八十三話 トレントのドロップ品
俺が、トレントを倒して手に入れた、籠に入った色々な果物詰め合わせを役所内の買い取り受付に提出した。
すると受付職員が、ギョッとした顔を俺に向けてきた。
「えっ!? トレントを討伐なさったんですか!? お一人で!?」
どういう意図の質問かがちょっと分からなかったが、ここはイキリ探索者ムーブをする絶好の機会だとは直感した。
「おうよ! 俺一人で倒したぜ! いやぁ、すっげえ苦労したんだよ、倒すのにさあ! 根っこは伸びてくるわ、蔓も伸びてくるわ、枝が迫ってくるわで、死ぬかと思ったぜ! ま、俺にかかれば、一人で討伐できちゃうんだけどなあ!」
とても自慢げに聞こえる声色を大声で放つと、職員の顔が驚愕から愛想笑いに変わった。
「あははっ、そうなんですね。では、第六階層へ行かれるようになったわけですね?」
「そこなんだよなあ。なあ、トレントのドロップ品って、稼げたりする? 稼げるようなら、何回か戦っても良いかなって思ってんだけどさあ?」
中ボスなんて苦でもないとイキるための言葉を口にすると、職員の顔が愛想笑いから媚びる顔になる。
「もし何度も挑戦してくださるんでしたら、こちらとしても助かります。実は、通常ドロップのトレントの実と、レアドロップのトレントの香木。どちらも高く買い取っているんですよ。とっても流通が少なくて、かなり高嶺がついているんですよ」
職員がタブレットを表示させてみてみると、なんと果物の方ですら七十万円を超える値段で買い取ってくれるようだ。
役所に売れる値段が五十万円だとしたら、消費者が入手する際の末端価格は百万円は下らないんじゃないだろうか。
香木の方になると、役所が買い取る金額ですら五百万円を超えている。
「フルーツも香木ってのも、滅茶苦茶高額じゃねえかよ。そんな値段になるほど、流通量が少ないってのか?」
「トレントの実は富裕層向けの贈答用に珍重されてますし、トレントの香木は唯一無二の香りを持ってますので香水メーカーが大金を払って入手したがっているんです。ですが探索者の多くが、二度もトレントに挑むことはしませんから」
「要は、どちらも金持ちが欲しているのに、取ってくる奴が少ないから、高値で買ってくれるわけだ」
正直に言ってしまうと、俺がダンジョンに入っている目的は不老長寿の秘薬を手に入れるためなので、フルーツや香木が高く売れようとどうでもいい。
しかしトレントは強敵であるがゆえ、今後のダンジョン行を楽なものにするために、何度か挑んでみるのもいいかもしれない。
なにせトレントは、他のモンスターと違って立ち位置を動かさず、十メートルの範囲に入らなければ攻撃してもこない。だから必死で十メートルより離れるまで逃げれば、ちゃんと逃げ切れる相手でもある。
強敵かつ、条件付きながらも逃げ切れる算段のある相手なんて、俺が実勢経験を詰む相手としてこれ以上ない存在だろう。
俺は悩む素振りをした後で、肩をすくませる姿を職員に見せ、さも求められて仕方なくといった感じの態度をとる。
「そこまで言われたんじゃ、トレントのドロップ品を取りに行かなきゃ、男が廃るってもんだよな。だけどよ。せっかく苦労して手に入れるからには、高く買ってくれないと承知しねえぞ?」
「買い取り金額は決まっているので、決まり以上に高くは買い取れないんですが――価格の改定を上に申し出ることはしてみますので」
「ちぇー。ま、そんなところで手を打つとするか。じゃあ、いま提出したドロップ品の買い取り金額の査定、早く出してくれよ?」
「分かりました。こちら、整理券です」
俺は整理券を持つと、金を受け取る窓口に掲示されている番号を見て、あまり待たなくていいようだと安心した。
リアカーと共に待っていると、程なくして番号が呼ばれた。
今日の収入は、八十万円ほどだ。
俺は一度ダンジョンに引き返すと、リアカーを次元収納の中に入れ、すぐにダンジョンの外へと出た。
「さて、今日はなにを夕食に食おうかな」
今日は一直線にトレントまで行ったことで、まだ昼を少し過ぎたぐらいの時間――飲食店でランチメニューを提供している時間帯だ。
俺は東京駅近くの飲食店をスマホで検索しながら、俺の腹は何を食べたがっているのかを探りつつ、東京駅の方向へと歩き出した。




