダンジョンの外では、地雷として動かないとは聞くけど」
探索者のスキルが使えないのと同じで、地雷ブローチはダンジョンの外では爆発しない。
だから役所に持って行ったところで、向日葵のブローチでしかないため、価値が低い。むしろダンジョンに入った途端に爆発の危険があるため、普通のブローチよりも価値は低くなる。
通常ドロップの油といい、レアドロップの地雷ブローチといい、普通の探索者だと射向日葵は戦うだけ損なモンスターだな。
「かという俺は、思いつきでこんな真似をしちゃうわけだけどな」
俺は、射向日葵の油と、防具ツナギの修復材として入れたままにしていた接着剤を、次元収納から取り出す。
そして接着剤をブローチの背に塗って、油の入った瓶に接着する。
接着剤が固まれば、これで爆発する火炎瓶の出来上がりだ。
「どうせ高く売れないし、使い道もそんなにないしな。実験だ」
俺は自作火炎瓶を片手に通路を進んでいくと、変異グール二匹と出会った。巨腕型と巨頭型だ。
ではさっそくと、俺は火炎瓶を投げつけた。
火炎瓶は変異グール二匹のうち、巨腕型が防御に使用した腕に命中。直後、爆発を起こした。
地雷ブローチ自体と油瓶の破片が撒き散り、変異グール二匹をズタズタにする。そして爆発で散った油が爆炎で引火して、振りかかった先の変異グールたちとその周囲を燃やし始める。
「おおう。予想以上の大被害」
燃えているところには近づけないので、俺は少し距離をとる。
変異グールは、爆発の衝撃と破片による被害からか、それとも炎で燃やされたからか、火炎瓶を食らって何秒も経たずに薄黒い煙となって消失した。ドロップ品に謎丸薬を落としたようだが、それは炎上する床で燃えてしまった。
「自然鎮火するまでドロップ品を拾いに行けないんじゃ、あまり使える手段とは言えないな」
トレントを燃やすのに使えそうな武器ではある。
しかし、この火炎瓶を作るための素材は第六階層――ダンジョンの出入口から一発で移動できる場所であり、トレントは第五階層という第一階層から順繰りに上らないといけない場所にある。
正直、火炎瓶を作れる探索者が、いちいちトレントに巻き戻るなんて真似はしない。
「後続の探索者がトレントを攻略しやすいように、作って手渡せってわけじゃないだろうしな」
流石にダンジョンが、そんな親切設計なはずはない。
俺は意味わからんものを作ってしまったなと思いつつ、地雷ブローチが出てきたら何本か火炎瓶を作ってストックしておこうかななんてことを思ったのだった。




