七十二話 探索順調
俺は第四階層の中層域にて、二匹一組のモンスターと戦い慣れていった。
そして危なげなく戦えるようになった頃に、三匹一組が出る区域へと進んだ。
二匹一組の状態に戦い慣れていたこともあり、三匹一組の戦闘に慣れるのは早かった。
まあ、猛牛が三匹横に並んで通路を突き進んできたときは、対処が咄嗟に思い浮かばなくて死ぬかと思ったけどな。
そうして三匹一組の相手に慣れたので、中層域の奥の区域である四匹一組でモンスターが出る場所へ足を踏み出すことにした。
といっても、四匹一組のモンスターと戦い慣れる気はない。
俺がダンジョンに入っている目的は、不老長寿の秘薬を手に入れることであって、モンスターと戦って強くなるでも金を稼ぐでもないからな。
中層域を奥まで調べて、秘薬がないと分かったのなら、もう中層域には用はないしな。
だから手早く調査してしまおうと思っていたのだけど、そうは問屋が卸してくれないようだ。
「一つの行き止まりまでは短いけど、それでも迷路状になっているなんて……」
第四階層の中層域の奥は、なんと通路が入り組んだ迷路になっていて、ちゃんと地図を確認しないと居場所が分からなくなるような場所だった。
迷路の規模自体はとても小さいものなのが救いだけど、それはここがモンスターが四匹一組で現れる場所でなければだ。
迷路というものは、先の見通しが効き難い造りになっている。
だから曲がり角のすぐ先で、モンスター四匹と御対面という場面が度々起こる。
これは大分用心しないと、不意打ちを食らってお陀仏になりそうだな。
「でも通路が迷路状ってことは、宝箱が期待できるってことだよな」
俺はウキウキとした気持ちで、迷路を踏破していく。
踏破する際、決して無茶はしない。
じっくりと通路を進み、モンスターを見かけたら、戦いやすい場所なのかを見極める。戦い難そうな場所だったのなら、引き返してでも戦いやすい場所までモンスターを誘導して戦うこともやる。ハニワ四匹みたいな防御力が高いモンスターばっかりの時は、魔槌を取り出した上で、あらかじめ振っておいて爆破機能を発動させてから戦いに挑むこともやった。
そうやって慎重に、一つ一つの通路を解明していく。
徐々に徐々に迷路が明らかになってくる中、俺の耳に戦闘音が聞こえてきた。
どうやら俺以外の探索者が、この迷路に入っているようだ。
「第二階層の迷路で俺が多くの宝箱を発見したから、第四階層の迷路にもあるんじゃないかと探しに来る人がいても不思議じゃないか」
第四階層の中層域の奥は、役所が公開しているアプリのマップでは未探索となっている。
しかし、実際に未探索なのかは誰もわからない。
本当は探索者が通路を解明しているのに、情報を秘匿している可能性だってある。
特に迷路の中に宝箱があり、その宝箱の中身が定期的に復活するのなら、情報を秘匿して独り占めしようとする探索者がいても不思議じゃない。
そして他の探索者がいるということは、この迷路に宝箱があったとしても、中身に期待ができないってことでもある。
「不老長寿の秘薬が入っていたら、もの凄いニュースになって、地図が未探索のままであるはずがないしな」
俺は自分の見解に肩を落としつつ、万が一の可能性に縋って、迷路の中にあるであろう宝箱を探す決意を再び固める。
ともあれ、戦闘音のする方ではない場所へ向かって、迷路を進むことにした。
他の探索者に近づいて、変に見咎められても損だしな。
迷路の通路の情報を埋めていく中で、俺は隠し部屋を発見した。
とある通路の行き止まりに、石壁に彫られたレリーフがあったのだ。
そのレリーフは押しても意味のない装飾だったが、その周囲を調べてみると、壁の石を押し込める場所があった。
石を奥まで押し込むと、手を入れられる空間ができ、その天井にボタンのような出っ張りがあることが分かった。
俺は手を入れず、メイスの十字架の先で、そのボタンを押した。
するとレリーフの左の壁が開き、その先に隠し部屋があったわけだ。
隠し部屋の中には、薬水が湧く休憩部屋であり、そして宝箱が一つ置かれていた。
俺が隠し部屋に入ると、入ってきた隠し通路が閉まった。ご丁寧なことに、隠し部屋の中には取っ手があり、それを引っ張ると隠し通路が開く仕組みになっていた。
「ここは隠し部屋だし、この宝箱は他の探索者が未だ発見してない可能性が高いよな」
中身に期待しながら開けると、宝箱の中にはポーションが四つと、日本刀が一振り入っていた。
ポーションも日本刀も、治癒方術が使えてメイスと戦槌の使い手の俺には、あまり有用ではない。
「他の探索者なら、大手を振って大喜びするんだろうけどな」
俺は苦笑いしながら、ポーションを次元収納に入れ、日本刀を手に取って眺める。
鞘は黒一色。柄は緑色の糸で柄巻きがされている。鍔も楕円の穴が二つあるだけで他の装飾がない。
地味や無骨と表現するのがしっくりくる見た目。
では刀身は胴だろうと、俺は日本刀の鍔を親指で押し上げて鯉口を切り、少しだけ抜いてみた。
覗いた刀身は、全体的に青白い金肌をしていて、乱れた調子の刃紋があった。そして刃は良く研がれていてとても切れそうだ。
鞘から完全に抜いて手でもってみると、手の内の収まりがいい重量バランスをしていることも分かった。
「でも、単なる日本刀だとなあ……」
ダンジョンが現れてから二年の間、日本刀の鍛冶師の技術の進歩が凄まじい。
モンスターを倒すための実践的な刀への転換が図られ、美術刀剣には不用だとして封印された技術が復活し、日進月歩で製作技術が上がっている。
玉鋼を作る際に、わざと高硬度の鉱物の砂を加えたりして、より戦闘向きの鋼材にしようという試みまでされているとニュースになってもいる。
そうした素晴らしい日本刀が買える状況だからこそ、宝箱からでた日本刀が高値で売れるとはどうしても思えなかった。
そして俺はオリジナルチャートから、日本刀を使う気は一切ない。
「海外の人も参加できるオークション行きかな」
そんな事を考えながら、俺は魔槌にやるように、戦意をこの日本刀に込めてみた。この日本刀が魔剣の類かを調べるために。
果たして結果はというと、確かにこの日本刀は魔剣の類だった。
しかしその効果は、少し謎めいていた。
俺が下げ持っている刀の刀身から、何処からともなく現れた清い水がポタポタと落ち始めたのだ。
「刀身から水が滴るって、これってどういう意味があるんだ?」
謎の効果に、俺は困惑する。
困惑ついでに、もともと使う気がなかったこともあり、俺はこれ以上の検証は止めることに決めてしまう。
俺は戦意を止めると、水の滴りが止まった刀を振るって水滴を飛ばしてから鞘の中に収め、そして次元収納の中に入れてしまう。
結局のところ収穫とは言えない結果になって、俺は気落ちしてしまう。
折角の休憩部屋だしと、俺は身体に治癒方術のリフレッシュをかけてから、短い仮眠を取ることにして、気力の回復に努めることにした。




