七十六話 深層域へと歩を進め
第四階層の中層域を調べ終わったので、深層域へと歩みを進ませることにした。
とりあえず、一匹だけ現れる場所でモンスターと戦ってみたが、多少苦戦はするが倒せる相手だった。
この区域に現れるものスターは、リトルキラーマンティス、ホブゴブリン、ミドルゴーレム。
リトルキラーマンティスは、『リトル』と名前がついているが、実際は人間大のカマキリだ。普通のカマキリと同じで、両手の鎌は相手を捕獲することに使われるので、切れ味はない。しかし、その手鎌に掴まれてしまうと、リトルキラーマンティスが即齧ってくるので、鎌がナマクラだからと侮ってはいけない。倒した際の通常ドロップは、その手鎌だ。
ホブゴブリンは、人間大に体格が大きくなったゴブリンで、棍棒と革の胴鎧を装備している。身体が大きくなった分知能も上がっているようで、素人の人間よりも手強い戦闘技能を持つ。棍棒で殴られた際の衝撃で日本鎧を着てても昏倒しかねない、そんなパワーもある。通常ドロップ品は、中央にはまっている宝石の種類がランダムな、ゴブリンの勲章という木のブローチ。
ミドルゴーレムは、人間大の石材で成人男性を荒く削り作ったような見た目をしている。石の体だけあって、防御力が高く、さらに斬撃に強い耐性がありそう。武器はもっていないが、石の体の高体重が乗った拳の一撃は、下手な盾なら一撃でお陀仏になるであろう、破壊力を持っている。通常ドロップ品は、色々な卑金属を混ぜ合わせた合金の、拳大の球。
ちなみに、これらのモンスターのドロップ品の中で、最も売値が安いのがリトルキラーマンティスの鎌で、もっとも高いのが卑金属合金の球だ。
というか事前に調べたところ、ミドルゴーレムのレアドロップ品である、金や銀や胴や白金が混ざった貴金属合金の球と、この卑金属合金球は同程度の売却価格に設定されている。
どうして通常とレアが同じ値段なのかというと、卑金属球に入っている金属の種類が、現代科学技術に有用な物が多いからだ。
卑金属球の合金が含有する金属は、鉄、ニッケル、アルミニウム、鉛、亜鉛、すず、タングステン、モリブデン、タンタル、マグネシウム、コバルト、ビスマス、カドミウム、チタン、ジルコニウム、アンチモン、マンガン、ベリリウム、クロム、ゲルマニウム、バナジウム、ガリウム、ハフニウム、インジウム、ニオブ、レニウム、タリウム。
中学生の科学じゃ学ばなかったような金属が入っている――つまり、多くのレアメタルを含有している。
このダンジョンを作った何某かがいるとして、その者の常識では『卑』しいとされる金属は価値が低いから、こうして通常ドロップ品に設定されているんだろう。
けれど卑金属球にあるレアメタルは、現代地球世界では、貴金属よりも利用価値が高い金属だ。
だからこそ、現代社会は卑金属球の需要が高く、通常ドロップ品とレアドロップ品が同価格という変な現象が起きている。
探索者の多くが第四階層の深層域に稼ぎに来ているのも、この卑金属球が目当てである。
「だからといって、パーティーにいる何人かがツルハシを持っているのは、どうなんだろうな?」
俺が思わず小さく呟いてしまったように、俺の近くを通り過ぎた探索者たちの何人かが、手に大きなツルハシを持って歩いている。
確かに、日本刀で切りつけるより、ツルハシで叩いた方が、ミドルゴーレムに通用するだろうけどな。
ちなみに、あのツルハシも第四階層のモンスターに通用するようにと、鍛冶師がタタラ鉄から作り上げた一品であるという。
それにしても、ミドルゴーレムを倒すためにツルハシを使い続けていたら、俺が鈍器を使い続けて治癒方術のスキルが手に入ったように、未発見のスキルが手に入ったりしないんだろうか。
「でも、多数の探索者がミドルゴーレムを倒し続けているのにもかかわらず、新スキルを手にしたって情報を聞いたことがない。ってことは、ツルハシの攻撃は『対象への突き刺し』だから、既に判明している突き刺し系の攻撃スキルが手に入る感じだったり?」
疑問は残るが、俺の武器はメイスと魔槌なので、切ったり突いたりの攻撃系スキルが手に入ることはないだろうから、気にしないことに決めた。




